人生幸福論 | ナノ


24:黒か白か  




「とりあえず、ダンブルドアに手紙でも送ろうか」


彼が帰ってこなければ話にならない。


そう思って俺たちは簡潔に匿名でヴォルデモートが賢者の石を狙っていることとハリーたちが今夜それを取りにむかうことを書いて、梟小屋に向かった。


「おやおや。クリフデン。お前はこんなところで、何をしているのかな?」


感情を極力抑えたような猫なで声が背後から聞こえてきて思わず足を止めた。


振り返るとそこには予想通り、育ち過ぎた蝙蝠のように全身真っ黒にねっとりした髪をしたスネイプがいた。


「スネイプ教授」


スネイプの顔には明らかに、なぜサラが俺の様なグリフィンドール寮生といるのかと書いてある。


「あー、俺たち友達なんです」

「ほう、我輩はクリフデンに聞いたのだがな。貴様はいつからクリフデンになったのだ?ミスター・赤司」


思わず深いため息をついた。なんだってこの人はこんなにもグリフィンドールを嫌うんだ。


俺は、あとは任せたとばかりにサラへ視線を向ける。たぶんここで俺が何を言っても彼は機嫌を悪くするだけだろう。


「先生。彼とはこの学校に来る前の列車の中で知り合っていたので」

「ほう。そうか。それで、仲良くお手紙でも出しに行くのか?え?」

「いえ、これは実家に送るためのものです。彼にあったのは偶然です」


サラは手紙をスネイプへ差し出した。ちらっと見えた宛先には、先ほどまでダンブルドアだったものがクリフデンになっている。いつのまに変えたんだか。


スネイプはそれをさっと見た後すぐにサラに返した。


「それで、貴様はこんなところで何をしているのかな。ポッターたちはどうした」

「いつも一緒ってわけではありませんよ。スネイプ教授。それにしても、こんな時にポッターの話題が出るなんて、随分気にかけていらっしゃるんですね」


俺がハリーたちと同じ席で授業に出たのは少なかったはずだ。初回でネビルがやらかしそうになって以来ネビルと組むことが多かったし。


それなのに、俺がハリーたちとよく行動を共にしているって知っているのは、ハリーたちをよく見ているということだろう。


さて、それはいい意味でなのか悪い意味でなのか。


スネイプは分かりやすいほどに顔をしかめた。あれ、この人ってこんなにも顔に出る人だったか?


「貴様らが何をたくらんでいるのかは知らないが、行動するならもっと慎重にするのですな。先ほどポッターたちにも言ったが、グリフィンドールはこれ以上減点される余裕はないはずだろう」

「そうなんですよねえ。今年の寮杯はスリザリンに取られそうです」


残念残念。と笑ってみせると、奇妙なものを見る目で見られた。スネイプ教授って言葉よりも目で語るタイプだよな。


「貴様は…、いや、いい…」


くるっと踵を返し去っていこうとするスネイプを慌てて呼び止めた。


「スネイプ教授。一つ、質問をいいですか?」

「…なんだね。我輩は貴様らとは違って忙しいのだ。下らない質問に手を煩わせないでほしいものだが」

「クィレル先生って、以前からDADAの教授だったんですか?」

「……マグル学だがそれがどうしたというのだね」

「いいえ。授業で少し思うところがあったのと、以前誰かに脅されているような現場に遭遇したので。声しか聞こえませんでしたけど」


スネイプの顔が一気に険しくなった。


「俺、考えたんですけど、例えばあの4階の部屋って厳重な守りだから、何か大切なものが守られているとして、それを誰かが狙っていて、クィレルにその守りの解き方を聞き出していたとしたら?今日はダンブルドア校長先生はいらっしゃらないみたいですし…とか」


