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秀一が死んだ事ですっかり抜け殻になってしまった私は翻訳に集中できないでいた。
するとチャイムが鳴ったので出た。
「こんにちは葉月お姉さん!」
「こんにちはコナン君…そちらは?」
「沖矢昴さんだよ。アパート火災で住むところをなくしちゃったからシェアハウスしてくれないかな?新一兄ちゃん達も了承済みだし」
「私は構わないけど…悪い人じゃないでしょうね…」
「そんな訳ないじゃん。ホームズファンに悪い人はいないんだから!」
「嘘おっしゃい!服部君があなたと2回目に会った時の事件はホームズファン同士の解釈の違いが原因で起きたって言ってたんだから!」
「あれは例外だよ…まあホームズへの愛が強すぎて起きた悲劇なんだから仕方ないよ…」
「あっそ…まあいいわ…初めまして。これからよろしくお願いします、沖矢昴さん。私は翻訳家の志村葉月です。ここの家主の工藤優作さんの元で修行していた縁でここに住まわせてもらっています」
「こちらこそよろしくお願いします。ですが初めましてではないですよ」
「えっ、どこかでお会いしましたっけ?」
彼は答えずに微笑んだ。
「じゃあ僕は帰るね!バイバイ!」
こうして私のシェアハウス生活が始まった。
昴さんは左利きで癖はポケットに手を突っ込むこと。
亡くなった彼と共通している。
外見も声も全く違うけどどこか雰囲気が似ているような気がしなくもないし…
それに初めましてではないってどういう事?
「はあ…」
「どうされたんです?」
「誰かさんのせいで翻訳の仕事が捗らないんです…」
「悩ませてしまったのは申し訳ないですが仕事に集中していないあなたにも非はありますよ。フィフティーフィフティーですね。で、僕の何を気にしていたんです?」
「初めましてではないってどういう意味ですか?まあ私もあなたを知っているような気がしますし…あなたは亡くなった私の恋人、赤井秀一に似ているのよ…」
「さすが葉月だな」
昴さんがチョーカーに付いたスイッチを押したら秀一の声になった。
「秀一!会いたかった…」
私は彼に抱きついた。彼も抱きしめ返してくれた。
「ああ、俺も会いたかった。奴らが仕掛けてくるかもしれないから周りに俺が生きている事は内緒にしていたが…お前にだけは隠し通せなかったようだ…」
「教えてくれてありがとう…仕掛けてくるって…例えば変装の達人のベルモットが秀一に変装してFBIの周りのうろつくとか?」
「そんなところだろうな…」
「じゃあ私は外で秀一を見かけても無視すれば良いのね?本物のあなたは沖矢昴の姿だから。私とFBIが知り合いだって組織にはバレてない筈だし」
「ああ、よろしく頼む」
「あっ、いけない!もうこんな時間!私仕事の打ち合わせに行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
そして打ち合わせから戻ってくると蘭ちゃんと園子ちゃんが来ていた。
そうだ…今日だった…月1で行なっていた大掃除の日。
色々忘れすぎね私…
「ちょっと葉月さん水臭いわね!イケメンハイスペ彼氏と同棲始めたって教えてくれたって良かったじゃない!あなたが教えてくれなかったから昴さんを泥棒だと勘違いしちゃったわよ!」
「園子ちゃん…この人はルームメイトで彼氏じゃないわよ!まあ連絡するのを忘れていた事は謝るけど…」
そしてこの後最近巷を騒がせている紙飛行機野郎の事件に巻き込まれるのはまた別の話。
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