恐らく勘違いではないと思う。
最近妙に彼と目が合う。彼、というのはフゥ太のことだ。
たまたま彼に視線を向ければ、何故か毎回視線が合ってしまう。
嫌なら私が彼を見なければ良いだけの話だが、
意識すれば意識するほど、フゥ太の方を見てしまう。
そもそも彼と視線が合うのは嫌じゃないし、むしろ嬉しい。
視線が合えばいつも必ずフゥ太は優しく微笑んでくれる。
あの天使のようなもう言葉では表現できないような爽やかな笑顔で。
私はフゥ太のあの笑顔が大好きで、見る度にどきどきしてしまう。
胸を鷲掴みにされるような感覚だった。
もう良い大人に成長したフゥ太には申し訳ないが、
例えるならチワワのような小動物の無邪気な姿を見た時のような、
可愛くて可愛くて思わずわしゃわしゃと可愛がりたくなるような、もうどうしようもないような気持ち。
現にこんなことを考えている今も、綱吉の隣で立ち話をしているフゥ太を見つめてしまっていた。
あ、笑った。今日も可愛いなあ、なんてまるで姉のような微笑ましい気持ちで胸が一杯になった。
あの物腰の柔らかさは割と綱吉と似ていて、
私にとっては2人が並んで立つと兄弟に見えてしまう時さえある。
「さん?」
「うぎゃあ!!!」
穏やかな気持ちで一人そんなことを考えて完全に意識を余所に飛ばしてしまっていたところに、
背後から突然声を掛けられたせいで、とんでもなく可愛らしさの欠片もない声が出てしまった。
「ごめんね、そんなに驚くとは思わなくて」
「ふ、フゥ太!」
どうやら綱吉との話が終わったらしいフゥ太がいつのまにか近くに来ていたようだった。
それにしてもなんということだ…今まさにチワワのように可愛らしいと思っていた相手に、
自分のこんな性別が真逆のような野太い声を聞かれてしまうとは…不覚でしかない。
「さん、さっきからずーっとぼんやりしてるみたいだったから、ちょっとびっくりさせてみようかなって思ったんだけど」
あはは、と笑いながら「でもそんなに驚くとは思わなかった」とフゥ太は続けた。
まるで悪戯に成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべたあと、
少し困ったような顔になってフゥ太は「ごめんね?」と呟いた。
その少し困ったような顔がまるで寂しそうな子犬がじゃれてくる姿のように見えてしまって、
その可愛さにまた胸を鷲掴みにされたような気分になり、
思わず胸に手を当てて動悸を抑える。…今日も癒しをありがとう。
「さん?」
「え?あ、ご、ごめん、なんだっけ?」
その子犬のような表情に思わず見とれてしまい、言葉もなく癒されていると、
フゥ太が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「何か今日変じゃない?ずっとぼんやりしてるけど、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ちょっと考え事してただけ」
「…何かあった?」
「やだな、何にもないってば」
まさかあなたが可愛すぎてずっと見とれているんですと言うわけにもいかず、
必死に誤魔化した。
せっかくフゥ太が自分を心配してくれているというのに不純な自分が恥ずかしい。
「考え事ってなんのこと?」
「大したことじゃないよ」
「もしかして…僕のこと?」
「えっ」
「だってほら、最近よく目が合うでしょ」
「は、はあ」
「だからさんって、もしかしたら僕のこと好きなのかなあ、って思ってたんだけど」
優しく微笑んで少し自信なさげに「違った、かな?」と付け加えられた言葉に、
一瞬にして自分の体中の全ての機能が停止した気がした。
呆然としたのも束の間、改めて先程のフゥ太の言葉の意味を理解して、
一気に頬が熱くなる。
否定も肯定も出来ず黙ったままでいると、
そっと近付いたフゥ太が私の顔を覗き込んで、
例のチワワのような可愛らしい笑顔でまた私の心を鷲掴みにするのだ。
「でもさんの答えがどうであれ、僕はさんのこと好きだよ?」
幸せの予感
そんな瞳で見つめられたら、本当は自分も彼が好きだったんだと、自覚するしかないでしょう
タイトル配布元 /
Seacret words
(20080227)
(20200920)修正