キミがいれば | ナノ

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とある日、私が阿笠博士を訪ねていると厄介としか思えない少年まで訪ねてきた。

「葉月さんなんでいるんだよ!?」

「いつ彼氏ができてもいいように料理を作ってみたから博士に味見してほしくて来たのよ」

「…へー、珍しいこともあるもんだな。もしかして今好きな人いんのか?」

「いないいない!それより新一は何しに来たの?あんまり良い予感しないんだけど…」

「あー、そうだな…」

新一はとても深刻そうな顔で話し始めた。なんと毛利小五郎が関わった事件の調書が警視庁から盗まれたと高木刑事から聞いたらしい。

新一はすぐに組織の仕業だと考え警戒するようになったとのことだ。確かに工藤新一が消えたタイミングと毛利小五郎が頭角を現わしたタイミングが同じなので疑わない方がおかしいのかもしれない。

まぁ、いくらなんでも工藤新一が薬で幼児化して、毛利小五郎を薬で眠らせて事件解決しているなんて誰も想像できないだろうが、誰かが調べ回っているのならば用心するに越したことはないだろう。

そこで新一は博士に何かを頼もうとした。

「フン!なんじゃ…都合のいい時だけ人を頼りよって…頼むんならもっと頼りになる相手にしたらどうじゃ?」

「博士…急にどうしたのよ…」

「あっ、もしかして調書が盗まれたことを内緒にしてたの怒ってんのか?」

「ふーんじゃ!」

「博士…気持ち悪いからいい加減にしてくれない?」

「気持ち悪いとはなんじゃ葉月君…」

「怒るなよ博士。しゃーねーだろ…あの時アイツが側にいたんだから…」

「アイツって哀ちゃんのことね…」

新一は哀ちゃんがまた外出しないなどと言いださないように黙っているらしい。

「でも引っかかるんだよなぁ…」

「何が?」

「その調書を盗んだ後、ご丁寧に送り返してきたんだよ…警視庁に封書で…」

「調べ終わってもう用がないから返したんじゃないの?」

「バーロー、調べ終わったら捨てちまえばいいだろ?なんでわざわざ送り返して不審がらせて警戒させなきゃいけねーんだよ?」

「た、確かにそうじゃの」

「考えられるのは、こっちの手の内は全てお見通しだっていう意味の不敵なサインか、もしくは…」

「誰かをおびき出そうっちゅう罠か……」

あれ?今聞き慣れない声がしたような…

「まぁ、この場合…おびき出そ思う相手は工藤…お前っちゅうことになるけど…」

「ああ、多分な…」

「分からんのはホンマにそれが罠なんやったら、なんでそないなややこしい方法を取ったかや…」

「そうだな…おびき出す方法は他にもいっぱい………ってなんでオメーがいるんだよ、服部!?」

今頃気づいたのかよ…よくも今まで淡々と話続けられたな…

「このジイさんに呼ばれたんや。お前と大親友の俺やったら力になってくれる言うてな!」

新一にとっては迷惑そうだが…

「ほんで姉ちゃん誰や?」

「あっ、私は志村葉月。職業はミステリー翻訳家よ。新一の両親にはアメリカで世話になった上に今は家に住まわせてもらってるから、新一の事情を聞いて何か力になってあげられたらなって思ってるの」

「そやったんか。俺は服部平次。大阪ではちいと名の売れた探偵や!」

「うん、知ってるよ」

「しかし、相手がそんな雲をつかむような奴らなら手の打ちようがないの…」

「甘いでジイさん。そんな大事な話、ずっと黙ってた工藤が何も無しにのこのこ喋りに来るわけないやろ?ここに来たんは何か重要な手がかりを手に入れたか…奴らに反撃する糸口を見つけたか…な?そやろ?こら、言うてみ?あっ、その顔は図星やな!」

