「いいこと、忘れちゃだめよ。ロコモーターモルティスよ」
ハーマイオニーが杖を袖の中に隠そうとしているロンにささやいた。そんな二人を内心呆れながら、無表情のまま競技場を眺める。
この二人が内心で再び生きてハリーに合えるかどうかを考えていることを知っている。
いくらなんでも、敵がこんな何人もの先生もいる場所でハリーを殺したりなんかしないだろう。たぶん。
「おい、見てみろよ。ダンブルドアがいる。こりゃ、安心して見れるな」
「え!本当だ!スネイプがあんなに意地悪な顔したの、みたことない」
確かに、憎々しげにダンブルドアを見ている。
まあ、スリザリン贔屓でありハリーを嫌っているスネイプからしたら、グリフィンドールを目の敵にできなくて残念に思っているのかもしれない。
「さあ、プレイ・ボールだ。アイタッ!」
意気込んだロンの頭が前に傾いた後ろを見るとお、マルフォイとクラッブ、ゴイルだった。ちなみに、クラッブとゴイルはどっちがどっちだかわからない。
少し後ろには、わざわざ俺たちをかまいに来たらしいマルフォイを呆れた目で見ているサラがいる。
「ああ、ごめん。ウィーズリー気づかなかったよ。この試合、ポッターはどのくらいのってられるかな?誰か、賭けるかい?ウィーズリー、どうだい?」
にやりと笑うマルフォイ。
試合では、ジョージがブラッジャーをスネイプの方へ打ったという理由で、ハッフルパフにペナルティー・シュートを与えたところだった。ハリーはスニッチを探してぐるぐると高いところを旋回している。
「グリフィンドールの選手がどういう風に選ばれるか知ってるかい?」
マルフォイが聞こえよがしに言った。ちょうどスネイプが何の理由もなくハッフルパフにペナルティー・シュートを与えたところだった。どうやらスネイプにはダンブルドアがいるいないは関係ないらしい。
審判ってなんだっけ、状態の試合である。
まだ、グダグダ言っているマルフォイがわずらわしくて、俺はマルフォイの横を通って階段を上がる。
「おい、どこに行く気だ?」
「もうちょっと落ち着いて見れるところかな」
後ろ手に手を振って階段を上り、少し上で腕を組んでじっと試合を見ているサラの隣に並ぶ。マルフォイは俺を追いかけるよりもネビルとロンを攻撃することにしたようだ。
「おい、あの坊ちゃんどうにかしてくれよ」
「ほおっておけ。俺たちの時もいただろう」
「いたっけ」
「貴族はみんなあんなもんだ」
「そういえば、サラも最初はあんなんだったかも…」
「…………そうか?」
すごく嫌そうな顔をされた。
いや、その顔がマルフォイに失礼だってわかってんのかなこいつ。
「にしてもクィディッチってすごいよな」
「ああ」
「俺らの時代にもあれば、もっと面白かったのになー」
「箒自体、まだなかったからな」
「生徒連れてくるのにすごく苦労したよな」
まあ、あのころは、姿現しの術に年齢制限なんてなかったから、さっさと憶えさせたり、親に学校まで連れ添ってもらったりしてたんだけど。ちなみにマグル生まれはその近辺で集合をかけて、先生がいっぺんにつれていっていた。
「スニッチだ」
「え?どこどこ?」
突然競技場を見て、声をあげたサラ。指をさした方向を見るも、俺にはわからなかった。そういえば、こいつ昔から目はよかったっけ。
「サラザールも目がよかったけど、サラも目はいいままなのか」
「みたいだな」
「クィディッチやらねえの?お前の目なら入れるんじゃねえか?」
「…箒は好かん」
予想外の発言に耳を疑った。思わず横を見ると、サラの耳だけがこちらを向いている。つまり、そっぽを向いていた。
どうやら、箒はお気に召さなかったらしい。
「ハハッ、お前でも苦手なものはあったんだな」
「当たり前だろう」
「あんなに面白いのに」
「お前こそ、クィディッチの選手になるといい」
そのとき、ハリーが突然ものすごい急降下を始めた。その素晴らしさに観客は息をのみ、大歓声をあげた。ハリーは弾丸のように一直線に地上へむかって突っ込んでいく。
近くで短い悲鳴が上がった。ハリーから目を放して観客を見ると、ロンがマルフォイに馬乗りになり地面に組み伏せていた。そして、驚くことにネビルまで助勢に加わった。
「うっわ、本気の喧嘩だな」
ロンとマルフォイが椅子の下で転がりまわっている。ネビルはクラッブとゴイルと取っ組み合っている。
「おい、マルフォイどうにかしろよ」
「それなら、あのウィーズリーもどうにかしたらどうだ」
「やだよ。めんどくさい」
「俺も面倒だ。それに、子供の喧嘩に首など突っ込むものではない」
「今は俺たちも同い年だけどな」
「経験の差だ」
「ごもっとも」
思わず納得してしまった。だって、そうだろう?
