「起きたか」
うっすらと開いた目に声を掛ける。
普段はうざったいほどに明るい顔が、当然のことながら疲れきったようにぐったりとしていて、何となく新鮮だった。
「…………私……」
「無茶しやがって」
と、その一言で意識が一瞬で覚醒しきったようだ。
勢いよく起き上がろうとした体から、掛け布団が剥がれた。
「いっ――」
「やめとけ。大人しく寝ていろ」
「………………」
きつく言ったわけではないが、不愉快だと顔に書きながらも彼女は素直に布団に入る。
これで「嫌だ!修行する!」とか言われたらどうしてやろうかと思っていたので、少し安堵した。
二人で任務中。
襲ってきた魔物自体は大したことはなかった。
ただ、如何せん数が多すぎたし、こちらの状況も悪かった。
鮮明に甦る、崖向こうの世界へと消えていく姿。
「アッシュ」
「何だ」
「あの子は?」
「……あぁ、ほぼ無傷で帰した」
「そっか。」
任務に向かう直前。
血相を変えた女が、子供がどうのこうのと周りに助けを乞うていた。
余計なことを言い出す前に声を掛けようと考えた時には、既にこの屑は目を変えていて悪い予感が当たった。
たまたま任務中に子供を見つけたはいいものの奇襲され、魔物の大群から守るべく崖から一緒に落ちて自分だけ重症を負い、今はベッドに押さえ込まれてるなど俺にはこいつが馬鹿にしか見えなかった。
「…アッシュは怪我ない?」
「屑が。俺があんな雑魚如きにやられるわけないだろう、お前じゃあるまいし」
「………屑の上に雑魚扱いですか…」
はいはい、元気そうで何よりでーす。と彼女はつまらなそうに目を逸らしたが、次の瞬間にはもういつも通りの笑顔を難なく作っていた。
「ありがとう」
「……何の話だ?」
「教団まで私を運んでくれた話と、あの子をちゃんと帰してくれた話と、私が起きるまで傍に居てくれた話」
「………お前起きてただろ」
「寝てたよ!アッシュがやることって案外わかりやすいって話も付け加えようか?」
あーうぜぇ。いつものうざさが勢いを取り戻し始めている。この調子なら早い内に仕事に戻ってくるだろう。
「アッシュと私さ、似てるよね」
「どこがだ」
「弱いものを助けようとするところとか」
「お前の思考回路と一緒にするな」
心底嬉しそうに言うこいつの顔を見ると苛立ちと頭痛が増えるだけだが、不思議と俺は視線を外すことはしなかった。
スキ。
……とは言わないけれど。
あと1日!