人生幸福論 | ナノ


27:ヴォルデモート  




そこにいたのは、やっぱりというかなんというか、クィレルだった。やはり、彼は誰かに脅されていたわけではないらしい。そして、スネイプはそれに気づき、彼を監視していたのだろう。


ただ、ハリーに気まずい場面を見られすぎたというだけで。


つくづく、間が悪い人だ。


「僕は…スネイプだとばかり…」


ハリーが愕然としているのを聞きながら、俺はそっと杖に手を伸ばす。


「そこの赤司はどうやら私を疑っていたようだがね」

「祐希?」

「俺、何回か言っただろう?犯人を決めつけるのは早いって」

「でも…、だって…」

「まあ、スネイプのあの態度じゃ、勘違いしても仕方ないだろうけどな」


さてさて、どうしていこうか。なんだか嫌な予感がびしばしするんだが。


クィレルの前には溝の鏡が立っている。そして、その鏡にはターバンを巻き、いつもより堂々とたつクィレルの姿が映されている。


今までの誤解をクィレルが懇切丁寧に解いて行ってくれる。


それを聞きながら、俺はどのタイミングでどうしようかと必死に頭を巡らせていた。


未だに溝の鏡の前に立っているということは、クィレルは賢者の石を手に入れられていないということだ。


クィレルがパチッと指をならした。縄がどこからともなく現れ、俺たちの体に固くまきついた。


クィレルは話し続け、ハリーが引き延ばすように問いかける。それを静かに聞きながら、手にはいまだに杖が握られている。いつだって抜け出すことは可能だ。


ハリーがもぞもぞと動く。縄をほどこうとしているのだ。それをしながらも、ハリーは鏡を念入りに調べているクィレルに話しかけ続ける。


「それじゃ、あの教室で、あなたは『あの人』と一緒にいたんですか?」

「私の行くところ、どこにでもあの方がいらっしゃる」


ああ、これはやばいかもしれない。一度ホグワーツの警備体制というか、結界というか見直さなければいけないんじゃないだろうか。


警戒していた第三者がまさかのヴォルデモートだったとは。これは、教師や生徒ではなかったことに安堵すべきなのか、いきなりラスボスが来たことに嘆くべきなのか。まだハリーと接触することはないだろうと思っていたのに、読みが甘かった。


突如、しわがれた声がクィレル自信から聞こえた。それはハリーをつかえと言い、クィレルはそれに答える。ハリーだけが鏡の前に立たされる。俺からはハリーとクィレルがただ仲良く鏡に映っているだけにしかみえなかった。


ハリーがごまかそうとすると、再び声が聞こえる。


それがハリーの嘘を見破り、クィレルが激昂した。


そして、声が直に話すというと、クィレルがゆっくりとターバンをほどきだした。


ターバンが落ちた。ターバンの下にあるであろう髪はなく、そこにはないはずの顔が浮かび上がっていた。それはあまりにも奇妙な光景だった。


そして、俺は愕然としていた。


まさか、まさかそんなところにヴォルデモートがいるとは思わなかったのだ。人に寄生し生きているなど。そうまでして生に執着するのか。そんなに醜い姿になってまでも。


ギラギラと血走った目。鼻孔はヘビのような裂け目になっている。スリザリンの末裔だというのにサラザールとは似ても似つかなかった。


「ハリー・ポッター…」


声がささやいた。緊張が走る。俺は無言呪文で縄をほどくも、まだほどけていないように繕った。


まだだ。賢者の石のありかがわかっていない。まだ動くわけにはいかない。


しかし、顔だけのヴォルデモートが言った。


「ポケットにある石をいただこうか」


ハリーがよろめきながら後ずさりした。


「命を粗末にするな。わしの側に付け。さもないとお前もお前の両親と同じ目にあうぞ。二人とも命乞いをしながら死んでいった。」

「嘘だ!」


それが合図かのようだった。俺は素早く杖を抜き、ヴォルデモートめがけて失神の呪文を放った。しかし、それは、即座に反応したクィレルの杖によって逸らされ、続いて放った呪文もことごとく他へ逸らされた。


「ハリー!石を持って逃げろ!」

「小賢しい小僧め!」


クィレルが叫んだかと思うと彼の手が前方を凪いだ。


強い衝撃波の様な突風が吹き付け、俺の体は宙を浮く。そして、石柱へと叩きつけられた。みしっと骨が音を立てたような気がした。痛みが体中を駆け回る。


「祐希!」

「さあ、友をお前の両親のように殺したくなければ石をよこせ!」

「ハリーッ、ダメだ!」

「っ、やるもんか!」

「捕まえろ!」


ヴォルデモートが叫んだ。次の瞬間クィレルの手がハリーの腕をつかんだが、悲鳴をあげたのはハリーではなくクィレルだった。


クィレルの手から煙が上がり、鉄板で肉を焼くときの様な音がする。しかし、ヴォルデモートが捕まえろと煽るなか、ハリーが自分の手をクィレルの顔に押し付けた。


それは断末魔のようだった。


クィレルが痛みに叫び転がる。


危険信号がなった。このままではクィレルが死んでしまう。


ヴォルデモートも叫ぶ。すると、俺の目にははっきりと、ヴォルデモートがもやのようになってクィレルから抜けていくのが見えた。


「ハリーッ!もうやめろ!」


動こうとするが、思った以上に壁に叩きつけられたときの衝撃は強かったらしい。全身に電流のように走った痛みが動きを鈍らせる。


杖に手を伸ばしたとき、ハリーのそばに長いローブが駆け寄った。


ハリーの名を呼び、その体を押さえつける。ダンブルドアだ。ハリーはダンブルドアの腕の中で意識を失ったのか力が抜けおちて行った。


「これは…、」


ダンブルドアは顔の形を失ったクィレルを見下ろし驚愕を露わにする。


「まだ、生きているようですな」

「セブルス…」

「殺すことをお勧めします。まあ、このまま放っておいても生きながらえることはありませんでしょうがね」

「やめろ!…やめてくれ。ハリーを人殺しにしたくない」

「祐希。その怪我は…」

「大したことは無い。盛大にぶつけただけだ」


クィレルはかろうじて息があるのか、すすりなく声が微かにきこえる。顔が酷いやけどを負ったようにただれているが、息があるだけましだろう。


「ダンブルドア校長。彼を生かしてくれ」

「何をばかなことを。貴様も見ただろう。こやつはあの『例のあの人』と繋がっていたのだぞ」

「それでも、もうヴォルデモートは彼から抜けて行った。同じようにまた彼に憑りつくとは考えずらい。こんなにも消耗しているんだから」

「……よかろう。セブルス。済まぬが、すぐに彼を聖マンゴへ」

「校長」

「セブルス。頼む」

「………」


スネイプは盛大に顔をしかめると、杖を一振りしてクィレルを浮かし、姿を消した。おそらく、一時的に姿現しをできるようにしているのだろう。


「いろいろと聞きたいことがあるが、ひとまずここを出てからにしようかの。おっと、鏡は…」

「賢者の石なら、ハリーのポケットに」

「ほうほう、よく、守ってくれたの」


俺はそれには何も答えず、ただただ心の中でこのタヌキ爺めと悪態をついた。


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