人生幸福論 | ナノ


04:組み分け  




ハリーの友人だという、森番のハグリッドについていくと、大きな黒い泉のほとりにでた。向こう岸に高い山がそびえ、そのてっぺんに壮大な城が見えた。大小さまざまな塔が立ち並び、きらきらと輝く窓が星空に浮かび上がっている。


思わず目を細めた。


なんて懐かしい。


記憶にあるよりも幾分か増築されているような節はあるが、それでも、変わらないホグワーツ城がそこにはあった。


ボートに乗り込み、湖を進む。


城につき、ハグリッドが大きなこぶしを振り上げ扉を三回たたくと、扉がぱっと開いた。


エメラルド色のローブをきた背の高い黒髪の魔女が出てきた。とても厳格な顔つきをしている。


彼女はマクゴナガル先生というらしい。彼女についていくと、大きな扉の前についた。中からは何百人ものざわめきが聞こえてくる。そう、ここが大ホールだ。


ここで、全生徒が集まりともに飲み食いをしたものだ。4つの寮をつくったものの、生徒同士が顔を合わせる場面がないというのはまずいという話になり、大広間をつくった。そして、食事はここで取るように定めたのだ。


「いったいどうやって寮を決めるんだろう」


ハリーがマクゴナガル先生の後ろの扉を透かしてみようとでもするかのように覗いているなか、ロンに尋ねた。


「試験の様なものだと思う。すごく痛いってフレッドが言っていたけどきっと冗談だ」


そりゃ、冗談だろう。


入学早々何もしらない状態で試験なんてできるわけがない。


ロンの不安げな物言いに、思わず笑いをこぼす。


ようやくマクゴナガル先生が動き出した。


そこには懐かしい光景があった。


4つに分かれた長テーブルにはたくさんの生徒が座っている。制服はあのころから変わってしまったらしいが、大広間の様式は変わっていない。


上座には、生徒の座る長テーブルに対して垂直になるように一つの長テーブルが置かれ、そこに教師陣が座っていた。


天井はビロードのような暗い空に星が点々と光っている。


天井を本物の空のようにしたのはロウェナの案だった。彼女は知的で、自然を好んでいた。そして何よりロマンチストだったように思う。


彼女の魔法がまだ生きていることにうれしくて、頬が弛む。


彼女のこの案は俺を含めて他二人も大いに賛成を示していた。


サラザールはいまでいうツンデレだったため表に出していないが、その目元がゆるんでいたことを知っている。


マクゴナガル先生が四本足のスツールを置いた。その椅子の上にはぼろぼろで来たならしい魔法使いのかぶるとんがり帽子が置かれた。


「…なんと、まだ役目を果たしてくれていたのか」


思わず目を瞠ったのは無理もないだろう。


このホグワーツ魔法魔術学校に4つの寮をつくり、それぞれの望む寮生を入れることに話がまとまった時、その寮生を選別するために用いたのが俺の帽子だった。


その帽子に俺たちの人格を練りこませ、それぞれの望む寮生をその中から選別させた。


帽子がぴくぴくと動き、つばのへりの破れ目がまるで口のように開いて帽子が歌い出した。


『私はきれいじゃないけれど、
人はみかけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽子は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組み分け帽子
私は彼らの上をいく
君の頭に隠れたものを
組み分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を

グリフィンドールに行くならば
勇気あるものが住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール

ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない

古き畏きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう

スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ

かぶってごらん!恐れずに!
興奮せずに、お任せを!

君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)

だって私は考える帽子!』


唄い終わると広間にいた全員が拍手喝さいをした。


四つのテーブルにそれぞれお辞儀をして帽子は再び静かになった。


これで、もしこのゴドリック・グリフィンドールの生まれ変わりがスリザリンとかに入ったら笑えるな。と思いながら、つぎつぎに名前が呼ばれていくのを聞いていた。


ついにハリーが呼ばれ、顔をこわばらせているハリーの背中を叩いて見送る。


ハリーの組み分けは長く、帽子は困ったように体をくねらせていたが、やがて声高らかにグリフィンドールと唱えた。


嬉しそうなハリーと、盛り上がるグリフィンドールのテーブル。


そして、しばらく待つとロンも呼ばれ、顔色が悪いロンにも背中を叩いて見送るが、かぶるかかぶらないかの間にグリフィンドールと唱えられていた。どうやらウィーズリーは生粋のグリフィンドールらしい。


長テーブルを見ても、ちらほらと赤毛が目立っていた。


「赤司・祐希」


とうとう呼ばれた。


椅子に座り帽子をかぶると帽子はすっぽりと目まで覆い隠した。


「ほっほー!これはこれは!なんという懐かしい!」

「久しぶり、と応えればいいかな。組み分け帽子殿」

「またあなたにお目にかかれるとは!私の主人であり、作り主!」

「ハハッ、ありがたいね。覚えていてくれた。あれからずっと役目を果たしてくれていたこと、こうしてまた再会できたこと、とても感謝するよ」

「いやはや、貴方を組み分けする日が来ようとは。そういえば、ロウェナ嬢もいることはご存知かね?」

「え!?ロウェナもいるのか!ということは、俺より上ってことか?」

「さよう。二つ上のレイブンクローにいる。さあ、懐かしの再会はここまでとしよう」


話しを切り上げた帽子が高らかに言い放った。


「グリフィンドール!」


帽子を取り除く。


見えたのはたくさんの子供たちの目だった。こうやって生徒の前に立つのはいつ以来だろう。


ふと、一人の男の子と目があった。


金髪に碧眼だ。


彼がじっとこちらを見ている。


その目からは感情を読み取れない。しかし、ふいに叫びだしたい気持ちになった。胸の奥が熱くなる。


声に出そうと口を開いた時、彼もまた目を見開いた。


そして彼もまた口を開いた。


そして、


「赤司!早く寮のテーブルにいきなさい」


マクゴナガルの叱責の声に我にかえる。


慌ててグリフィンドールのテーブルへ向かうと、さきに座っていたハリーやロンにどうしたのかと心配されてしまった。


それを適当に流し、再開された組み分けの様子をみる。


そして、彼の番になった。あの金髪に碧眼だ。


「クリフデン・サルヴァトア」


帽子をかぶった彼は、俺同様、長く時間がかかった。しかし、やがて帽子はスリザリン寮を示した。


彼はスリザリンのテーブルへ向かう時一度こちらへ視線をやった。


碧眼と目があう。ついっと細められた目。しかし、その目元はわずかに緩んでいる。


ああ、彼も覚えているのだ。それがうれしくて仕方がなかった。容姿は全く違う。しかし、それでも彼はわかってくれた。俺と同じく。


「祐希?」

「!あ…、なんだ?」

「いや、なんか、泣きそうな顔してるよ?」

「…なんでもないよ…。旧友がいたんだ」

「え!?旧友?新入生に?」

「ああ。古い、古い友人だ」

「君、いったいいくつなんだい?実はおじいさんとか言わないよな?」


ロンがいぶかしげにこっちを見る。それに苦笑する。あたらずとも遠からずというところかな。


やがて全員の組み分けが終わり、ダンブルドアの意味の分からない挨拶が終わった後、料理が皿の上に現れた。


屋敷妖精はうまく機能しているらしい。


食べた味も、変わったものと変わっていないものがあって、ひどく懐かしかった。


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