スネイプの顔から表情が抜け落ちたようだ。暗い表情に感情がなくなったことでより暗く落ち窪んで見える。


スネイプはたっぷり間を開けると、ようやく喉から押し出したような声を出した。


「くだらない、妄想ですな。クリフデン、友人は選んだ方が身のためじゃないかね?」


サラの返事を待たずに今度こそ踵を返したスネイプは足早に去っていった。


それを見送っていると、後頭部に衝撃が走った。


「イタッ」

「バカが。何を言っているんだ。もしスネイプ教授が犯人だったら殺されても文句言えないぞ」

「だってさ、こんなどっちつかずなふわふわした状況、もどかしいだろ?」

「だからって、無謀と勇敢は違うぞ」

「わかってるって」


俺たちは当初の目的通り梟小屋へ足を向ける。


「にしてもさ、スネイプ教授ってかなりの手練れだな」

「ああ。閉心術の心得もあるようだ。それもかなりの」

「最初は結構、口ではあまり言わないけど、目で感情を語るタイプに思えたけれど、ポーカーフェイスもなかなかだ」

「あれはポーカーフェイスなんてもんじゃないだろう。表情が抜け落ちていた」


それまで雄弁に感情を語っていた目に何の光も通さなくなったのを見ると、ぞっとした。何があの人をそこまで感情をなくさせたのだろう。


「で、どっちだと思う?」


俺は複雑な気持ちを隠すように軽い口調でサラに問いかける。


「何が」

「もちろん、スネイプ教授は黒か白か」


サラが立ち止まった。俺も立ち止まりサラと向かい合う。


目があい、お互い口角を上げた。


「白だ」


二人同時だった。


お互い、彼を白だと判断したことにさらに口角は上がる。


「まあ、あの性格だし容姿だし今までの行動だしで紛らわしい人ではあるけどな。さて、次だ。思わぬ形でスネイプとは接触できたからな」

「なら、クィレルか?」

「うん。クィレルから誰に脅されているか聞ければいいんだけどな。それか、クィレルが犯人なのか」

「難しいだろう。脅されている側が脅している人間を、生徒に話せるわけがない。ましてや犯人なら素直に吐くどころか俺たちが危害を加えられかねない」

「そこだよなー」


頭をかく。どちらにしても、クィレルから真犯人を聞き出すのは難しいだろう。真実薬なんか持っているわけもなければそんなもの飲ませられるわけもない。


「どーすっかなあ」

「スネイプ教授を仕掛けたんだ。彼が動いた方がことは運びやすいんじゃないか?」

「でも、スネイプだぜ?今までもハリーが見聞きしたかぎりいろいろやってたみたいだけど、クィレルが陥落したってことはそれも意味をなしていないんだろう。っていうか、スネイプはクィレルをどう見て接触してたんだろうな?」


クィレルが誰かに脅されて陥落されそうになっていると考えていたのか、それともクィレルこそ真犯人だと思っていたのか。


ハリーが聞いたという会話から考えると、どちらとも取れるものだから困ったものだ。もっとも、スネイプ自身、態とあいまいな言い方をしていたのだろうけれど。


「スネイプ教授は白だ。それは、クィディッチの試合から見ても、俺がハロウィンの日に見た彼の姿から見ても断定できるだろう」

「ああ、そっか。三頭犬相手にしてたんだったな」

「なら、クィレルはどうだ?」

「俺の印象は限りなく黒に近い」

「なら、クィレルをヴォルデモートの手下と考える。けど、結構無謀なことしていないか?先生が見ている前でハリーの箒に呪いをかけたり、トロールを入れたり」

「それぐらい無茶をしなければ、ダンブルドアの守りを崩すことはできないと考えたんだろう」

「というか、共犯とかいないよな?だって、クィレルが誰かに脅されたような声をハリーが聞いている。そして、その相手はおそらくスネイプじゃない。さっきの反応は知らなかった奴のものだ」

「なら、何か?生徒か教授の中に最低でももう一人、そしてクィレルより立場が上の人間がいる?」

「この学校のセキリュティをもう一度見直す必要がありそうな話だな」


頭が痛くなってきた、と蟀谷を抑える。


そう、もし脅していたのがスネイプではないなら、もう一人謎の人物が出てきていることになる。しかも、俺たちが怪しいと思っていたのはスネイプかクィレルの二人。そこに第三者の存在が出てくるということは、その第三者は俺たちにも気づかれないほど慎重に行動していたことになる。つまり、侮れない相手というわけだ。


「えー、そんな怪しい奴なんていたか?」

「ポッターの聞き間違いではないのか?独り言とか」

「独り言で怯えるってどんな独り言だよ」

「そうだが…」

「というか、これもクィレルが黒だった場合の話だろ?」

「まどろっこしいな。クィレルに関しては面と向かい合えばわかる。そうだろう」

「ああ。そういうことだ」

「貴方たち、何をしているのです?」


俺たちがうなずき合ったところで後ろからかかった声に肩を跳ねさせる。険のある声は固く俺たちの体を硬直させる。


コツコツと足音をさせて近づいてきた人物を見て、俺たちは体からどっと力が抜けた。


「アリィ!おどかすなよ」

「まったく。こんな往来でするような話ではないですよ。通りかかったのが私でなければどうなっていたか。もっとよく考えて行動してください。ただでさえ、今はグリフィンドールとスリザリンの関係は微妙なんですから」

「ああ、だが」

「だが、ではありません。大体、二人でこそこそしてなんですか。この学校のことなら私にも話を通すのが筋ってものではありませんか?」

「ごもっともです」


俺は肩をすくませ顔をふせた。ぷりぷりと怒っているアリィ。彼女はロウェナの時から説教が長く、こういうときは素直に謝り反省を見せた方がいいのだ。


「それで?誰と面と向かい合うんです?」


俺とサラは顔を見合わせた。


この学校のことは、創設者の時代は何事も4人で情報を共有し意見を出し合い決めてきた。誰かがリーダーということはなく、誰もが決定権を持つようにしてきた。そうすることで、独裁を防ぎ、性格も考え方も違う4人だからこそ見えてくる新たな考え方があったのだ。


「悪い。ちゃんと話すよ」

「ええ。もちろんです」


肩を竦め、今度こそ素直に謝る。


今は生徒の立場とはいえ、あのころの記憶も持っている。俺たちは子供であって、子供ではない。あのころのように教師という立場でもなければ創設者でもない。


しかし、俺たちはあのころの記憶を持ち、知識を持ち、技術を持っている。


「でも、あまり時間はないんだ。歩きながら話そう。この学校に通う子供たちのためにも、そして、俺たちの立場のためにも、君の意見が聞きたい。ロウェナ。いや、アルウィーン・キンス」


その言葉が、祐希・赤司としてなのか、ゴドリック・グリフィンドールとしてなのか。そんなのはもうどっちだっていいのだ。


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