ハリーがスネイプのそばにあったスニッチをつかんだ。
「おー、すげ」
「スネイプ教授もあれがなければいい教師なんだがな…」
「あの人は薬学においては秀才なんだけどな。どこで性格がひんまがったんだか」
観客席での喧嘩を見ると、周りの生徒によってマルフォイとロンは引き離されていた。ネビルは気を失っているらしく、保護した生徒の腕の中でぐたりしていた。
「しってるか?日本には喧嘩するほど仲がいいって諺があるんだ」
「でたらめな諺だな。この状況を見て言ってほしいものだ」
「まったくだ」
その諺のようにいつか共闘するようなことがあったら、おもしろいんだけどな。
これ以上話していて、スリザリン側に何かを言われても面倒なため、俺たちはそこで別れた。よたよたしているロンに肩を貸してやり、ネビルはハーマイオニーに任せた。
クィディッチ選手のために競技場に来ていたマダムポンフリーもまさか、観客から怪我人が出るとは思っていなかったようで、連れていくと、驚き呆れ果てていた。とりあえず、ネビルは大丈夫らしい。
「僕らは正しかった」
ハリーが試合終わりだというのに、険しい顔つきで俺たちに向き直った。
競技場からやっと戻ってきたハリーは俺たちを誰もいない部屋へと連れ込んだのだ。
俺は一応防音呪文を施しておく。
こういうのはどこで誰に立ち聞きされてるかわらかないものだ。ゴーストがいる時点で、壁なんてあってないようなもの。というか絵画も見聞きしてるぐらいだしな。
「『賢者の石』だったんだ。それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅してたんだ」
「それ、どこでだ?」
「禁じられた森だよ。僕、誰かがそっちに行くのがみえて、後をつけたんだ。そしたら、スネイプとクィレルがいた。スネイプがはっきり『賢者の石』っていったんだ」
スネイプとクィレルのどちらが敵でどちらが味方なのか、俺にはわからないが、誰が聞いているともわからない場所でそんな話をするのはどうかとおもう。不用心だな。
「スネイプはクィレルを脅していた。スネイプはフラッフィーを出し抜く方法を知ってるかって聞いてた。それと、クィレルの『怪しげなまやかし』のことも何か話してた…。フラッフィー以外にも何か別の者が石を守っているんだと思う」
ハリーは考え込み、俺たちの前をいったりきたりしながらしゃべり続ける。
「きっと、人を惑わすような魔法がいっぱいかけてあるんだよ。クィレルが闇の魔術に対抗する呪文をかけて、スネイプがそれを破らなくちゃいけないのかもしれない…」
「それじゃ、『賢者の石』が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけということになるわ」
ハーマイオニーが警告した。
「それじゃ、三日ともたないな。石はすぐになくなっちまうよ」
ロンが言った。