「………………退屈ですわ」


何度目の呟きだろうか、自分でもわからなかった。


重い腕でカップをソーサーに戻す。飲み干した紅茶はすっかり冷めていて、渋みだけが舌に残った。


恨めしげに見上げた窓枠の外は、相変わらずの雨空。それも、すぐ先が見えないほどの土砂降りだ。



…今日はせっかく、彼と出掛ける日だったのに。

会ったらこんな話をしよう、彼の旅の話はどんなだろう、そうだ一緒にあそこに行こう―――と考えていたプランは、叩きつけるようなその音と共に流れていってしまった。



「………はぁ………」


勝手に零れる溜め息。これも何度目だろう。既に部屋中の空気は重苦しい息でぎゅうぎゅう詰めだった。

注ぎ直した紅茶を口に含む。さっきよりも温かいものの、あまり気持ち良く飲むことが出来なかった。



それさえもちびちびと飲み干した頃、軽いノックの後に聞こえたメイドの声。


「ナタリア様、お客様がいらしております」

「……客人?」


先程までの気分もあって思わず訝しげな声が出る。
わざわざこんな大雨の中、一体誰が…………


「お通ししてもよろしいでしょうか?」

「…えぇ、構いませんわ」


迷いつつもそう答えると、開いたドアから現れたのはメイドではなく、今日会うはずだったその顔。



「――――!!」

「ご機嫌麗しゅう、ナタリア殿下。…なんちゃって」

「…あ、貴方…どうして」

「ん?あれ、今日は会う約束だったよな」

「そ…それはそうでしたけど、こんな雨じゃ…」

「な。雨凄いな。ちょっと痛かった」

「な………」


漸くその全身を見渡せば、滴る程ではないにしろ、彼の体は頭のてっぺんから爪先までぐしょ濡れで。


「貴方…まさか、外で待ってたんですの!?」

「ははは、違う違う!」


と、彼はいつもの調子のまま続けた。


「どうしでもナタリアに会いたかっただけだよ。
きっと今頃つまんなそうに空でも見上げてるのかなぁって思ったら、気がついたら城の前にいた」

「………!!」

「大丈夫、心配しなくても旅のお土産は濡れてないから」

「―――そんな心配はしてませんわ!」


あっはっは、と快活に笑うまだ湿気の残る顔に、もう一度溜め息が零れる。

でもそれは、先程までのものとは違う、悪くないもので。



呆然と立っていたメイドに、新しい紅茶の用意を頼んだ。



今度のティータイムは、貴方のお陰で退屈にならなくて済みそうですわ。







3杯目の紅茶




あと6日!


















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