全てが、たった一度の鼓動の音に掻き消された。
ぶれる視界。人の形が無いから、たぶん仲間は周りにいない。助けて、と思う暇も無かった。魔物の鋭い牙だけが、やけにくっきりと光って見えて。
全身の血が、引いてゆく――
「―――――んあ…?」
ぼあっとした声を出しながら、宿屋のベッドの上で彼は意識を取り戻した。
私を助けてから既に5時間程経っている。幸い私の自宅である宿屋が近かったので、すぐに処置が出来た。
命に別状は無い。が、包帯の白が目に痛かった。
辺りをうろうろとした寝ぼけ眼が私を見つけるのは、そう時間がかからなかった。
結ばれる視線。
さあっと色が変わる顔。
「レイア!」
私より一回り大きい身体が、
「きゃっ!?」
椅子ごと倒されるかと思う程の勢いでタックル―――否、抱きついてきた。
「ちょ……ちょっと」
「怪我は無いか!?無事か!?あっ突き飛ばして悪かった!俺馬鹿だから気がついたら身体が勝手にっ痛かったよなごめん!!」
「だ、大丈夫。だから――」
しっかりと背中に回された腕を外そうとして、まくし立てる彼にそう言うと。
「本当か?………よかった」
それまでの、まるで死人が出たような表情が一変。
「本当に、よかった」
「…………」
優しい声。天使みたいな笑顔。
ついでに、更に力が込められる大きな手。
起きたら言おうと思ってた言葉も、振り払おうとした手も、そのぬくもりにすっぽりと包まれてしまい、私は小さく微笑むしかなかった。
Laugh笑う
あと3日!