ある朝、真っ白なフクロウ、ハリーのヘドウィッグが手紙を運んできた。
たった一行の手紙だった。
「いよいよ孵るぞ」
ロンは薬草学の授業をさぼってすぐに小屋に向かおうとしたが、ハーマイオニーがガンとして受け付けない。
「だって、ハーマイオニー、ドラゴンの卵がかえるところなんて、一生に何度も見られるともうかい?」
「授業があるでしょ。サボったらまためんどうなことになるわよ。でもハグリッドがしていることがばれたら、私たちの面倒とは比べ物にならないぐらい、あの人ひどく困ることになるわ」
「黙って!」
ハリーが小声で言った。
マルフォイがほんの数メートル先に居て、立ち止まってじっと聞き耳を立てていたのだ。
その後ろにはもれなくサラもいて、俺を睨み付けている。
ひくりと顔が引きつった。やばい、聞かれていたかもしれない。
結局、ハーマイオニーが折れて、午前中の休憩時間に急いで小屋に行ってみようということになった。
俺は周りを気にしながら小屋へと急いだ。実は、俺もドラゴンが孵るところをみてみたいと思っていたのは内緒だ。
ハグリッドは興奮で紅潮したまま俺たちを迎え入れた。
卵はテーブルの上に置かれ、深い亀裂が入っていた。中で何かが動いている。こつん、こつん、という音がする。
椅子をテーブルのそばに引き寄せ、みんな息をひそめて見守った。
突然ひっかくような音がして、卵がパックリ割れた。中から赤ちゃんドラゴンがテーブルに出てきた。
可愛いとは言い難かった。ひしゃげた体に巨大な骨っぽい翼がついている。赤ちゃんがくしゃみをすると鼻から火花が散った。
ハグリッドは美しいだろうとうっとりつぶやいた。頭を撫でようと差し出した手は、噛みつかれていた。
しかし、ハグリッドは盲目になっているらしく、ママがわかっているんだと興奮している。
いや、ただたんに自分より大きいものに威嚇しただけじゃないか?それか腹がすいているだけ。というか、ノルウェー・リッジバックって有毒種じゃなかったっけ。
ふと、俺は見知った気配が近くでした気がして、顔をあげ、周りを見舞わす。
ハグリッドがはじかれたように立ち上がり窓際に駆け寄った。
「カーテンの隙間から誰かがみておった。子供だ…。学校の方へかけていく」
ハリーが急いでドアに駆け寄り外を見た。俺は、見知った気配がその子供だったのか、と首をかしげたが、再びドラゴンがくしゃみをして俺の方に火花を出したことでその疑問も吹き飛んだ。
次の日、俺がハリーたちから離れ一人になるところを狙っていたかのようにサルヴァトアにつかまった。
どこぞの誘拐犯のように手慣れた動作で俺の腕をつかみ空き教室に引っ張り込み、ついでに防音魔法まで施しやがった。
「あー、随分手荒い歓迎だな?」
「貴様、俺に何かいうことがあるだろう」
それは疑問形ではなく確定。
顔が引きつるのがわかる。どきどきと心臓が嫌な音を立てるが、俺はとぼけて何のことだ?と首をかしげた。
「わかっているのだぞ。なんせ、あの場に俺もいたのだからな」
がっくり首をうなられさせた俺は悪くないだろう。
「やっぱ、昨日の気配はサラだったのか」
大方、姿を消してついてきてたのだろう。
マルフォイを置いて、俺に見つかる危険性だって考えたうえでそうまでしてドラゴンの孵化をみたかったのか。
こいつの魔法生物好きは、生まれ変わったぐらいじゃ変わらないらしい。
「それで、俺を拉致まがいなことまでして捕まえた理由は?」
「わかっているだろう?」
「いいや?」
わざとらしく首を振って見せる。
自分から言わずして何もかもが伝わると思うなよ。
言いたいことはなんとなくわかってはいるけど。
サラザールは昔から、一人でなんだってこなしてしまう。それぐらい優秀な奴だった。何かに困っても、自分でどうにかしようと画策する。
昔から頼るということをしなくて、人に甘えることが苦手だった。
だからかしらないが、自分ではどうしようもなくなったとき、こうやって人目を避けた場所でこっそり言外にお願いごとをしてくるのだ。
俺たちも長年の付き合いから、サラが何を言いたいのかなんとなくわかってしまうため、言わなくてもうなずいてしまうことが多かったのだが、それじゃいけないと思っている。
つまり、ちゃんとお願い事は口に出してしろってことだ。
「…意地が悪いな」
「ハハッ、お前は意地を張りすぎだ」
すねたサラを笑い飛ばす。サラは、ひどく困惑していた。きっと、俺に頼まないですむ方法を一生懸命探しているんだろう。
だが、サラはスリザリンということもあるし、ハグリッドとは面識がない。今あの小屋を尋ねたところで、雛を守る母親同様、外部を警戒しているハグリッドが入れてくれるとは思えなかった。
やがて、あきらめたのか深いため息をつく。俺は思わず口角が上がった。
「…そのにやけた顔をどうにかしてくれ」
「元からこの顔だ」
「だったら、そうとう不細工だな」
「それで、結構。で?本題は?」
なお、言い逃れしようとするサラに先を促す。
「………は、ハグリッドとの仲介役になってくれ」
まるで好きな相手と知り合いたいがために仲人をしてくれとでも言われたかのようなセリフだ。
「サラ直々のお願いじゃしょうがねえな。とりあえず、今日一緒に行ってみるか。ハグリッドにあってからは、自分で頑張れよ」
「ああ、恩に着る」
「昔みたいに、暴れられても迷惑だしな」
「あれはお前たちが悪い」
「まだいうか」
いまだに根に持っているらしいサラを小突き、今日の授業後に待ち合わせをして俺たちは別れた。
俺は、サラと落ち合う前にハグリッドに短い手紙を出しておく。内容はドラゴンとかすごく好きで手伝いたいっていう俺の友達がいるから連れて行くというもの。返事は待たない。
断られても困るからだ。
「祐希」
「サラ…、ネクタイはどうした?」
「外してきた」
「…スリザリンってことを隠すためか」
「ああ。どうもグリフィンドール寄りらしいからな。それにドラコもちょっかいを出しているようだ」
「ああ、この前のアレ、ドラコか」
「十中八九そうだろうな。大方、ポッターたちを陥れるネタになるだろうと探りに来たんだろう」
「ま、そっちはハリーたちがなんとかするさ。とにかく、連れて行って紹介だけはする。あとはサラが自分で手伝えるようになんとかしろよ?あと、できればハリーたちとは鉢合わせしないようにしてくれ。今スネイプ教授のことで疑心暗鬼になってるんだ」
「わかってる」
深く頷いたサラをつれ、ハグリッドの小屋へ訪れた俺。
サラは結構コミュ障なところがあるから、どうだろうと思っていたが、そんな心配は杞憂に終わった。
なぜなら、この二人、魔法生物の話になり意気投合したからだ。好きな生物も合致したようで、ドラゴンの話を中心に俺をおいて盛り上がっていた。
ちゃっかり、授業の合間合間に手伝う約束をとりつけていた。そういえば、サラって好きなことに関してはためらいがなかったっけ。どこからともなく危険だとわかっていながらドラゴンの卵を持って帰ってこれるぐらいだ。
「あー、じゃあ、後はサラ、先生に見つかって減点食らうようなへまはするなよ」
「ああ、わかってる。……ありがとう」
あ、今感動したかも…。