人生幸福論 | ナノ


01:キングズ・クロス駅  










祐希は困惑していた。


手に持っている切符には『九月一日――キングズ・クロス駅発―――九と四分の三番線―――十一時発』と書かれている。


そして、今立っているホームの番号を見る。


右側に九番線。左側に10番線がある。立ち止まっている祐希の周りには、狭しなく足を動かしては通り過ぎていく人たちでごった返している。


時計を見ると、まだ十時三十分だ。しかし、この調子ではすぐに十一時なんて来てしまうだろう。これは、初日から遅れてしまうことになりかねない。


祐希は頭を掻いた。


「困ったな…。直接行くわけにもいかないしな…」


祐希は苦く笑いながらもう一度切符を眺める。


そして、周りを見ると、一組の家族が目に入った。


同じような人間がごった返す中で、その家族は異様だった。


なぜなら、アメジスト色のローブを身にまとった夫婦が、大きなカートにのった荷物をせっせと押す子供を急かしている。


その子供が押すカートには、鳥籠があり、その中には周りを見回しては警戒心をにじませているフクロウがいた。


「……なんという、わかりやすい」


思わず漏らした言葉は、雑踏の中へと消えて行った。


祐希はすぐにその一家を追いかけた。


そして、行きついた先は、九番線と十番線とかかれた柱だった。


見ていると、その柱に向かって子供が一直線に走っていく。あれでは扉にぶつかってしまう、と思った時、その子供はあとかたもなく消えていた。


いや、消えていたのではない。壁の中に吸い込まれていったのだ。


そして、それを追いかけるようにして、アメジスト色のローブをまとった夫婦も壁の中へと入っていく。


祐希はなるほど、と深く頷いた。


その壁に近づき、そっと触れる。触れたと思った手は、触れた感触はせず空をかいているようだった。


魔法族のみ通すようになっているようだ。その柱に施された魔法に触れて、祐希はよく考えられている、と感心した。


しばらく、柱を遠目に見たり、体を入れたり出したりと一通りその柱を堪能してから、祐希はようやくカートごと中へと足を踏み入れたのだった。


柱をくぐった先には、ホームに留まる汽車があった。


ちらほらと家族連れが目につくなか、汽車に近づくと車掌さんが一人近づいてくる。


この荷物はどうなるのかと尋ねると、ホグワーツにつくと同時にホグワーツ城へ運びこまれ、寮が決まればすぐに各々の部屋へと移されるとのこと。


丁寧なことに、車掌さんは制服や杖、貴重品は持って入った方がいいことを教えてくれた。制服はコンパートメントでそれぞれ着替えるらしい。


それに従い、小さなバックとともにいくつか荷物を取り出し、あとはすべて彼にあずけた。


本当に随分便利な世の中になったものだ。


しばらく、汽車を端から端まで眺めて歩き、気がすんでから中へと入った。まだ人はまばらだったため、すぐに空いているコンパートメントへ座ることができた。入口から遠い最後尾のコンパートメントだったことも幸いしていたらしい。


それからは、窓からホームへ続々と入って来る家族をなんとはなしに眺めながら、まだ祐希が故郷にいたころのことを思い出していた。


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