「へえ、あそこが立ち入り禁止の理由はそういうことなのか」
朝になり、疲れている様子の二人は、しかし、上機嫌で昨夜あった冒険のことを聞かせてくれた。
なんでも、4階の立ち入り禁止の扉の向こうには頭が三つある犬がいたらしい。ハーマイオニーの話だと、その三頭犬の足元には隠し扉があったとかなんとか。
やっぱり、ハーマイオニーって視野が広いよな。
「それで、僕思うんだ。きっと、あの三頭犬が守ってるのは、グリンゴッツでハグリッドが持ち出したものなんだよ。だって、タイミングから見てもぴったりだもの!でも、ハグリッドはいったい何を持ち出したんだろう?」
「ものすごく大切か、ものすごく危険なものだな」
「その両方かも」
ハリーとロンは顔を突き合わせては、同じ議論を繰り返していた。
情報が、ハグリッドがダンブルドアに頼まれて持ち出したものの大きさと、グリンゴッツから移され誰かが狙っているだろうということしかわからないため、予想のつけようがなかった。
「あ、そういえば、言ってなかったな。ハリー。クイディッチの選手に選ばれたんだって?おめでとう」
「ええ!今更!?君、ずれてるよ!」
ロンからの盛大な抗議をもらってしまった。
ハロウィーン当日。あたりにはパンプキンパイを焼くおいしそうな匂いが漂っている。
「妖精の魔法」の授業はシェーマスが羽を燃やした以外は滞りなく終わった。
「TRICK or TREAT?」
授業の移動の合間に見かけたサラに近寄り、満面の笑みで手を差し出す。
するとサラは俺を迷惑そうに見た後、盛大なため息をお見舞いしてポケットからクッキーを取り出した。
「またか。貴様は」
「だって、ハロウィンだぜ。楽しまなきゃな!」
「そうか」
大きなため息が返ってきたが気にしない。
俺は、前世から毎年サラたちにはお菓子をねだりに行くことにしていた。最初は、用意していなかったサラだけど、用意しないと俺の酷いイタズラを食らうことを知り、毎年用意してくれるようになったのだ。
「でも、用意してくれてたんだろ?」
「貴様のイタズラは性質が悪い」
「ハハッ、そんなことねえって」
「どの口が言う」
「今はあんま、高度な魔法は使うわけにはいかねえし?それに、俺よりたぶん双子ウィーズリーのほうがひどいイタズラしてるっぽいぞ」
「ああ。あの動物の鳴き声はそいつらか」
「そうそう。見た目は普通のお菓子。でもその正体はイタズラグッズってね。聞いた話だと、自分らで改良したらしい。おもしろいよな」
「やられるほうはいい迷惑だ」
「でも、楽しいだろ?」
「言ってろ」
顔をしかめるサラの隣を歩きながら、サラからもらった袋を開ける。中にはチョコチップのカップケーキが入っていた。
「これ、サラが作ったのか?」
「そんなわけないだろう。ドラコが家から送ってもらったものをもらったんだ」
「ドラコってドラコ・マルフォイ?」
「そうだ。そういえば、ポッターによくつっかかっているな」
「あいつ、今のスリザリンの典型的なタイプだよな」
「そうか?」
「っていうかさ、スリザリンってなんでああなってんの?」
「知らん」
ああ、というのは、今のスリザリンのことだ。
俺たちは4つの寮へ分ける際に、それぞれどのような生徒を望むか話し合った。
俺は、勇気と冒険心のあるものを。
ヘルガは受け入れられるものならだれでも
ロウェナは知識欲のあるものを
そしてサラザールは選ばれし血を受け継ぐものを。
もともと、俺たちの中でマグル生まれの子供を学校に受け入れることを拒否したのはサラザールだった。その理由は、今語り継がれているように選民意識によるものではない。
サラザールは、誰よりもその子供が魔法学校へ来る意味を分かっていたからだ。
「だーってさ、サラが魔法族の血を重んじてたのは知ってるけど、それは差別が生まれないようにするためだろ?」
差別を生まないために、差別対象になるものを受け入れるべきではないと強く主張した。その考えはわかる。でも、魔力をもった子供を放置しておくわけにもいかない。
だからこそ、サラザールは自分の寮には差別対象に入るものを受け入れたくないという意味で、自分の寮内で差別など起こらないように、諍いなどおこらないようにと、「選ばれし血を受け継ぐ者」を選んだのだ。
