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私の名前は志村葉月。年齢は26歳。ちなみに彼氏いない歴26年。職業はミステリー翻訳家。
東都大学文学部を卒業後、私は幼少の頃から家族ぐるみの付き合いをしていた工藤優作さんの元でミステリー翻訳の修行をすべく渡米し、つい最近帰国しデビューした。
優作さんと有希子さんから工藤邸にタダで住んでよいと言われ内心舞い上がったが、なんと一人息子の新一の秘密を聞かされ陰ながら見守ってほしいと頼まれてしまった。新一はいかにも悪そうな男達の取引を目撃し、背後から来た仲間に殴られ変な薬を飲まされ身体が縮んでしまったのだ。
帰国後、早速新一と事情を知っている阿笠博士に会いに行くと灰原哀ちゃんという少女もいた。なんと彼女が新一が飲まされた毒薬を作らされており自らもその薬を飲んで子供の姿になった張本人とのことだ。新一は組織では死んだ事になっているが、哀ちゃんの方は逃亡者として追われているらしい。
そんな重大な秘密を知ってしまった私はこの先大丈夫なのだろうか…
新一は江戸川コナンとして想いを寄せている毛利蘭の元で居候をしており、何故かよく事件に巻き込まれ、彼女の父親で探偵の毛利小五郎を眠らせ、彼の声を使って推理ショーを行なっているとのことだ。組織の事に関わらず新一の周辺は大変そうなのでできれば関わりたくない。
まぁ、私の職業は翻訳家で家に引きこもっているから心配は無用だろう。
そんな私が今どうしてバスに乗っているかというと翻訳の為に博物館で調べたい事があるからだ。
出発を待っていると少年探偵団と風邪をひいて咳き込んでいる阿笠博士が乗ってきた。
何事も起こりませんように…
会話を盗み聞きしていると一行がスキーに行くことが分かったので目的地が同じじゃなくてホッとした。
「Hi, Cool kid! また会いマシタネ!」
乗ってきた外国人女性が新一に声をかけた。どうやら彼女は蘭の高校の英語教師で名前はジョディ・サンテミリオンというらしい。とても美人なので彼女を見た後窓に映る自分を見てガックリしてしまった。
溜息をついていると隣に物騒な雰囲気の風邪をひいた男が座ってきた。あまりにも怖いのでずっと窓の方を見ていよう。
すると銃声が聞こえた。
「騒ぐな!騒ぐと命はないぞ!」
なんてこった…
呪われている新一とバスで一緒になったせいでバスジャックに巻き込まれてしまったではないか…
責任とってくれよ…
バスジャック犯2人の要求は服役中の矢島邦男の釈放とのことだ。
1人が一番後ろの席にやって来た。
「おい、お前携帯を出せ!」
「けっ、携帯止められているので持ってきてません!」
「チッ、隣のお前もだ」
「あっ、すみません。携帯持ってないんですよ」
私が平静を装いながら嘘をつくと隣の男は淡々と言った。
「そこのオヤジ、その耳に付けてるものは何だ?」
「ほ、補聴器です!若い頃に耳を悪くして…それで!」
「おいそこの!クチャクチャうるさいぞ!」
「当たり前でしょ?ガム噛んでるんだから。それに、こんなことしてもどうせあんたら捕まっちゃうんだから早いとこ逃げて諦めた方が身の為…」
その言葉に怒った男が女の真横を撃って座席に穴を開けた。
怖いよ…
ビビりな私は隣の男の腕にしがみついてしまった。
バスジャック犯が前の方へ戻るとジョディ先生が脚を乗り出し、それにバスジャック犯がつまづいて転んだ。
「こ、この外人女!」
「Oh, sorry」
そして警察が要求を飲み、バスジャック犯2人は床にスキーケースを並べた。
いったいこれから何をする気なのだろう…?
そう不安に思っていたらなんと新一が座席から降りてしまい、案の定銃口を突きつけられた。
「やめて下さい!ただの子供の悪戯じゃないですか?」
新出医院の新出智明先生が新一の前に出た。説教を始めた新出先生をハイジャック犯が撃とうとしたらもう1人の仲間に止められた。アレに当たったらまずいと聞こえたが、スキーケースのことだろうか?
「おい、そこの青二才と奥の風邪をひいた男!前に来い!」
首都高に入る直前でハイジャック犯が新出先生と私の隣の男に命令した。
「あっ…」
腕を離され思わず声が漏れてしまった。
「大丈夫だ」
若干微笑みながら小声でそう言った彼は私の頭を撫でてくれた。
こんな状況なのに何をドキドキしているんだ私は!
更にガムを噛んでいる女も人質として前に呼ばれ、運転手は命令通りスピードを上げた。
「下手な真似はするなよ!俺達の言う通りやってりゃ助かるん…」
「よく言うよ。どうせ殺しちゃうくせに」
新一が挑発した。
「なんとかしないとみんな殺されちゃうよ。この爆弾で…」
新一がそう言うと少年探偵団が口紅で落書きされたスキー板を掲げた。
「この…」
すると運転手が新一に言われて急ブレーキをかけた。板を押さえたのは光彦くんと元太くんで、ハイジャック犯を倒したのは1人は新一(武器は毛利さんを眠らせるのに使う腕時計型麻酔銃)で、もう1人はなんとジョディ先生だった。
「Oh 降参デスネ!」
「はわあああ!!!」
人質のフリをしていた実際には3人目の仲間の女が急に声を上げたので全員が注目した。
「早く逃げなきゃ!今の衝撃で腕時計をぶつけてしまって爆破装置が作動しちゃったのよ!爆発まで30秒もないわ!!」
ええええーっ!!!
私達は慌てて逃げた。間もなくバスは爆発したが皆無事…いや新一だけは怪我を負ってしまったようだ。
そうだ!私の隣にいた男の人にしがみついたことを詫びて、少しだけ安心させてくれた事にお礼を言おう!
あっ!いたいた!
「2月23日、不測の事態により追尾続行不能…ターゲットは現れず…後日改めて調査を再開する…以上」
えっ、嘘…ターゲットって何…
物騒な顔で電話していた彼が怖くなって私はさっさとパトカーに乗った。
まさか彼は例の組織の人で、ターゲットは哀ちゃんなんじゃ…
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