心の拠り所 *初情事まであと1時間* 俺は今日の昼間に米花公園で知り合った愛犬家の女性の志村葉月さんのアパートの部屋にハロと一緒にお邪魔している。 2人でハロと彼女の愛犬のネズコちゃんをお風呂に入れてあげて、一緒に料理して夕飯を共にした。 久しぶりにハロ以外と幸せな時間を共有した。 「ハロ君とネズコ、寄り添って眠っていますね。いいなぁ…」 「羨ましがるという事は葉月さんは恋人がいらっしゃらないのですね…まあ公園での話の内容と僕を自宅に連れ込んだ時点でそれは明白ですが…」 「ええ、寂しい独り者です。そういう安室さんもフリーなんですよね?」 「はい」 「こんなに素敵な方なのに独り者だなんて…私ってラッキー!」 「ではあなたは僕を受け入れてくれるのですね?」 「当たり前じゃないですか!って強気で言いたいけど内心すごくドキドキしています…と、とりあえず私お風呂入ってきます!」 逃げるように風呂場に行ってしまった彼女を待つ俺だってドキドキしているからな… *1日前* 「ただいま…」 「アン!」 「ハロ…こんな時間まで起きててくれてありがとう」 「アン!」 「なんで毛利小五郎と江戸川コナンと一緒にいるとこう毎度毎度事件に巻き込まれるんだろう…ただでさえ公安の仕事と組織への潜入で辟易しているというのに…それに加え建前では毛利小五郎実際には江戸川コナンに張り付いて今度こそ赤井秀一の鼻を明かしてやるという任務もあり…更にしょっちゅう殺人事件に巻き込まれて…休まる時がないな…まあ国の為だから仕方ないが俺だってさすがに疲れるさ…」 こうやってハロは俺の愚痴を聞いてくれる。 満開の桜を見ながら警察学校時代の感傷に浸っていたら天使が現れた。あの子を見た瞬間大切だった親友と姿が重なった。あれは運命的な出会いだった。俺はそんな彼をギターのコードから取ってハロと名付けた。ヒロの代わりに現れたハロ。 一緒に暮らし始めたら俺の愚痴を聞いてくれるハロは心の拠り所となった。そんなハロを俺はうんと甘やかしている。 明日はオフだから米花公園に散歩に連れて行こう。 「久しぶりに日曜日が休みか…ハロに友達ができる良い機会になるかな」 「アン!」 翌日、俺は予定通りハロを連れて米花公園にやってきた。 「あらやだお兄さん良い男ね!」 ゲッ…派手な服を着せられているチワワを抱っこしている派手なおばさんに絡まれてしまった。 俺は今は安室透だ。だから営業スマイルでおばさんに対応した。 おばさんの長話を聞き流しながらふと周りを見渡したら2組の夫婦と話している女性と目が合った。 女性が微笑みながら会釈してきたその瞬間鼓動が早まった。 「あらやだもうこんな時間!ほらエリザベスちゃん、帰るわよ!」 はあ…疲れた…ようやく解放された…まったく勝手な人間ばかりで困るな… 「お疲れ様です」 先程目が合った女性が話しかけてきた。 「まあ探偵の仕事をしていて他人の話を聞く事には慣れていますけど…プライベートまでこうだとさすがに疲れますね…」 「探偵をされているんですか!なんだか未知の世界…どんな派手な毎日を送っているんですか?」 「ドラマの見過ぎですよ…浮気調査とか人探しなどがほとんどです。まあ僕の師匠の毛利小五郎は事件を吸い寄せる体質みたいで彼について行くと何故か事件に巻き込まれますが…」 「えっ!?あの有名な名探偵のお弟子さん!?わぁ羨ましい…私もハラハラドキドキする生活がしたいなぁ…」 「あなたはどんな生活をされているんですか?」 「職業は平凡なOLです。仕事は全然できなくて上司には怒られてばかりで同期と部下の昇進を他人事のように見送っています。25歳を過ぎた頃から学生時代の友人達は結婚やらキャリアアップやら転職やらで忙しくて疎遠になっていきましたし。馬が合わなかった両親から逃げるように一人暮らしを始めましたけど誰もいない部屋に帰ると虚しさを感じています」 「それで心の拠り所を求めて犬を飼い始めたんですね…」 「その通りです。ネズコには愚痴ってばっかりで申し訳なくなってきますけど…こうでもしないと私壊れてしまいそうで…」 「分かります…僕も同じですから…」 *初情事まであと5分* 俺達は互いに下着姿でベッドに横たわって互いの唇を貪った。 「んんっ…はぁ…安室さん…ハロ君とネズコ起きたらどうしよう…」 「放っておけばいいですよ。何も考えられなくなるくらい本能的に僕を求めてください…今だけは全てを忘れて僕だけを感じて…」 「あっ、安室さん…」 それから俺達は本能的に激しく愛し合った。 [しおり/もどる] |