すっかり綺麗になっている部屋に入る。中央に備え付けられている椅子に座り、杖を振って紅茶と茶菓子を出した。
しばらくして、開かれる扉。
「待ってたぜ」
入ってきたのは、アリィとサラだ。二人とも来るだろうとは思っていたが、まさか二人一緒に来るとは思わなかった。
「二人が一緒なんて珍しい」
「そこで会っただけですよ。おそらく二人もここに来るだろうと思っていましたから」
「あんなことがあったんだ。当たり前だろう」
創設者の俺たちのみが入れる部屋。
定位置に座る二人。二人用の紅茶も用意する。
「それで、昨日のこと、どう思う?」
「十中八九、クィレルだろ。他の先生じゃ無理だ。ましてや、生徒のイタズラにしては命がけすぎる」
サラの問いかけに、昨日からずっと考えていたことを告げる。
「でも、なぜ、クィレルが、っていうのはわからない」
なんせ、俺には情報が少なすぎる。
「ゴドリック。クィレル教授を疑う理由を聞いても?」
「あれ?反対派?」
「そうは言ってません。ただ、随分と自信ありげに断言するので、根拠でも見つかっているのかと思いまして」
「あー、根拠ね。ないな。ただ、昨日の状況を見るに、先生はクィレル以外全員そろっていた。生徒はわかんねえけど、一生徒がトロールを入れられるわけがない。あれは、ウスノロでバカだけど、簡単に扱える生き物じゃない」
「生徒ではないというのは同感ですね。ですが、クィレル教授が犯人と決め付けるのはいささか早計な気がします」
ロウェナの言葉に、サラもうなずく。サラも同じ考えらしい。まあ、確かにクィレルがやったっていう明確な証拠はない。その場面を見たわけでもないし、あの混乱に乗じて、クィレルがどこに行ったかなどわからない。
それに、あの怯えようを見ても、彼が犯人だとは思いにくい。でも、“だからこそ”俺には犯人のように見える。
「まあ、あの怯えた感じでは考えにくい、か…」
「あら、クィレル教授があんな風に怯えるようになったのは今年に入ってからですわ」
「え?」
「聞いたことありませんか?クィレル教授は以前マグル学の教授でした」
「マグル学?今DADAだぜ?」
「一年前から修行のために休暇を取っていて、今年DADAとして復帰したんですよ。なので、私も今年初めて授業を受け持ってもらったのですが」
「ああ、確か、ルーマニアで吸血鬼に出会って襲われないために常ににんにくの臭いをまとわせているのだったな」
「あー…、そういえばそんなの聞いたことあるな。ターバンの中ににんにくでも詰めてんじゃねえかって、フレッドとジョージが言ってた」
最初の方にしきりに、ターバンの中身をきにしていた双子のウィーズリーを思い出す。いつか暴こうと言っていて、こいつら酷いなと思ったのだ。
「そういえば、サラは4階にいったんだろ?どうだった?」
「スネイプ教授が来られた」
「スネイプ?なんでまた」
「中に入り、三頭犬と格闘して足を怪我していたな」
「ってことは、スネイプが犯人ってことか?」
「それはないだろう。彼は、三頭犬に危害を加えなかった」
「加えられなかったんじゃなくて?」
「違う。仮にも教授だ。鎖に繋がれた犬に失神呪文でもなんでもかければいい。だが、彼はそうしなかった。だからこそ、足を怪我することになったのだが。おそらく、スネイプ教授は白だ」
「じゃあ、やっぱりクィレルだろ」
「とにかく、今は目的も何もわかっていない。犯人を特定する材料はすくない。もうしばらく様子見だ。ダンブルドアもいる中、その中身が何であれ、相手はすぐには手をだせないのだろう。じゃなければ、トロールなどといった回りくどいことはしない」
サラの言っていることはもっともだった。今はなんにしても判断材料が少なすぎる。もうしばらく待たなければいけない。幸い、といっていいか、ハリーがグリンゴッツから持ち出されたものに興味を持っていた。
彼らはとても好奇心旺盛なようだ。しかも、頭の回転も速い。調べ始めたらあっという間に真相をつかんでしまいそうな気がする。ハーマイオニーという頭脳もいることだし。
先生だった立場からすれば、あまり厄介ごとに首を突っ込んでほしくはないが、今は生徒である俺が言えた立場ではない。
「それにしても、二人とも行動するなら一言言ってほしいものです」
ハリーたちの行動力に半ばあきれていると、ロウェナが深いため息とともにぶつくさ言った。
「しょうがないだろ。俺も咄嗟だったんだ」
「俺も、祐希を引き留めるので精いっぱいだった」
「だからって…、ハア。貴方たち二人に何を言ってもしょうがないことはわかっています。ですが、心配する身にもなってください。あまり無茶はしないでくださいね」
「ああ」
「わかってるよ。ロウェナ」
厄介ごとが起こるたびにまっさきに行動を起こすのは、いつも俺とサラザールで、そのたびにロウェナは心配だと言って戻ってきた俺たちに小言を言う。
ヘルガに至っては、何を言っても無駄だとわかっているため、ひどいけがをして帰ってきたときだけ、それはもうものすごく静かに怒るのだった。
俺たち二人は、怒ったこの二人には頭が上がらないため、なるべく怪我をしないようにと心がけている。
まだ、ぶつぶつ文句を言っているロウェナに、サラと二人で苦笑した。