初情事まであと1時間 | ナノ
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決戦の金曜日


「ハア…長い…」

金曜日の夜、とある犯罪組織のアジトに溜息を吐きながらパソコンのキーボードを打つ眼鏡姿の女がいた。女は飲んでいたアイスコーヒーのカップが空になるとハイヒールを脱いで胡座をかきながら新しい缶を空けてカップに注いだ。

女1人しかいなかったアジトに恰幅の良い男がやって来た。男はコンビニ袋の中を見て慌ててとある物をポケットに隠した。そして扉を開けた。

「お疲れ様っす、アマレット」

「買い出しありがとう、ウォッカ。いつも悪いね。ウォッカの方がこの組織長いのにこんなパシリみたいな事しちゃって」

「いいんですよ。皆俺の事コキ使うから慣れやした…」

「可哀想に…」

苦笑いしながらウォッカがアマレットにコンビニ袋を渡した。

「おっ!ビックリマンチョコだ」

「アマレットそれ好きっすよね?」

「えー、ビックリマンチョコ好きなのはウォッカの方でしょう?」

「でもいつも食べてるじゃないですか?」

「ウォッカが買ってきてくれるからよ。自分じゃ買わないわ」

「そうでしたか…」

「それにしてもお酒臭いわね。また太るわよ」

アマレットがウォッカのお腹を軽くぐーパンし、ウォッカはやめてほしいと言いながらどこか嬉しそうだった。

「そうそう。ジンの兄貴と一緒だったんですけど、隣の席に男が座ったと思ったらベルモットの変装で、変装を解いた後ベルモットが今夜こそマティーニを作らないかと誘ってやした」

