初情事まであと1時間 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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ビフォア


名古屋市内を赤いマスタングが走っている。

「まさか秀一君と名古屋で再会するなんて思ってもいなかったけど、FBI捜査官になっていたなんて驚いたわ。どうして日本に?」

「現在追っている組織の幹部が来日したのがきっかけで俺達も暫く滞在することになってな。今回のリニアの騒動は別件だったがFBIが担当した15年前の連続誘拐事件と酷似していたから解決すべく名古屋にやってきたんだ。まあ日本でやりすぎると後で厄介な奴に何を言われるか分からないから協力者にバトンを繋いで早々に退散して信号待ちしている最中にふと横を向いたらレストランで呼び込みをしているお前を見つけた」

「で今日改めて会いに来てくれたのね。嬉しいわ」



*あと50分*



「17年前、秀一君のお父さんが亡くなる少し前に秀一君が家族と日本へ渡って離れ離れになってから暫くして、大手自動車メーカーのロンドン支社に15年赴任していた私の父の名古屋本社への転勤が決まって私も日本へ渡る事になって、もしかしたら再会できるかもって期待してたのに…ドラマのような感動の再会を果たすまでに17年もかかって…本当に寂しかった…」

「葉月…」

「私は大学を卒業してから上京して大手アパレルメーカーに就職してデザイン職に就いたわ。仕事は楽しくて凄く夢中になれた。社長の息子からプロポーズされて結婚して娘を出産して、仕事も家庭も凄く充実していて幸せ、そう思っていた。でも私はあなたを忘れられなかった。それが夫にバレて離婚されて娘の親権も奪われた。会社にも居づらくなって結局退職して実家に戻ったの」

「そうか…すまなかったな…」

「謝らないでよ!秀一君のせいじゃないって!でもふと入ったレストランで経営者の夫婦が私の話を聞いてくれて少しは心が楽になったの。そして是非ともここで働かせてほしいって頼んだら快く雇ってくれた。それからは東京にいた頃と違ってのどかな場所でお客さんの笑顔に触れて心から充実した日々を送れているわ。東京にいた頃は人生の勝ち組にならなきゃって意気込みすぎて辟易としていたのよ。私に都会暮らしは向いていなかったわ」



*あと30分*



「秀一君は今までどんな生活をしてきたの?ってあまり聞かない方がいいわよね…」

「少しくらいなら構わない。実は表向きでは死んだことになっていて普段は変装して大学院生として協力者の家に居候させてもらっていることは言っておかないといけないしな」

「えっ?どういうこと?」

「実は今追っている組織に潜入していたことがあるんだ。だが正体がバレて脱退した。その後他の諜報機関からその組織に潜入するスパイを見つけて俺を殺したことにして組織の中枢に入り込み情報をFBIに提供するよう申し出たんだ」

「なるほど…秀一君は想像を絶するほど命懸けの日々を送っていたのね…それに引き換え私は人生の勝ち組になることしか頭になかったし、あなたのことが忘れられなくて夫も娘も傷つけたし、ホント…最低な女だわ…こんな私に秀一君と再会してドライブデートまでする資格なんてなかったわね…だからもう降ろして…」

「俺だって最低な男だ。同僚と付き合いながらもお前のことが忘れられなくて、一度自分を通して他の誰かを見ているのではないかと聞かれた。ほどなくして組織に潜入する為に構成員の女に近づくことになり同僚とは別れた。近づいた女と付き合ってからも同じことを言われたな…」

「その女の人達はよほど秀一君のことが好きだったのね…じゃなきゃ常にポーカーフェイスで冷静な秀一君の心の内に気付くわけないものね…なんだか申し訳ない…」



*あと11分*



マスタングがホテルの駐車場に到着した。

「秀一君…」

「葉月…」

どちらからともなく唇を重ねた。

「あっ…秀一君…早く部屋入ろ…」

「ああ…」

葉月の服の中に手を入れようとした赤井を葉月が宥めた。

そして2人はホテルの中へと入っていった。

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