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結局あのFBI対公安警察の攻防戦があってから一度もあの人に会えていない。
メゾンモクバに帰ってきてはいると思うからすっかり嫌われてしまったのだろうか…
そんなに気になるなら自分から会いにいけばいいじゃない…
でもやっぱりなんとなく気まずいし確かめるのが怖い…
そんな事を思いながら日々を過ごしていたら赤井さんから呼び出されたので工藤邸に向かった。
ジョディとキャメルも呼ばれており、有希子さんに見てもらいながら赤井さんは沖矢昴に変装した。
ジョディとキャメルは変装後の赤井さんを見て驚いていた。まあ見た目や声だけでなく性格まで別人になっている為気持ちは分かるが…
赤井さんが1人で変装できるようになった為会いに来る口実がなくなってしまったと有希子さんは残念がっていた。そんな有希子さんはフライト時間は大丈夫なのかと赤井さんに聞かれると少し慌てた様子でコナン君の頬にキスをして工藤邸から出てタクシーで空港へ向かった。
「葉月はシュウが沖矢昴として生きていた事を知っていたのよね?」
「ええ、コナン君にアシスト役を頼まれたからね。来葉峠で水無怜奈に車の窓越しに空砲が出る拳銃を渡し、計画実行後に再び車ですれ違って拳銃を回収。血糊まみれの赤井さんを車に乗せてこの工藤邸まで運び、スタンバイしていた有希子さんにバトンタッチ。これがあの日の私の仕事だったのよ」
実際にあの人が赤井さんの姿で私達の目の前に現れたのでコナン君の作戦通りに皆のリアルな反応をあの人に見せる事ができた。それでも足らずあの人は執拗に赤井さんの事を探っていたが…
赤井さんによるとあの人の自分への恨みは相当根深いらしい…
理由はおそらく赤井さんが『彼』と言った人物の事…
その話をしようとしたら少年探偵団がやってきた。
少年探偵団になぞなぞを出題され、コナン君達はリビングへ、私達はキッチンへと分かれた。赤井さんがなぞなぞの答えを教えてくれた後ようやく本題に入った。
今朝赤井さんに水無怜奈からたった3文字『RUM』と書かれたメールが届いたそうだ。赤井さん曰くボスの側近でジン以上の大物らしい。そんな人物が動き出したとなれば今まで以上に気を引き締めなければならない。
暫く経ってからジョディ、キャメル、少年探偵団が帰ったので私はコナン君に話しかけた。
「ねえコナン君、あの人は元気そう?」
「あの人って安室さん?」
「うん…」
「じゃあ明日一緒にポアロ行こう!」
「ええ…」
という事で翌日私はコナン君と一緒にポアロに入った。
「いらっしゃいま…」
私達の姿を見ると安室さんは切ない表情を浮かべた。
「うそつき」
「君に言われたくはないさ」
「ふふ」
「葉月さん、あなた全て知ってましたね…」
「ええ…ボロが出ないようにあなたの前から姿を消したけど…会いたかった…今晩うちに来ませんか?」
「まだお昼ですよ。随分と大胆なお誘いですね」
「違います!色々とお話したいだけです!」
「そうですね。では伺わせていただきます」
そして約束通り来てくれた。
「久しぶり…いいえ…はじめましてかな?降谷零君…」
「そうだな…」
やっぱりなんだか気まずい…何か喋ってよ!安室透と違って降谷零はあまり喋らないのかな…こうして会ってくれたから嫌われてはいないと思うけど…
「なあ…どうして葉月はFBI捜査官になろうと思ったんだ?」
「あれは11年前、高2の時に私が修学旅行で東京に来ている間両親はニューヨークに結婚記念日の旅行に行ったんだけど宿泊先のホテルの爆発に巻き込まれて亡くなったわ…」
「っ…そうだったのか…」
「ええ…両親を亡くして身寄りがなくなった私は幼い頃から仲良くさせてもらっていた近所の遠山のおっちゃんに、大阪府警の人間にニューヨークで起きたテロの真相を突き止めることはできひんけど側におることならできる、と言われておっちゃん家に居候することになったの。時々面倒を見ていたおっちゃんの娘の和葉とその幼馴染の服部平次にも励ましてもらってなんとか立ち直れた一方で、両親が巻き込まれたホテルの爆発の捜査は依然として難航中とFBIから発表があったという報道が耳に入ってきて、途中経過でもいいから知りたくて周りには翻訳家を目指すと嘘をついて高校卒業後にアメリカに飛び立ったの。そして死に物狂いで努力してグリーンカード取ってFBIに入局してあなたが今潜入中の組織の仕業だと分かったの…」
「なるほどな…」
「私は元々大阪の人間。だからあなたの日本から出て行かない。むしろ組織を壊滅させたら戻ってくる!」
「確かに俺はFBIに日本から出て行けと言ったがお前には言ってない。むしろ俺の側にいてほしい…」
「えっ?」
「葉月が好きだ!」
「零…んん」
零に噛み付くようなキスをされ私達はそのまま求め合った。
「零…私も零が好き…ずっと一緒にいたい…」
「葉月…」
全て終わった頃に私は本音を紡いだ。そんな私を零は優しい表情で抱きしめてくれた。
そしてそのまま私達は眠った。