それが、なぜかいつのまにか選民意識が根付き、妙な結束力が生まれている。
純潔こそが偉大であり、マグル生まれは見下す傾向になっている。
サラザールが言いたいことはそういうことではなかったのに。
「正そうとは思わないわけ?」
「俺たちが死んでからどれだけ経ったと思っている。残した思想がねじ曲がるのは当然のこと」
「でもさ」
「くどい。何百年とこの思想が根付き、親から子へ受け継がれている。それを、今は一介の生徒である俺がどうこう言ったところでどうにもならん」
「だってさ」
「それに、こうなるであろうことも予想していた」
「なんで?」
「選民するということは、そういうことだ。お前のところだって、勇気と傲慢をはき違えた輩がたくさんいるだろう」
「……否定はできないな」
周りにいる生徒を見て、そう思う。勇気ある寮に選ばれたから、自分は勇気があり、すごいのだという気になるらしい。
勇気とはそうではないのだ。
ただ、困難に立ち向かうために誰もが持っている一歩踏み出す勇気。これだけでいい。無謀なことをしでかすことが勇気ではない。
それに、もともと、この組み分けは、その生徒がどうなりたいか、どうありたいかを見極めるためのものでしかない。
その寮の特性というのは、個人の特性の一部であり、全員が全員どの寮にもあてはまる。ただ、自分がそうでありたいと強い願いを持ったにすぎない。
「いつから、寮の選別で人を決めるようになったんだか…。俺たちのときは、もっとみんな仲がよかったのに」
「しょうがないだろう。組み分けをするということは、すくなからずその間に壁をつくることだ。それは、最初からわかっていたことだろう」
「そうだけどさ。ここまで溝が深くなるなんて…」
「純血主義の思想はそうそう変わらん。貴様も下手に切れてくれるなよ」
「わかってるって」
「お前はキレると手に負えん」
「だいじょーぶ。ガキ相手にそうそうキレねえよ」
サラが俺を見る目にはありありと心配が映っていたが、それを無視した。
俺だって、ガキ相手に本気でキレたりしない。
「それに、キレたとしても、お前らがいれば大丈夫だろ」
「そうならないようにしてくれ」
否定はしないサラに笑みをこぼす。
実は、一番切れやすいのは俺だったりする。ついカッとなっちゃって、無意識で魔法を使ってしまうことだってある。
サラは気難しい性格ではあるが、その目的のために手段を択ばない性格などから、我慢強い節もある。ロウェナは切れても魔法を使うより理詰めで来るし、ヘルガは怒ると目に涙をためて目で訴えてくる。俺は、一番ヘルガの怒りが堪える。
「…ヘルガに怒られたこと思い出した…」
「はやくアヤツが入ってきてほしいものだな。お前を本当の意味で止められるのはヘルガだろう」
「ヘルガの怒り方は苦手なんだよな…」
どうせなら、頭ごなしに喚かれた方がこちらも言い返せる。
思い出したら、苦いものが口の中に広がって顔をしかめる。
「まあ、とりあえず久しぶりのホグワーツでのハロウィンだ。今夜の夕食が楽しみだな」
「ヘルガの料理も随分改良されているようだったな」
「というか、料理が増えてんだよ。でも、昔もあったもの食べると、ヘルガの手料理思い出すよ」
「ああ。あいつは料理が上手かったからな」
この学校の料理メニューをつくったのはヘルガだ。今は、時代とともに改良も重ねられたり、増えたりしているようだが、それでも、あのころの料理はやっぱり残っていて、それを食べるとヘルガが作ってくれる後ろ姿を思い出す。
一人でせっせと魔法とかを駆使しながら作る姿は、かわいげがある。つまみ食いしようとすると、後ろに目があるのかと思うほど素早くお玉とかが飛んでくるのだが。
「ヘルガ、今どこにいるのかな?」
「さあな。だが、何年後かは知らんがここに来るだろう」
「マグルに生まれてないかな?」
「ないな」
言い切ってくれたサラに安心する。
俺にとってはやっぱりサラもロウェナもヘルガも変わらず大切だから。また4人でいろんなことを話したいし、行動していきたいと思っている。
ヘルガだけいないのはやっぱりさびしいんだ。