初情事まであと1時間 | ナノ
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マイナスとマイナス


*数年前*



ビルの屋上にて1人の男が拳銃で自殺しようとしており、もう1人の男が説得し男は思い止まった。だがすぐに階段をかけ上がる何者かの足音が聞こえ、説得していた男の手は拳銃から離れ、男は再び自分の胸を撃とうとした。するとその拳銃は弾き落とされた。男2人が振り向くと向かいのビルにライフルを構えた女がいた。そして屋上の扉が勢いよく開いた。

「スコッチ!」

「バーボン!?お前だったのか…俺は追手だと思って…」

「えっ?それより今の銃声は何だったんですか!?」

なんてやり取りをしていたら女が梯子を使ってこっちのビルに渡ってきた。

「間一髪だったわね。私は警視庁公安部の志村葉月です。潜入捜査官がスパイだとバレたという情報が入ってきたので助けにきました」

「えっ?あ、ありがとうございます…」

「驚いているようね。まあ確かに潜入先でヘマした者は切り捨てるという暗黙のルールもありますしね。でも私は有望な捜査官を切り捨てるなんてできなかった…」

「そうですか…」

「で、そこの2人もスパイですよね?」

「ライが!?」

「ああ、俺はFBIの赤井秀一だ」

「自分は警察庁警備局警備企画課の降谷零です」

「どうも。とりあえず彼を逃すから2人とも協力して」



*現在*



一度は自分の命を捨てようとした男…諸伏景光は自身が潜入していた組織を壊滅させた後、命の恩人である葉月に告白し恋人同士になったのである。

「今日はせっかくの景光君との初デートだったのに…」

駅の出口付近で葉月がガッカリしていた。

「この嵐じゃ中止にするしかありませんね。あっ、でも葉月さんのマンションこの辺ですよね?お家デートにしません?」

「私とシたいの?」

「えっと…その…はい…でもデートすらまだですし葉月さんの許可が出るまで待ちますから」

「そうじゃなくて!私とエッチしたら死ぬかもよ!」

「どういう事ですか?」

「雨の日の私は死神なの!」

そう言って葉月は外に飛び出してびしょ濡れになった。

びしょ濡れの葉月を見て欲情した景光は自分も外に飛び出し葉月を抱きしめた。

「ちょっと!」

「葉月さんの部屋に寄らせてください。お風呂に入りたいので」

「お風呂と雨宿りだけよ…」

そして2人は駅ビルでちょっとした買い物を済ませ葉月のマンションに向かった。



*あと55分*



2人とも入浴を終えダイニングテーブルに向かい合って座った。

「雨の日の葉月さんが死神ってどういう事ですか?」

「小さい頃、家族でドライブしていたら嵐に見舞われて私達の車が交通事故に巻き込まれたんだけど、運転していたお父さんと私を庇ってくれたお母さんは亡くなってしまったの…」

「っ…それは辛かったですね…」

「それだけじゃないわ。あなたが警視庁公安部に配属された頃私が潜入捜査をしていたのは知っているわよね?」

「はい。小耳に挟んだことはあります」

「嵐の日だったわ…潜入先でまだ完全に信用されていた訳ではなかった私は発信機を付けられている事に気付かずに一緒に潜入していた先輩と報告し合っていたの。そしたら潜入先の幹部の車が見えて…私に付けられた発信機を見つけた先輩は突然私の肋を殴り、手足を撃ち、怪しい素振りを見せていた自分を問い詰めたら逆に捕まって殺されそうになるも揉み合いの末になんとか始末する事が出来たという事にするように言われたわ。そして先輩は私に拳銃を握らせて、私の手に自分の手を重ねて自分の胸を撃ち抜いたわ。その出来事の後私は潜入先で幹部となり、やがて壊滅に追い込めた訳だけど…」

「もしかしてその先輩のこと…」

「好きだった…潜入を終えると今度は入れ違いに景光君が潜入捜査を始めたのよね…景光君の正体が潜入先でバレたと知って私は…先輩だったら真っ先に後輩を助けに行っただろう…なら先輩の命を奪ってしまった私は先輩に代わって自分の命を捨ててでも後輩を助けに行かなきゃ…そう思ったのよ…」

「そうだったんですか…」

「そして今ではあの時助けたあなたが私にとって1番大切な人なの。だから今度はあなたの番なの…」

「不安なんですね。ならばこれ以上不安にさせないように今日は帰りますよ…」

「ありがとう…」



*あと33分*



「景光君…」

玄関でお見送りしている葉月は本当は1人になりたくない為つい手を伸ばしてしまった。

「葉月さん…俺やっぱり帰らない!」

そう言って葉月を強く抱きしめた。

「でも…」

「雨の日限定ではないですけど俺も今まで大切な人達を失ってきました…だから葉月さんの理屈で考えると俺のせいで葉月さんがいなくなってしまいそうで怖くなってきました…なので今夜は側にいさせてください!」

「景光君…不幸体質同士が惹かれ合うなんてね…このまま行くと私達どうなるんだろう…マイナスとマイナスを足したらどん底よね…」

「確かに足したらマイナス値が大きくなりますが…掛けたらプラスになるじゃないですか!そうですよ!俺達が一緒に幸せになるにはそうやって一見マイナスに思える事をプラスに考えればいいんですよ!」

「そうかしら…」

「はい!」

すると葉月がネガティヴ思考な自分を変えようとしていた矢先にリビングから物凄い音がした。行ってみると飾ってあった絵が落ちており額縁も壊れていた。



*あと22分*



「ハア…やっぱり私ダメかも…たったこんな事でまた怖くなってきた…」

「工具箱ありますか?」

「あるけど…」

「貸してください。これくらい直せますから」

「じゃあ、お願いするわ」



*あと13分*



「はい、終わりました」

「ありがとう」

「ね、やはり葉月さんには俺が必要なんですよ。そして俺には葉月さんが必要です」

「景光君…んん…」

キスされた葉月は最初は口を閉じていたがやがて開いて舌の侵入を許した。

外では雨も雷も激しさを増していった。

「ハア…葉月さん…俺…」

「この嵐ならベッドの軋む音も水音も喘ぎ声も…お隣さんに聞こえないわね」

「えっ?」

葉月はカーテンを開けた。

「見て…稲妻が綺麗よ…」

「葉月さん…怖くないんですか?」

「マイナスとマイナスを掛ければプラスになるって言ったの景光君じゃない?」

「そうですけど…」

「私の変わり様に驚いたようね。無理もないわね。私もよく分からないけどなんだか興奮してきちゃったのよ…」

「ベッドに行きましょうか…」

「ええ…」



*あと5分*



「あー、今日はやはり止めておきましょう」

「ナマでいいから…外に出して…」

「ゴムならありますよ。そうじゃなくてさすがに嵐ヤバすぎませんか?」

景光が立ち上がった瞬間停電した。

「電気消す手間省けたじゃない…早く来てよ…」

葉月は立ち上がって下着姿になった。

すると2人のスマホに避難勧告のメッセージが入った。

「でも避難勧告…」

「うるさい!」

「えっ?」

「後悔しないように今抱きなさいよ!」

「葉月さん…そうですね…せっかくのチャンスですもんね…あなたを抱くことなく死ぬのだけは嫌ですし…」

景光はTシャツを脱いで葉月をベッドに押し倒した。

「景光君…何があってもずっと一緒よ…」

「もちろんです、葉月さん…」

2人の唇が重なりそのまま…

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