初情事まであと1時間 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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転生者の恋


突然だが志村葉月には前世の記憶がある。彼女の前世では『名探偵コナン』という国民的人気作品が存在していた。そして今世で『名探偵コナン』の主人公の本来の姿である工藤新一のクラスメイトとして転生したのである。

「新一…前世から考えると私のあなたへの想いはとても長く深いものよ」

彼女は小学生の頃キャラクターである工藤新一に恋心を抱き大人になってもその気持ちが薄れることはなかった。ある日事故で亡くなった彼女は転生し、高校で工藤新一に出会った時に前世の記憶が蘇ったのである。

「今、空手の大会の真っ最中よね。これで蘭が優勝すれば…2人の長い長い物語が始まってしまうのよね…」

家にいても憂鬱なだけなので彼女は外へ出た。



*初情事まであと3時間*



「ハア…」

米花公園のベンチに腰掛けて葉月は溜息を吐いた。

「何溜息吐いてんだよ」

「あっ、工藤君…」

「何かあったのか?」

「何もないから溜息出ちゃうのよ…」

「何だそれ?何もないならそれでいいじゃねーか」

「分かってないのね…どうしてあなたが女の子達から人気なのかさっぱり分からないわ」

「それは俺が名探偵だからに決まってんだろ」

「あっそ…で名探偵さんは何しに来たのよ?」

「サッカーの練習だ」

「名探偵として犯人捕まえるなら武道の方がいいんじゃない?」

「バーロー。サッカーは基礎体力作りにもってこいだし、犯人めがけてシュートすれば気絶させて捕まえることができる万能なスポーツだ」

「そうですか。分かりました。説明ありがとうございます」

「心がこもってねーぞ…」

こうして他愛もない話をしていても葉月はドキドキが止まらず同時にただのクラスメイトとしてしか見られていないと思うと虚しくなってきた。

すると悲鳴が聞こえたので2人とも声のした方へ走った。

頭から血を流した若い女性が亡くなっており事件と事故の両方の線で警察による捜査が始まった。状況からして女性は花壇の周りのレンガに頭をぶつけて亡くなったようだ。

「志村、大丈夫…な訳ないよな…」

本物の死体を初めて見た葉月の顔色は悪く身体は震えていた。

葉月はやはり転生などしなければよかったと酷く落ち込んだ。

被害に遭った女性の交友関係を警察が当たり、3人の男性と1人の女性が現場に呼ばれた。

被害者を含めた5人は同じ大学の映画研究会の仲間である。表向きでは仲良く見えていたが実際は複雑な恋愛模様が絡み合っていたそうだ。

1人の男性は研究会では脚本を担当しており主演を張っていた被害者に恋心を抱き、被害者はその男性に思わせぶりな態度を取り彼の心を弄んでいたそうだ。もう1人被害者に恋心を抱いていた道具係の男性は被害者から見向きもされず冷たい態度を取られよくメソメソしていたそうだ。そして残りの撮影係の男性と衣装兼メイク係の女性は被害者に思わせぶりな態度を取られていた男性に恋心を抱いていたのである。

被害者は読者モデルをしており将来は女優を目指していたそうだ。一方、思わせぶりな態度を取られていた男性は脚本家の卵である。もしも彼が有名な脚本家となれば自分を使ってもらいレッドカーペットの上を歩くのも夢じゃない。被害者はそう考えて思わせぶりな態度を取っていたのだろうと彼に片想いをしている女性がイラついた様子で言った。

容疑者4人とも動機がありアリバイがない為捜査は難航しそうである。



*初情事まであと55分*



「工藤君…犯人は4人の中にいるのかな?」

「ああ、犯人はあの人だ」

犯人が分かった新一の顔がイキイキしていたので葉月はこんな状況であるにもかかわらず見惚れてしまった。

新一の推理ショーが始まり犯人が特定された。

犯人は被害者に見向きもされず冷たい態度を取られていた気の弱い男だった。男は彼女に想いを打ち明け、気持ち悪いだのありえないだのと罵倒され、ついカッとなって押したら彼女がレンガに頭をぶつけて亡くなってしまったそうだ。慌てた男は自分が現場にいた痕跡を消そうとしてかえって証拠を残してしまったのである。



*初情事まであと18分*



事件が解決し葉月と新一は後日事情聴取を受ける事となり今日は帰ってよいと言われた。

葉月は感情がごちゃ混ぜになりうずくまりながら涙を流した。

「志村…とりあえずうちに来ないか?こんな状態じゃ帰りたくないだろ?」

「うん…ありがとう…」



*初情事まであと3分*



「どうぞ」

「おじゃまします」

新一が葉月をリビングに通した。

「コーヒーでいいか?」

「うん………工藤君!」

「何だ?…オイ…」

リビングから出て行こうとしたところを葉月に呼び止められ新一は振り向いた。すると葉月に抱きつかれた。

「工藤君…新一…」

葉月からの熱視線に新一は胸の鼓動が早まった。

葉月は先程恋愛が原因の事件に直面し、恋心は人を狂わせるのだと思い知ったばかりだったにもかかわらず止まらなくなってしまったのである。

「志村…葉月…」

見つめ合った2人の顔がどんどん近づき…

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