祐希は、イギリスに来る前は日本にいた。
日本のとある孤児院で静かに暮らしていた。
祐希は幼いころにこの孤児院の前に捨てられていたらしい。さすがにそのころの記憶はない。
しかし、祐希にはある記憶が存在していた。
いわゆる前世というものだった。
そのため、祐希は周りの子供たちより大人びていたため、まわりからは気味悪がられていた。当たり前だ。前世ではしっかり寿命をまっとうして死んでいる。つまり、精神年齢は、たった4歳児にして高齢だった。
子供を相手にするより、その辺の老人を相手に話した方が話しやすいというほどである。
そんな子供を引き取る親が現れるはずなどなく、祐希は運命の手紙が来るまでこの孤児院で過ごすことになった。
祐希には不思議な力があった。それはいわゆる魔法と呼ばれるものだ。
しかし、それは祐希にとっては当たり前だった。なぜなら前世でも当たり前のごとく使えていたからだ。
そして、使い方も熟知していた。しかし、その魔力を媒介として作用させるための杖を祐希は持っていなかった。杖がなくとも使えることは使えるが、周りは魔法の存在など知らない人間ばかり。
だからこそ、祐希はすぐに自分が魔法を使えるということを隠すことにした。
そして隠しながら生活した。
たまに暴走しかけて、自身がいつのまにか屋根の上に登っていたり、ちょっとムカついた相手の鼻を蜂に刺されたかのように膨れさせたりしたが、その程度しか使っていない。
祐希はただじっと時を待った。
祐希はある賭けをしていた。それは自分との賭けだ。
その賭けとは、11歳になっても手紙が来なかったら自分から一切の前世の記憶を消すというものである。
なぜなら、普通の子供として生きていくには前世の記憶も、この魔力も邪魔でしかなかったのだ。そして、前世と同じ世界だという確信も持てなかったためだ。違う世界ならば、それこそ、前世の記憶は邪魔でしかないだろう。
そして、もし、11歳になってある手紙が届いたとしたら、前世からの人間として、祐希という人物を前世からの延長線上にあると考えて、この世界を楽しもうと決めていた。
そして、祐希は賭けに勝った。
フクロウとともに投げ込まれた手紙には確かに自身の名前とホグワーツ入学許可と書かれている。
ホグワーツ魔法魔術学校。
その懐かしい響きに祐希は知らず、笑みを浮かべていた。
「ああ、やっと帰れるな」
感嘆の吐息とともに懐古の念が湧き上がる。
そして、頭に描くのはそびえたつ立派な城だ。
あの城は前世で魔法学校にするために彼らとともに築いた城だ。様々な守りとともに、それぞれのちょっとした遊び心なんかもいれてつくられた城だ。
「ゴドリック・グリフィンドール」
手をかざす。
その手は記憶の最後にあるような萎びた手ではない。張りがあり、やわらかく、また小さな手だ。
学校を築きあげたときのような若々しい若者のそれでもなければ、死に際の老人のそれでもない。幼い手がそこにある。
「あいつらに、会えるだろうか」
孤独にも耐え、問題を起こさぬよう必死に自身を戒めてきたのは一重に彼らと再び出会うためだ。
「はやく、会いたいな」
逸る気持ちに、頬を緩ませる。
きっと見つけられる。また再びであえる。
今度は創設者としてではないけれど。ゴドリック・グリフィンドールではないけれど。それは彼らとて同じだろう。生まれ変わっていたとしたら、きっと同じように魔力を持ち、そして同じように違う名前を持ち、あのころとはまったく違う11年間を送っているはずだ。
そんな彼らに出会うことがとても楽しみだった。
祐希は確信していた。
他3人もまた転生していると。
そして、再びであることを。
「彼らに出会えたことは、俺の人生において最高の幸運だったのだから」