「おいこら」
ひょいと難なく持ち上がる、細っこい身体。
大人しく俺の手から垂れ下がったのは、ほんの数秒のみだ。
「見つかっちゃった!」
「いい加減にしろよ。もう面倒だ」
次次!ともがく姿は生粋のガキ。エリーゼと足して2で割ったらたぶん丁度いいんじゃねぇの、とかぼんやり思う。
「かくれんぼしようって言ったのはアルヴィンじゃない」
「言ってねぇっつの。勝手に遊んでろって言ったんだよ」
「だってせっかく新しい街に来たんだもの、じゃあかくれんぼしかないじゃない」
「はぁ?」
こいつの言うこと成すことをしっかり理解出来たことは、たぶん無い。
例えば、何時でも彼女は猫耳を付けた派手な格好だ。ご丁寧なことに尻尾もついている。
つけている猫耳カチューシャを引っ張ろうとしたら、ふしゃー!!とか言われながらまた暴れだした。爪が手の甲をかすって熱をもつ。
ため息だけが無造作にカウントされた。
「俺まで巻き込むな」
「かくれんぼは見つけてくれる人がいないとつまらないわ」
「……あのなぁ」
もうすぐ日が沈む。
――俺の時間だ。
服を掴んでいた手をぱっと離すと、身軽な少女は尻餅をつくこともなく着地してみせた。
「ほら、遊びは終わりだ。皆も心配してるんじゃないか?とっとと帰れ」
「アルヴィンは?」
「俺は俺でやることがあんの」
俺は歩みを止めない。進行方向に、頭に小さな三角が二つくっついた影が長く伸びている。その隣をそっと追い越した。
瞬間。
影は、笑った。
「情報収集は済んだんでしょう?」
意識が両耳に一気に集まった。
「初めて来た町だもの、かくれんぼが一番よねぇ」
ちらと振り替えれば、彼女を覆っているのはかくれんぼで見つけてやった時の笑顔。
長めの尻尾が、愉快そうに揺れる。
「"皆が心配してるから帰れ"ねぇ…あんたの口からそんな言葉が聞けるとは」
「…………」
「人は変わるもの。でも」
少女の顔には歪んだ月が、ひと足早く浮かんでいた。
「本当ノ貴方ヲ、見失ッタラ駄目ヨ」
「…………化け猫め」
影の消えた空間に、ため息の変わりに呟く。
彼女を見つけるところは酒場だったり情報屋だったり、普通の宿屋かと思えば、そこのオヤジはここいらの裏を占めているボスだったり。
完全に読まれていた、というわけだ。
引っ掛かれた傷に、思わず嫌悪感を抱いてしまう。
俺の手の甲には明らかに、「I」と刻まれていた。
「I」…つまり、「I」のつく場所へ行けと、そういう意味だろうか。
彼女の言うこと成すことをしっかり理解出来たことは、たぶん無い。
空には、何も知らない月が浮かんでいる。
その光をねめつけながら、俺はアイテム屋へと足を運んだ。
Imitationにせもの
あと4日!