B
交通事故に遭いかけたあの日から数日後、精神科を訪れてそのまま買い物に向かった。
「おや偶然ですね、安室さん」
沖矢さんとばったり会ってたわいもない話をしながら歩いた。
「おいチビ、とっとと金出せよ!」
「嫌!」
「テメェ、痛い目見ないと分からねーようだな」
「うっ…」
高校生くらいの少年達が集団で中学生くらいの少年をカツアゲしていた。
私はいてもたってもいられなくなって注意することにした。
「あなた達辞めなさい!」
「あっ!なんだクソババア!」
少年の1人が私に殴りかかった瞬間沖矢さんがその腕を掴んで技をかけた。
「何すんだテメェ!ひっ…」
「弱い者いじめは辞めなさい君達。さもないとこの指を進めますよ…」
物騒な雰囲気を醸し出した沖矢さんが少年に目潰しをしようとしていた。
「ごめんなさい!」
少年達は逃げていった。
「もう大丈夫よ。怖かったねー」
いじめられていた方の少年は礼も言わずに去っていった。
「何よ…」
「どうやら彼の方も怖がらせてしまったようですね…」
「ですね…」
すぐに沖矢さんとは分かれて買い物をして帰宅した。
料理の準備は終わったけど透さんはまだ帰ってこられないらしいから絵でも描いてようかな。
「ただいま」
「おかえりなさい。ご飯温めるね」
「ありがとう。絵を描いていたのかい?」
「うん。精神科医の先生に今日勧められたからね。夢を描いてみたの」
「夢?」
「ほら見て。1階が私が店長をしている喫茶店で2階が安室探偵事務所で3階が私達の家」
「素敵な夢だな。喫茶店の名前は?」
「まだ決めてない。透さんと一緒に考えたいから」
「はは。じゃあ一緒に考えようか。この3人はもしかして僕と君と…」
「私達の子供よ。さっきコロッケ屋のおばちゃんにそろそろ子作りしたらって言われたら欲しくなっちゃった」
「メグ!ご飯よりメグが食べたい…」
「だーめ。ご飯とお風呂が先よ。透さんとするとそのまま寝ることになるんだから」
「そうか。気持ちよすぎるってことだな。嬉しいよ」
「はいはい。ご飯にしましょう!」
***
更に数日後、今度はチンピラ同士の喧嘩を目撃してしまった。今日は沖矢さんがいないから私がどうにかするしかない。
話が通じるわけもなく私は拳と蹴りで勝負した。
「メグ!後は僕に任せて!」
「透さん!」
透さんは次々とチンピラ達を倒した。
「透さん強いのね」
「ああ、ボクシングが趣味でね。それにしてもあまり無茶するなよ。まぁ、君の正義感の強いところも含めて愛してるんだけどね」
「ごめんなさい。てゆうかどうしてここに?」
「仕事から帰る途中で偶然通ったんだよ」
「やっぱり私達って運命なのね」
「メグ、今から海へ行かないかい?」
「行く行く!」
到着してしばらく無言で海を見つめどちらからともなくキスをした。
そして帰宅し、私は先にお風呂に入った。上がると透さんはドキュメンタリーを観ていた。
「へえ、奇跡の生還か…心臓を撃たれても死なないケースがあるのね…」
「みたいだな…」
***
記憶喪失が演技なのではないかと時々思うが、俺は彼女を信じたい。彼女は葉月ではなくメグなんだと。
そう思いながら俺は車を走らせていた。
すると車をぶつけられそうになり間一髪で避けたが、ハッキングによりドアを開けられてしまった。
「バーボン、お前結婚していたんだな」
「誰だ?要件は?」
「組織からこれに関する情報をこっちに流してもらおう」
紙を渡すと男達はそそくさと立ち去った。
それからポアロでのバイトと毛利探偵の付き添いと組織の仕事をこなして夜中にヘトヘトの状態で帰宅した。
メグは待ちくたびれてソファで絵を描いている途中で寝落ちしていた。
俺は彼女をベッドまで運んで抱きしめながら眠りについた。
もうそろそろこの生活も終わりかもしれない。そんな予感がする。
メグとずっと一緒にいたい。でも…
「透さん、そろそろ朝ご飯にしましょう」
「ああ…おはよう」
逃れないように抱きしめていたはずなのに俺の腕からすり抜けていた。
「透さん、私決めたの」
「何を?」
「記憶を取り戻すのを諦める。過去を捨ててあなたとの未来を想像しながら生きる」
「メグ…無理しなくていいから」
「無理じゃないわ」
「過去を捨てる必要なんてない。僕にだって捨てられない過去があるんだから…」
「透さん…」
そう…俺だって先生…同期…忘れられない人が沢山いる。
ヒロを助けてくれなかった赤井への復讐心に燃えているんだ。
俺の方がよほど過去を捨てられていない。
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