ちょっといい?さんにそう尋ねられて、部屋のソファに腰を下ろしたのは数分前のこと。
さんのお願いというか誘いを断るわけがない僕はもちろん、いいよと返事を返した。
ただその時少し不思議に思ったのは、さんがいつもと違って少し挙動不審だということだった。
けれどその時はさほど気にもしていなかったので、そのことには触れずにおいた。
きっと僕がその理由を尋ねずとも、これからのさんの言葉ではっきりするだろうと思ったからだ。
「あ、あのね!」
向かいのソファに座るさんは、丸めた両手を膝に置いて背筋をぴん!と伸ばしている。
どうやら緊張しているようだった。
その様子があまりにもあからさまだったので僕は少し笑いそうになってしまったけれど、
なんとか笑いを堪える一方で、
何かあったのだろうかとますます不思議に思うばかりだった。
「なに?」
首を傾げてさんを見つめれば、さんは一瞬大きく肩を揺らしてから顔を赤らめた。
な、なんなんだ?自分の気付かないうちに僕はなにか変なことを彼女にしてしまったのだろうか。
「さん?」
『あのね!』の先を促そうと僕はさんに問いかける。
けれどいつの間にかさんは俯いてしまっていたから、僕は再度首を傾げた。
しばらくして、さんが膝の上で両手の拳をぐっと握り締めている様子が目に入った。
僕がその姿を見つめていると、さんがゆっくりと顔を上げて再び僕を見据えた。
思わず僕はきょとんして彼女の顔を見つめ返す。
ほんのり赤味が差した頬は、さっきと同じままだった。
「私フゥ太のこと、」
思わずこちらが恥ずかしくなってしまう程の真っ直ぐな瞳でさんが僕を見つめてきて、
僕は何も言えずにいた。
それでも朱に染まった頬とやはり少し俯きがちで恥ずかしそうな表情から、
僕はその先に続くであろう言葉に気付くことになった。
「…フゥ太?」
「え?あ、ご、ごめん」
この後さんの口から発せられるだろう言葉に気付いてしまった僕は、
驚きから我を忘れてしまっていたらしい。
さんに呼ばれたことで、意識がはっきりしてきた。
思わずどもりながら何とかそう答えれば、さんは苦笑いを浮かべていた。
「ここまで言えばもう、わかってる、よね?」
眉尻を下げて困ったように笑う彼女の頬は、もうずっと赤いままだ。思わずこちらまで赤くなってしまう。
わかってる、わかってるけど、肝心な言葉が欲しい。
最後まで言ってくれないなんてずるいよ、さん。
はっきり言ってもいないのに、僕にその先の言葉を予測させようなんてずるいよ。
だから僕はわかっていたけれど、うん、とは言わなかった。
「わからないよ」
「えっ、で、でも、」
「最後まで言ってくれなきゃわからないよ、さん」
僕がさんをじっと見つめてそう言えば、さんは頬だけじゃなく、顔全体を一気に朱に染めた。
相当な鈍感でなければ、きっと誰でもこの状況でこのあとに続く言葉を予想できるだろう。
でも聞きたいんだ、最後までちゃんと。
僕に予測させるんじゃなくて、さんの口からちゃんと最後まで聞きたいんだ。
だから、ね?
「最後までちゃんと言って?」
僕が強請るようにそう言えばさんはまた困ったように眉尻を下げ、一度唇を噛んでから決心したように目を細めた。
その先がききたい
タイトル配布元様 /
Seacret words
(20080311)
(20201005)修正