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何処だか分からない暗い路地裏で私は独りで大勢の男達と戦っていた。
「お前のせいで弟は死んだ。苦しみながら死ね!」
仕方ないじゃない。私はとある組織に潜入するFBI捜査官。組織による命令での殺人は絶対だから。
そう思いながら私はこのグループのリーダーの男に立ち向かった。
***
あれ?夢?
どうやら戦闘系のゲームをしている最中に寝落ちしてしまったみたいね。
今日も透さんの為に家事を頑張らなきゃ。
朝から炊事、洗濯、掃除と大忙し。買い物も行かないと。
私はいつも買い物は米花商店街でしている。商店街は活気付いているし、時々おまけもしてくれるから来るととても楽しい。
買い物を終えたら帰宅して即レシピを見ながら料理を始める。
実は透さんの方が料理が上手だから私も負けてられない。
「ただいま」
「透さんお帰りなさい。ご飯できてるよ」
「いつもありがとう。探偵の仕事はトラブルだらけで大変だけど君が僕の奥さんでいてくれるおかげで頑張れるよ」
「それは良かった」
私の名前は安室メグ。探偵をしている透さんを旦那さんに持つ専業主婦。こんなに素敵な旦那さんをもらえたことが奇跡としか思えない。
この平和で温かい生活がずっと続きますように…
翌日、私は精神科を訪れた。実は私は記憶喪失なのである。
「最近妙な夢を見るんです…」
「どういった内容ですか?」
「路地裏で大勢の男達と戦っているんです」
「安室さんは以前戦闘系のゲームをされると言っていましたが、最近はどうですか?」
「毎日やってます。夫が仕事でなかなか帰ってこなくて寂しくてつい…」
「ゲームは脳に刺激を与えやすいのでできれば辞めていただきたいのですが…」
「分かりました。あの、そろそろ私の記憶戻りますか?」
「安室さん、焦っては駄目です。精神的に辛くなるだけですよ」
「そうですね。夫に愛されてすごく幸せですし。気長に待ちます」
「本日はここまでにしましょう。では次回は2週間後ですね」
「はい、失礼します」
***
18ヶ月前
「バーボン、あなた私がFBIだって気付いたのね…」
「ええ。残念ですよ。あなたのことを愛していたのに…」
そう言うとバーボンは私の頭めがけて発砲したが、私は避けた。
すると組織の仲間の男達がぞろぞろと出てきた。
私はバーボン以外の全員に立ち向かって次々と倒していったが、最後の1人に頭を撃たれてしまった。
「アマレット!」
バーボンがその男を撃ち、私に駆け寄った。
「降谷さん!」
「風見、救急車だ!」
「えっ?あっ、はい!」
ここで私の意識は途切れた。
***
アマレット…いや…志村葉月の手術が無事終了したようなので俺は彼女の病室に駆けつけた。
「葉月!生きてて良かった…」
俺は彼女を優しく抱きしめた。
「あの、すみません…どちらさまですか?」
「えっ?」
鈍器で頭を殴られた気分になった。
「私何も覚えてないんです…自分の名前すら…あのまだ意識が朦朧としていて聞き取れませんでした…私の名前もう一度教えてくれませんか?」
するとラムからのメールで呼び出されたので一旦病院を後にした。
「仲間を全員見殺しにされた上に助けるとは何事だ、バーボン?」
「すみません。殺す前に彼女がどこまで掴んでいたか確認したかったんですよ、ラム。それになんと彼女は記憶喪失になってしまったようで…」
「ほう。でどうするつもりだ?」
「とりあえず安室透の妻になってもらい24時間監視します。記憶が戻ったら始末しますから」
「良かろう。頼んだぞ、バーボン」
「はい」
再び彼女の病室に戻った。
「ようやく戻ってきましたね。寂しかったです…」
そんな泣きそうな顔をしないでくれ…
「すみませんでした。探偵をしているので急な依頼が入ってしまって。僕は安室透といいます。あなたは僕の妻のメグです。僕達はとあるパーティーで知り合ったんですよ」
「どのようなパーティーですか?」
「鈴木財閥主催のパーティーです。あなたは女性の友人達と来ていましたね。僕は探偵として参加していたのですが、あなたに一目惚れしてしまって口説き落としたんですよ」
「あなたのその容姿に物腰の柔らかい人柄なら口説き落とされるのも頷けますね」
「そんな他人事みたいに…まあ仕方ないか…あっ、メグの結婚指輪と2人で撮った写真です」
結婚指輪は慌てて作ったが写真はちょうどいいのがあったので持ってきた。彼女が憎きFBIからのノックではないかと疑って探りを入れる為に恋人同士になってから撮ったものだ。
「幸せそう…」
写真を見つめて切ない表情を浮かべる彼女を見ていたら胸が痛くなってきた。
利用する為に付き合ったのにいつの間にか本気になってしまったようだ。
殺したくない。どうか記憶が戻りませんように…
俺は彼女の記憶が戻らないように誘導する為に公安の女性捜査官を彼女の主治医として精神科に潜入させたのだった。
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