*未プレイにつき、キャラ崩壊注意
*企画からお越しくださった方→Re name







知るとか理解する、というよりは……感じる、といった方が近い気がした。

酷く漠然としていて見えないのに、じわり じわりと、見知らぬ何かの手のひらが背中を這っているような不安は、悪夢のように私にまとわりついていた。

確実に蝕まれていく感覚は、やがて確信に変わってしまう。
誰かに否定してほしかった。あなたに否定してほしかった。

でもやっぱり私は予感している。
そんなやり取りは、私にもあなたにも、透明な生傷を増やすだけなのだと。

袖口をつまむ。彼が振り向く。


「キオノ?」


心の影は、私から言葉を奪ってしまう。
声を絞ろうとしても、熱い空虚が喉を焼くだけで、何も出てこなかった。


アルヴィンは、彼は、優しい。
優しさ故に暗闇を選ぶような人だった。
黒い鏡に顔を呑まれながら、それでも周りや自分に悲しい笑顔を向けてしまう人だった。


「どした、そんな顔して。いつものノーテンキなおたくはどこ行ったの」


そんな明るい言葉で、私を慰めようとする。優しいぬくもりで、私を癒やそうとする。

何かを思うより先にこぼれたのは、涙だった。



「おっと……何かあったのか?ん?」


決して責めたり急かすようなニュアンスは含まれていない表情。


視線を落とした私を、アルヴィンは腕を引いて自分の膝の上へと私を招いた。

彼の首筋や、顎のラインが視界に収まる。

後頭部を滑っていく、彼の指があたたかい。

私の涙が、私の手を取るアルヴィンの手の甲に落ちて、彼の肌はそれをじんわりと吸い込んむ。

ああ、いつもそうだ。
彼は私の涙を受け止めては、代わりにぬくもりをくれる。



「………アル、ヴィン」

「ん?」

「………冷たい?」

「え?」

「悲しい涙は、冷たいって、言うでしょう」

「……悲しいのか。本当に、どうしたよ」

「わかん……ない。でも、アルヴィンに、触れたかった……」


拙く文章を綴る私。何か考えるように視線を泳がせる彼に、ごめんと付け加えた。いくらか落ち着いていた頭で反芻してみると、我ながら何をしているのかわからなかった。

いくらかの空白で塗りつぶされそうになった頃、アルヴィンはこんな事を言った。



「キオノ、ありがとな」


やけに含みのある言葉に、意味が解らず彼の目を見上げる。アルヴィンは困ったように笑ってから、呟いた。



「お前が泣いてくれるから、俺は泣かなくて済むんだろうな」




その、肺の奥から絞り出すような声に、割れた仮面のような危うい表情に、はっとさせられた。


――私が突然襲われるこの不安は、ひょっとして……アルヴィン、あなたのもの?


彼のなかでは、底のないあの不安がいつも渦巻いているのだろうか。
今にも崩れそうなその仮面に、自身ですら気づかぬうちにその影を押し込んで潜ませていたのだろうか。



「ア……アル、ヴィ……」

「あー待て待て、そんなこと言っちったけど、俺はキオノが笑ってる方が好きだからな?だから泣かなくていいんだからな?…………

泣かないでいいんだっつーの……」


そんな歯止めの言葉もむなしく、止まりかけていた私の涙はあとからあとから溢れてしたたってゆく。胸の痛みは、懐かしい古傷から零れる赤い血に似ているような気がした。


「キオノ」


伝う雫でびしょ濡れの私の首にそっと頬を寄せながら、アルヴィンは微笑む。



「お前の涙は、いつもあったかいな」










Defecator






俺はそんなに綺麗に泣けないと彼は言った。そんなことない。だってこれは、あなたが流している涙。









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夢時間泥棒様に提出させて戴きました。

(Defecator=浄化する人)



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