「おぉ、美味そうだな」



ケセドニアは暑い。
もっと南東に向かえばゆだるような暑さに歓迎されるが、この街を歩くだけでも、ここはその入口なのだとつくづく思い知らされる。


なので、自由時間といえども俺は外に出ないで宿屋でゆっくりしていた。ここにはめぼしい音機関もないからなぁ。



と、俺の名を呼ぶ可愛らしい声が届いたのは、つい数分前のことだ。

暑いから、とアイスを作ったという彼女は、俺にご馳走してくれるという。
宿屋に残っていたのは俺と彼女だけ。とんだラッキーだな。



「そこまで美味しいものじゃないと思うけど」

「何言ってんだよ、君が作ったんだから美味いに決まってるだろ」


と、その顔がみるみる内に火照っていくのがはっきりわかった。


「あ…ありがとう…。
で、でもアニスとかだったらもっと上手だと思うよ」



誤魔化すように、彼女はシンプルなドーム状のそれを二つテーブルに置いた。

俺としては事実を言ったまでだが、相変わらずウブな反応が可愛いと思う。



「どっちがいい?」

「君はどっちが食べたい?」

「ガイが選んで。私はどっちでも構わないから」


仲良く並んでいる、白いアイスと茶色のアイスの皿。たぶん、俺が食べたい味に応えるためにわざわざ二種類作ったのだろう。


「そうだなぁ…」


二つの山を交互に見る。どちらも美味いのは承知の上だが、だからこそ一つに決められなかった。幸せな迷いだと思う。


彼女の顔を窺うと、僅かに首を傾けた彼女と目が合う。微笑みを送ると、二つほど瞬きが返ってきた。妙案を思いついた。大丈夫、触れなければ。



「じゃあ、半分こしよう」

「半分こ?」

「あぁ」


と、次の瞬間、あどけないその表情がふっと曇る。
あれ、嫌だったかと内心冷や汗をかいたその時。


「ごめん、二つずつ用意すればよかったね」

「え」



しょぼんと肩を落とす少女。そんなことで、と思った自分がいたのも事実だが、不意の可愛いさに胸がきゅっと締め付けられた。



「違う違う、二人で半分こっていうのがよかったんだ」

「………そうなの?」

「あぁ」

「……そっか、ならよかった」



あんず色に染まるその表情が、俺は一番の大好物だなぁなんて思いながら、でれでれに溶け始めたアイスの真ん中に、スプーンを差し込んだ。








アマービレ
〜 愛情を込めて。優しく。





あと3日!


















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