A
記憶が戻らないことを不安に思いつつも今日も私はいつも通り買い物をする為に町へ出た。
歩いていると前からトラックが私めがけてきた。いや一瞬私を避けようとしたがそうしなかった。ということは私の後ろにある建物の破壊が目的だろう。
冷静に分析しながらトラックを避けたらよろめいてしまった。後ろでは大惨事になっている。
「大丈夫ですか?」
茶髪に眼鏡のインテリ風の男性に話しかけられた。
「ええ、大丈夫です」
「よく避けられましたね」
「まあ…なんとか」
「念の為病院で診てもらいましょうか。さあ行きますよ」
「あっ…はい」
大袈裟な気もするが有無を言わせない雰囲気を醸し出していたのでついて行くしかなかった。
***
蘭と小五郎のおっちゃんと3人で外食をする為に歩いているとトラックが女ごと後ろの建物に突っ込んでいった。
と思ったらその女はトラックを避けた。普通の人ではないだろう。偶然居合わせた昴さんも彼女に不信感を抱いたのか無理矢理病院へ連れて行った。じっくり話を聞くのだろう。
蘭が通報してまもなく目暮警部や高木刑事が到着した。
「単なる事故ではなさそうなのかね、毛利君?」
「ええ、明らかにあの建物をめがけてましたよ、目暮警部殿」
「何故轢かれそうになった女性ではなくあの建物だと断言できるんですか?」
「お姉さんを一旦は避けようとしてたの僕見たよ!」
「私にもそんな風に見えました!」
「この建物は坂上建設の本社。トラックは盗難車で突っ込んだ犯人はホームレスで坂上建設との接点は無し。おそらく坂上建設を恨む何者かに差し向けられたのだろう」
捜査は進み、ホームレスを差し向けた犯人は坂上建設を素行不良で解雇された元作業員だった。2人はパチンコ屋で知り合い、互いの元職場を交換殺人ならぬ交換器物損壊する契約が交わされていたのだった。ちなみに元作業員は既にホームレスの元職場に盗難車で突っ込んでいた。
事件は一件落着したが例の女のことが気になり昴さんにメールで居場所を聞いて蘭とおっちゃんと一緒にお見舞いに来た。俺達が彼女の病室を訪れると昴さんは帰った。
「お嬢さん、大きな怪我がなくて本当に良かった」
おっちゃん…
「あら、あなたもしかして名探偵の毛利小五郎さん?」
「はい!」
「あなたの事は主人から聞いています」
「へっ…主人…主人…主人…ってことは既婚者!?」
「お父さん…」
「お姉さんの旦那さんって誰なの?」
「安室透さんよ。私は妻のメグ」
「えっ?安室の兄ちゃん結婚してたんだ!?」
「全然知らなかったわ」
「僕は江戸川コナン!よろしくねお姉さん!」
「私は毛利蘭です!」
「よろしく。透さんが仕事で関わっている人と知り合えて良かったわ」
「メグ!大丈夫か!?」
「透さん!ほんのかすり傷よ。明日には退院できるわ」
「良かった…」
安室さんが彼女を抱きしめると俺は目のやり場に困ってしまった。蘭も同じようだ。
「安室君…こんなに綺麗な奥さんがいて羨ましい…」
「毛利先生だって法曹界のクイーンの妃英理さんを奥さんに持っているじゃないですか…」
「フン、あんな高慢ちきで高飛車な女…」
「もう…お父さんたら…」
「照れ隠しですよ。先生本当は奥さんのことを大切に思っているはずですよ」
安室さんの奥さんってことはこの人やはりワケアリだな。探りを入れないと。
病院を後にして俺は博士の家に行くと言って自分家に来た。
「赤井さん、彼女はいったい何者?」
「FBIの志村葉月だ。組織に潜入してアマレットというコードネームを持っていたが、どうやら俺が抜けた後で記憶喪失になっていたようだ。詳しいことは知らないがバーボンが絡んでいるのはまず間違いないな」
「でも身体はFBI時代を覚えているようだね。記憶喪失っていうのも演技なんじゃ?」
「演技だとしたら理由が分からないな…」
「例えばバーボンに正体がバレて殺されかけて、ショックで記憶を失ったフリをしてなんとか凌いでるとか…」
「だとしたら逃げてFBIに戻ってくればいいだろう…まさか彼のことを…」
「それはあり得るかも。あの後バーボンも病室に駆けつけたんだけど…見た感じバーボンは本気っぽかったよ…」
「だから自分の元に置いているのか。だが記憶が戻ったと分かれば始末しなければならないだろう…」
「そうだね…」
2人が想い合っているのであればそんな悲しい結末になってほしくないな…
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