仕方なさそうに新一は話し始めた。杯戸シティホテルに哀ちゃんと共に乗り込んで、ピスコという組織の一員のジジイを追い詰めたことがあるらしい。

新一はホテルで殺人事件が起きた後、ピスコが持っていないはずのハンカチを警察の事情聴取の時に出したのがずっと引っかかっていたのだそう。

ピスコを除いた6人の容疑者の中にハンカチを渡した仲間がいるのだと新一も服部君も推理した。

その一件以来、休養宣言して姿をくらませた人物が1人……なんとそれはアメリカのムービースターのクリス・ヴィンヤードらしい。

「いてるんやろ?」

「えっ?」

「お前の周りに…怪しい外国人の女が…」

「バ、バーロー!いるわけねーだろ!」

「ホンマか?」

「おい、それってまさかジョディ先生のことか?」

博士……服部君の前で言ったらダメでしょ…

「よっしゃ!試しに今からその先生んとこ行ってみよか?」

やっぱり…

「姉ちゃんも行くやろ?」

「断る」

「よっしゃ!決まりやな!姉ちゃん保護者代わりよろしゅうな!」

「聞けよ!新一と出かけるなんて絶対に嫌!」


***


私の叫びも虚しく結局来てしまった…

「ジョディ・サンテミリオン。ここやな」

「いいか服部、今日はあくまで探り。妙な真似すんなよ…」

「ああ、分かってる。そんで?先生に何ちゅうねん?ここへ来た訳」

「えっ?考えてねーのかよ?言い出しっぺはオメーだろ?」

「じゃあやっぱり帰りましょ!」

「そうだな」

乗り気じゃない私達に服部君がここまで来て引き下がれないと言ったその時、彼はインターホンを弾みで押してしまった。

そしてジョディ先生が答えてしまったので、新一がなんとか友達と一緒に遊びに来たと誤魔化した。

それにしても先生なかなか出てこないな…

隣の酔っ払い達を眺めていたら先生がやっと出てきた。

物凄くセクシーなバスローブ姿で、新一と服部君は顔を赤くし、私は自分の身体と比べて落ち込んだ。

私達は外食することになり、私だけ先にロビーで待つことにした。2人はトイレを借りると言ったがおそらく本当に出てくるのが遅かった原因がお風呂なのか調べているのだろう。

私は知らない!何も知らない!

しばらく待つと3人がやって来たので、私達はエントランスから出た。

すると、先程ジョディ先生の隣の部屋から出て行った女性がマンションの写真を撮っている姿を目撃した。彼女はジョディ先生の隣人の恋人らしいが、なぜマンションの写真を?

不思議に思っているとマンションの一室から携帯電話が落ちてきて、更に………

私はとうとう死体を見てしまった………


***


「うーん、あれ?どうして私ベッドに?」

「葉月さん、やっと気がついたか…」

「し、コナン君!私いったい…」

「死体見て気絶した葉月さんをジョディ先生が彼女の寝室まで運んでくれたんだ」

「そうだったんだ…」

「俺らこれから実験して犯人を追いつめるんや!ちゅう訳で姉ちゃんも隣の高井さんの部屋まで行くで!」

「う、うん…」

名探偵2人によって事件は解決したが………

帰り道に2人はジョディ先生のことをやはり怪しいと言っていた。彼女の髪は濡れていたのにドライヤーは熱を持っており、ボディローションも風呂場に落ちていたため、シャワーを浴び終えて何かをしていたら私達が訪ねてきて、時間稼ぎのつもりでシャワーを浴び直した証拠とのことだ。そして彼女が2人の写真を撮りまくっていたため、実験を口実に酒で酔わせ眠るように仕向け、フィルムを奪ったそうだ。

新一は服部君にあまり組織のことを話したくないのか、彼が待たせている友人のことを切り出して慌てて帰らせた。

「怪しいのは…もう2人…」

「えっ?」

「1人はバスジャック事件の時に葉月さんの隣に座っていた、事情聴取の時に赤井秀一と名乗った男…」

「やっぱり…あの人バスジャックの後電話で、ターゲットは現れず…後日改めて調査を再開するとか言ってたわ…」

「マジかよ!」

「ええ…もう1人は?」

「新出先生…前に違和感を覚えたんだ。本物の先生が組織の人間とは思えないから可能性としては…クリス・ヴィンヤードの変装…」

確かにジョディ先生も赤井秀一も新出先生も怪しい。3人ともバスジャック事件の事情聴取の時に、毛利小五郎が解決した事件の調書を盗むチャンスがあった。

それに町医者に変装すれば不特定多数の人と接する機会があり、ターゲットもあぶり出しやすい…

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