人生幸福論 | ナノ


13:クリスマス  




十二月も半ばのある朝。目を覚ますと、ひどく寒くて、思わず毛布を体に巻きつける。時計を見ると、まだ起きるには一時間ほど早い時間だった。しかし、冷たい空気が頬を撫で、目がさえてしまった。


仕方なく体をお越し、体に保温呪文をかける。


窓に近寄ると、見事に曇っている。それをパジャマの袖でふくと、窓の向こうは一面の銀世界だった。


「なるほど、寒いわけだな」


一夜にして雪が降り積もったらしい。


生徒が起きてくると、双子ウィーズリーが雪玉に魔法をかけてクィレルに付きまとわせていた。


グリフィンドールの談話室や大広間はゴウゴウと火をもやし暖めていたが、廊下はとても寒い。


魔法薬学の教室である地下牢はそれはもう最悪だった。みんな歯をがちがち言わせて、白い吐息を吐きながら薬学の授業を受けた。


その授業中だった。


「かわいそうに。家に帰って来るなと言われて、クリスマスなのにホグワーツに居残る子がいるんだね」


マルフォイがハリーの様子をうかがいながら言った。クラッブとゴイルがくすくす笑う。


なぜ、こいつはこうもハリーに突っかかるのか。クィディッチで負けたことを根に持っているらしいが、どんだけ寮愛が強いんだ。


しかし、ハリーが何も気にしていないので俺も何も言わないことにしていた。





クリスマス休暇になると、サラやアリィは帰ってしまった。まあ、あの二人は家が立派な魔法族の家系だし、特にサラは純潔家系でもあるのだから帰るのは当たり前だろう。


アリィに至っては、私の家に遊びに来たらいいといって引かなかったが、それを丁重に断った。俺は、孤児だったこともあって、日本に帰るつもりなどこれっぽっちもなかった。というか、帰ってもどうしようもないしな。冬休み中アリィの家にお邪魔し続けるわけにもいかないため、ホグワーツに残る選択をした。


談話室は いつもより閑散としていた。ハリーやロンは初めてのホグワーツでのクリスマス休暇を満喫しているようだった。


俺は、いつものように気の赴くままに、たまにロンたちにまざったり、一人であちこち探検したりしていた。探検といっても、ほぼ知っているホグワーツだ。記憶のホグワーツとの違いなどを探したり、増えている抜け道を見つけたりとそれなりに有意義に過ごしていた。


クリスマスの朝。ベッドの足元にはプレゼントの山ができていた。それは、ハリーやロンの足元も同じだった。


プレゼントなんていつ以来だ。ああ、ゴドリックの時以来か。


ハリーがベッドから飛び起きて、プレゼントの山に目を丸くしていた。ロンも起きると、すぐにプレゼントを開け始めた。


「メリークリスマス!ねえ、これ見てくれる?プレゼントがある」

「ほかに何があるっていうの。大根なんて置いてあってもしょうがないだろ?」


ハリーは俺と同様プレゼントが送られてくるような生活はしていなかったらしい。子供時代に何も与えられなかったなんてかわいそうだな。俺はまだゴドリックのときの記憶があるからいいけど。


ああ、でも、そんなに豪華なプレゼントはなかったな。ただの農村生まれだったし。


プレゼントの中にはサラとアリィからもあった。


サラからは、杖でつつくとプラネタリウムになるボール型の装置だった。


アリィからは「ホグワーツと4人の魔法使い」という本だった。ぱらぱらとめくって軽く読んでみると、それは俺たちがホグワーツ魔法魔術学校をつくり、そのあとどうやっていったかを多大なる推測と妄想を織り交ぜて描かれたものだった。


見てみると、結構最近出版されたものらしい。今から千年も前のことだ。俺たちの資料なんてほとんど残っていないんだろう。


彼女の手紙には、


『メリークリスマス!ホグワーツでのクリスマスはどうですか?久しぶりだからって羽目を外しすぎてはいけませんよ。

実は、偶然面白い本を見つけたんです。私たちのことが書かれているのですが、あまりに事実と違っていて、パロディを見ているようで面白いですよ。


気に入ってくれるとうれしいです。


アルウィーン・キンス』


と書かれていた。あとで読んでみよう。


次の袋を開くと、お手製のセーターだった。ハリーも同じものを開けている。ロンが少し顔を赤らめて、これがロンのママからのものだと教えてくれた。


毎年恒例の「ウィーズリー家特製セーター」らしい。


「いい、お母さんだ。俺までもらっていいのか?」

「うん。たぶん僕が君たちのことを手紙で書いたからだ」

「ありがとう。本当にうれしいよ」


それをパジャマの上から着ると、本当に温かかった。きっと、ロンの母親はとてもいい人だろう。見ず知らずの子供にまでセーターを編んでくれるのだから。


ハーマイオニーからは、杖型甘草あめやかぼちゃパイの詰め合わせだった。


「僕、これがなんなのか聞いたことがある」


朝食前だが、小腹がすいたので、ハーマイオニーからもらったかぼちゃパイに手をかけていたとき、ロンが茫然とつぶやいた。


顔を上げると、ハリーの足元には銀色に輝く布があった。それに、目を丸くする。ロンが声を潜めた。


「これは、透明マントだ。きっとそうだ。ちょっと着てみて」


ロンの畏れ敬うような表情とは裏腹に、その声は徐々に興奮を帯びていく。俺は、そのハリーの透明マントから目を離せなかった。


あれは…、まさかこんなところで見ることになるとは思わなかった。


ハリーが肩からかける。すると、マントで覆われたハリーの体がすっかり消えた。ハリーの頭だけが浮いている状態になっている。ハリーが頭までマントをかぶると、ハリーはまったく見えなくなった。


「手紙があるよ!マントから手紙が落ちた!」


ロンが叫んだ。


ハリーがマントから出てきて、手紙を読む。


宛名は書いていないようだった。しかし、ハリーの父親のものだったというなら、おそらくこれを送ったのはダンブルドアあたりだろう。


「…ハリー、ちょっと、触らせてもらってもいいか?」


微妙な顔で手紙を見ているハリーに声をかける。不思議そうな顔をしながら、マントを手渡してくれた。


水の織物の様な触っているのか触っていないのかあいまいなそれは、手に柔らかな冷たさを伝えてくる。確かに、透明マントだ。かつては俺が持っていた。


「…なんと懐かしい」


つぶやいた言葉はロンたちには聞こえていなかったらしい。よかった。


ハリーに透明マントを返す。まだ一年生のハリーに渡るとなると、昔の俺なら注意をしなければいけない立場だったが、今の俺は生徒なため、何も言わなくていいだろう。


「上手く使えよ。ハリー」


ハリーは目を瞬かせた。


ちょうどその時、勢いよく寝室のドアが開き、フレッドとジョージが入ってきたため、ハリーは急いでマントを隠した。懸命な判断だな。


「メリークリスマス!」

「おい、見ろよ!ハリーも祐希もウィーズリー家のセーターを持ってるぜ!」

「祐希に至っちゃ、着てるじゃねえか!」


双子は青いセーターを着ていた。片方には黄色の大きな文字でF、もう一つにはGがつけられている。見分けられるけど、判断がしやすくなったな。


やがて騒ぎをききつけて入ってきたパーシーが双子に絡まれて引きずられるようにして出て行った。


パーシー、頑張れ。


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