*グロテスク表現注意








雨の流れる音がしていた。



さあさあ、ばたばた、ぼたぼた



ぴちゃ、と貴方の右足が半歩遠退く。



さあさあ、ばたばた、ぼたぼた



動かない眼球では、もう一度その表情を確かめる事が出来ない。

カメラを置いたような映像が、ただ空白のような時間の流れを映していた。



さあさあ、ばたばた、ぼたぼた





―――――私は今、どうなっているのだろう。



いつもの通りだったはずだ。

いつも通り、貴方と一緒に"じゃれあって"いた。



貴方の指が首に食い込む感覚。

貴方の歯が耳を引き裂いて。

踏まれた手の甲が砕ける音がした。



楽しかった?

私を弄んで。




私は楽しかったよ。


あぁ、愛されてるんだなって思った。


痛みの分だけ、傷の数だけ、貴方が愛してくれているのだと知っていたから。




貴方は、とっても寂しがりなだけなんだよね。


自分を見てくれる人、どんな自分でも受け入れてくれる人が欲しかったんだよね。


ただそれだけのことを、どうして皆わかってくれなかったんだろうね。

貴方の理解者がいなかったことが、とっても悲しいよ。



でもきっと、私より貴方はずっと悲しかったんだよね。



いつもは美しい三日月を型どるその唇が、

いつもはその喉から溢れ出すような甘い笑い声が、

今日は、違った。



だから、言った。

そんな表情をしてほしくなくて。



そしたら、今度は、

その瞳が変わった。


唇は歪み、

喉が僅かにひくついた気がした。




さっきまで穴が開くという程見つめていたはずの顔なのに、何でだろう、頭に白い光の塊が現れていて、もう上手く思い出せない。


あぁ、消さないで
と、どこかで漠然と思った。


ほんの数瞬でも、私の中の貴方を繋ぎ止めておきたくて。


だから貴方の名前を心の中で呟いた。





………サレ………





さあさあ、ばたばた、ぼたぼた



それは、私の体の血が床へと流れ出る音だった。



さあさあ、ばたばた、ぼたぼた



それは、視界の端に突き刺さる銀を伝う血の音だった。



さあさあ、ばたばた、ぼたぼた



それは、光の塊が視界の映像を掠れさせる音だった。



さあさあ、ばたばた、ぼたぼた
















どれぐらいの時が経ったのかとか、どうでもよかった。



彼女の開かれたままの瞳に、蝿が止まった。

僕はそれを黙って見ていた。



目の前の女は最期、アンデッドみたいな声で僕の名前を呼んで死んだ。





この光景は何度も目にしている。

だって、飽きた玩具は壊して遊ぶしかもう道がないだろう?


なのに、なのに。


何だこの気持ち。

何だこの気持ち悪さ。

吐きたい。今すぐ吐きたい。




そもそもこの女、キオノは違った。


何をやっても何をやっても、

彼女は泣かず、

叫ばず、

乞わなかった。



顔色を赤や土や青に染めながらも、最後に必ず微笑んでみせた。

いつも同じ声で、僕の名前を呼んでみせた。

僕を見つめる目を、変えないでみせた。






……………………怖い。


怖い?
僕が恐怖を感じているだって?


……………………怖い。


そんなはず、ない。
そんなはず…



――――――――怖い。




そんなキオノが、初めて乞うた。


殺して、と。
愛して、と。




だから僕は特別に、その望みを叶えることで彼女を愛した。






特別。

あぁ、そうか。

キオノは特別だったのか。

僕にとってキオノは、特別な存在だったんだ。

今まで通りの玩具と同じ台詞を吐いた。だから安心した。

でもキオノは玩具じゃなかったのか。
"人間"だったのか。

僕は"人間"を愛したのか。




一人の少女の、健気な物語。



とんだ三文芝居。



それでも、嗚呼、

沸き上がるこれが何か知りたくなくて、
この気持ちに気付きたくなくて、
僕は君みたいな微笑みをつくった。




さあさあ、ばたばた、ぼたぼた



それは久しぶりに見た雫が、広がる赤に混ざる音だった。








"哀"




初めて見た。あなたのそんな顔


















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