コピー
波の音がそのまま心に押し寄せる。 起きたばかりの太陽はまだ準備中なので、 冬のすがすがしい朝の空気は凍っている。教会の前に広がる壮大な波間に近づけば、余計に寒く感じるのは当たり前だろう。でもこれが私の日課だった。 朝、太陽と一緒に起きて世界を見渡す。波の揺らめきが光を取り戻していく様をゆっくりと見届ける。月の神聖な光とはまた違う、歌うような優しい光。海と一緒にその光を浴びて、私の一日は始まる。 時折背後のマーテル教会を振り返る。教会の建物は元々美しいと思っているけど、朝日の色を纏っているこの瞬間はまた格別だったから。 そうして振り返るまで、私は一人だと思っていた。 「きゃっ!」 かなりの至近距離で目があったのは、他でもないテセアラの神子様。「よう、ハニー」なんておどけてみせるのは相変わらずだった。 「ゼロス様……!お、お久しぶりです」
「おぅ。全くよ、こんなに近くにいても気づいてくれねえところとか本当変わってねぇな」 「ど、どうして声を掛けてくださらないんですか……!」 「だぁって、ここまで近づけばフツーわかるだろぉ?はあぁ〜俺様悲しい」 おいおいとオーバーな泣き真似をしてみせるゼロスに反射的に謝ると、彼は満足そうにでひゃひゃと笑ってみせた。 「それで、どうされたんですか?」 「ん?」 「だって、こんな早朝に」 「あ?あぁ。キオノに会いに来たんだよ」 「……私に、ですか?」 「おぅ。なんだよ、邪魔だったか?」 「いえ……。」 「……疑ってるだろ?」 「はい」
即答するとゼロスの肩がズルッと滑った。 だって不自然過ぎる。こんな下級の祭司に過ぎない私に、しかもこんな早くに会いに来るなんて。 「いいだろーが別に
。俺様が二人っきりで話したいなんて思うの、キオノとだけだぜぇ?」 「その台詞、今まで何人に仰ったんですか?」 「……素直さも健在で何よりだよ、ホント」 やはりこんなやり取りをしに来たわけではないだろう。しかし考えれば答えは案外早く見つかった。 なぜ世界の神子と祭司の一人に過ぎない私が知り合いなのか。その繋がりである一人の少女の顔がくっきり浮かぶ。 「もしかして、セレス様、ですか?」 キーワードを呟いたその一瞬、ゼロスの表情が消えた。それはきっと、正解である確かな証拠。 「セレス様なら元気でいらっしゃいますよ」 彼の妹であるセレスの身の周りの世話は、主に私の仕事だった。私の日課のもうひとつは、彼女を起こしに行くこと。今日だってきっとそうするだろう。
「……あ、そ」 思っていたより、素っ気ない声だった。 誤魔化しはぐらかさ
れるかと思っていたので少し驚く。 「あいつ、何か怪しいことしてない?」 「え?」 「メルトキオの闘技場で見かけた」 「……はい?」 止まった私の顔を見て、ゼロスは薄く溜め息を吐いた。 「やっぱり抜け出してやがったのか。そりゃそうか……」 一人で納得するゼロスに待ったを掛けたかったが、ゼロスにくるりと背を向けられ、阻まれてしまう。 「ま、キオノなら任せられるしな。……アイツのこと、みててやってくれよ」 そう言うとゼロスはこちらと目を合わせずに歩き出した。まさかこのまま立ち去る気なのか。流れそうだった自我を慌てて引きずり戻して、私は声を放った。 「セレス様には会っていかれないんですか!?」 彼の足が止まる。ほっとしたのも束の間、
「会ってもしょうがねぇだろ」 波の音が
うるさいと思うほど、それは小さな言葉。 「アイツなんかより俺様に会いたがっているハニーは五万といるしな!!」 でひゃひゃ、という笑い声は、先程とは違い酷く乾いているように感じた。 また立ち去ろうとする背中に、たまらず叫ぶ。 「ゼロス様!また来てくださいね!!」 今度は彼は立ち止まらず、代わりに片手をあげてみせた。 太陽の色をした長い髪が、潮風に靡いていた。 <font size="6"font color="ff6666">まるでそれは包み込むような、</font> <font size="-3"font color="777777">普段とは違う彼なりの愛情</font>
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