「例えばですね」



ぴん、と細い人差し指を立てながら、彼女は口を開いた。



「一生懸命に何かしてる中、いい匂いがしてくるとします」



ゆっくり、くるくると回される人差し指。きっとその頭の中には、香り豊かな焼きたてクッキーが浮かべられていることだろう。



「匂いを辿って、休憩がてらお散歩に行くと思うんです。で、そしたら目の前に大好物があったわけですよ。」



この時点であまり同意が出来ないが、彼女が何を言うかなんて始めからわかっているので、敢えて触れない。



「気がついたら、一枚減っちゃってたわけです。不思議なことだけど、よくあることですよね」

「………ふふっ」



なんて不器用な言い訳だろう。そういう意味でも、相変わらずというかなんというか。



「食べたいなら食べたいと、せめて一言断りを入れなさい」

「え、何の話ですか?あくまで例え話ですよ。」

「その例えはクッキー限定の話なのですね」

「………?」

「一"枚"減ってしまうのでしょう?」



ぽかんとした口から「あ」と小さく声が漏れた。また吹き出しそうになる。



「今日のおやつは、皆さんより一枚少なくなってしまいましたね?」

「えぇっ!!?
――――え、あ、いや、だから何の話ですか」

「おや、ジジイが作ったクッキーなんかいらないという意味ですか。寂しいですねぇ」

「………すいません。降参」




罰が悪そうにそう呟いた顔がそれはそれはおかしかったので、私は自分の一枚をそっと彼女の皿に乗せてやった。






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突き止める




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