「あっそ。その話のどこが面白いの?」

「あっ、いや…別に…」

アマレットは不機嫌になりながら再びキーボードを打ち始め、ウォッカは罰が悪そうにしていた。



*初情事まであと59分*



「終わった!」

「じゃあもう帰れますね」

「まだ帰れないわよ。バックアップ取らないといけないんだから」

「どのくらいかかりますか?」

「280ギガだからだいたい1時間くらいね」

「もう明日でいいんじゃないですか?今は特に急ぎの任務もないですし」

「嫌よ!決戦は金曜日!金曜日に仕事を終わらせて土曜日は遊ぶの!」

「そんな平凡な社会人みたいな事言って…俺達には関係ないじゃないですか…だいたい金曜日といえばプレミアムフライデーじゃないっすか?」

「そっちこそ平凡な会社員に憧れてるんじゃない?だいたいプレミアムフライデーなんて言葉もう古いわよ」

「流行りの移り変わりは早いっすね…」

「何しみじみしてんのよ…」

「あと1時間か…俺22時からラジオ聴きたいんですけど…間に合わないですね…」

「先帰っていいわよ」

「いやアマレットが帰れるまで待ちます」

「ありがとう。じゃあうち泊まってく?近いし」

「そんな…悪いですよ…」

「いいから!いいから!」

「そこまで言うなら…」

「よろしい。ところでアイツは帰ったの?」

「ええ、明日もやるべき事があるって張り切ってましたし…」

「どうせ愛しい愛しいシェリーちゃんの捜索でしょう…アイツ…私とエッチした後もシェリーを想いながら恥ずかしいポエム詠むのよ…どうかしてるわよ…」

「正直俺にその話をするアマレットも…」

「どうかしてるって言いたいの?仕方ないじゃん…こんな話ウォッカにしかできないんだから…」

「でも兄貴から昼間に理不尽に怒られたばかりですし…」

「理不尽ってことはウォッカがやらかした訳じゃないの?」

「俺は何もしちゃいやせんよ…あの日を境になぜか任務が上手くいかないことが多くなりまして…兄貴の当たりが強くなってきやした…」

「あの日って?」

「兄貴が工藤新一とかいう高校生探偵を毒殺した日です」

「その探偵の呪いとでも言いたいわけ?おかしい!」

「いや…呪いだなんて思ってやせんって…」

「てかその毒薬を作ったのってシェリーじゃない…」

「ええ…まあ…」



*初情事まであと30分*



「これ進んでる?絶対フリーズしてるって…」

アマレットはパソコンの画面を睨みつけた。

「目悪くなりますよ」

「これブルーライトカットなの」

アマレットは眼鏡を外してウォッカに渡そうとした。するとウォッカは歯切れが悪くなった。

そんなウォッカにアマレットは微笑んだ。

「ねぇ、男と女が7秒間見つめ合うと好きになっちゃうんだって」

「へ、へえ…」

「7秒って短いようで長いわよねー。人と人って普段案外7秒も見つめ合わないし」

「そうですね…」

「試そ!サングラス外して!」

「それはちょっと…」

「もう、照れ屋さんなんだから」

2人の間に穏やかな空気が流れたがアマレットにメールが届くと2人は少々気まずくなった。

アマレットがメールに返信している最中にウォッカはワイヤレスイヤホンをつけて動画を観始めた。

「何観てるの?」

「ゲーム実況ですぜ」

「面白いの?」

「なんかいつのまにかハマってるんすよ」

「へえ、そういうものなのね…」

2人同時にビックリマンチョコの箱に手を伸ばすと手と手が触れ合った。

「ねぇ、ビックリマンチョコのシールって本当に当たりのシール入ってるのかな?」

「このゲーム実況やってる奴が企画で当たり出したんですけど100箱以上買ってやっとでしたよ」

「数打てば当たるって事ね…男もそうよね…ジンにこだわってないで他の男探そうかなぁ…」

「でもさっき兄貴からメールもらって嬉しそうだったじゃないですか?」

「旅行に誘われたの。でも目的は分かってる…シェリーを探したいのよ…どうせ旅するなら女を連れて行きたくて私がちょうどよかっただけね…でもそれでも舞い上がってバカみたい…」

「せっかくですから行ってきたらいいじゃないですか。行き先は伊豆とかですか?」

「伊豆といえば2時間サスペンスよねー。シェリーとサスペンスみたいな再会しちゃったりしてー」

「どんな再会ですか…てか2時間サスペンスなんて観るんですね」

「最初は最後まで観るつもりなんてないのにトリックや人間関係が気になって仕方なくなってきてチャンネル変えるタイミングを失うのよねー。でも結末を知るとそんな事の為に2時間も無駄にしたのかと後悔するわ。それでも視聴をやめられない。ジンへの想いもそんな感じかも…」



*初情事まであと9分*



「あとちょっとだ!」

「良かったじゃないですか」

「ねぇ、なんか浮ついた話ないの?」

「ありませんよ。見れば分かるでしょう…」

「私ばっかりジンとの話させられて自分は何も話さないなんてずるくない?」

「いやアマレットが勝手に話してるだけでしょう!」

「まあウォッカの話とか正直興味ないけど」

「さすがに傷付きますって!」

「冗談よ」

するとアマレットにジンから着信があった。

アマレットが通話している間、ウォッカは部屋を出てジンとアマレットの激しいキスシーンを目撃した時の事を思い出していた。

「アマレット…」

悔しそうに呟いたウォッカはポケットから取り出したコンドームの箱を握り潰した。

「終わったよ」

「やっと帰れますね」

「そっちじゃない。ジンとの関係よ」

「えっ?」

「別れた。アイツはシェリーを選んだわ。だからもう私に触れても大丈夫よ」

「何言ってるんですか!?」

「あら、とぼけるつもり?」

アマレットはコンビニのレシートをヒラヒラと見せた。

「あっ…」

アマレットはウォッカを部屋に押し込んだ。

バックアップは終わっていた。

「ねぇ、ビックリマンチョコのシールってハズレ30枚でもプレゼント応募できるのよ」

「そうだったんですか?」

「うん。これで30枚目」

アマレットはパソコンに30枚目のシールを貼った。

「つまりウォッカが30回も私の愚痴を聞いてくれたって事」

愛しそうに言いながらアマレットはウォッカを押し倒し微笑み口付けた。

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