倉間くんと浜野くんとが並んで歩く姿をすれ違いざまに見て、ぼんやりと比較する。私個人の意見は別として、うちのクラスでは浜野くんが好きだという女子が多い。大きいのと小さいの、どちらが格好いいかと問えば、そりゃあ大きいのを選ぶだろう。一般論としては当然なんじゃないだろうかと思った。
それと、爽やかに上げられたら前髪と、片目が隠れるほど垂らされた前髪。どちらかと言うとやはり前者を選ぶ人が多いだろう。底抜けに明るい性格と、少しひねくれた性格。これも前者を選ぶだろう。

私が思うに、倉間くんは損をしていると思う。(あんなに根は優しくて素敵なのに、みんな知らないのかな。)

「倉間くん、目に前髪かかってたら視力落ちるよ?」
「別にお前に関係ねぇじゃん」
「た、確かにそうだけど」
「はいこの話しゅーりょー」
「素っ気ないなぁ」

少ししょげて言うと倉間くんはクツクツと喉の奥で笑った。私をからかって遊んでいるのはしょっちゅうなのでこういうやりとりはもう慣れてしまった。

「あ、じゃあコンコルド買ってあげるよ!」
「コンドル?」
「違う!コンコルド!髪留めだよ。」
「髪留めって…俺は女子か!」
「その前髪上げよーよ。ほら、浜野くんみたいにさぁ!」

倉間くんはむっとして俺とアイツは違うからいらねーなんて言う。すっかり拗ねてしまった倉間くんはそっぽを向いてしまった。こういうところがちょっと子供っぽくて可愛いな、と思う。

「クリスマス近いし、プレゼントとしてあげるよ」
「いらねーってば」
「学校にして来てなんて言わないし、こないだ丁度倉間くんっぽいの見つけたんだよね。ね、お願いもらって!私がプレゼントしたいの!」
「……そこまで言うなら、仕方ねえなぁ」

こういう強い推しに弱い事は知っている。私は心の中でガッツポーズをして早速その日買いに行き、クリスマスプレゼント用にラッピングしてもらった。







終業式が終わった後に倉間くんを引き止め、帰る間際にプレゼントを渡した。怪訝な顔をされたけど見なかったフリをする。その場でゴソゴソ中身を出す倉間くんは、なんとなく小動物的に見えた。

「これがコンドル…?」
「コンコルドね。どうかな、キリン柄!可愛くない?!」
「自信満々に聞かれても…」

彼は生まれて初めてコンコルドを持つかのようにそれを握って開けて力を抜いて閉じて、その一連の動きをパチパチと繰り返していた。

「珍しいっちゃ珍しい柄だけど、これそもそもどうやって使うんだ?」
「あぁ、これはね」

そう言って鞄から自分のコンコルドを取り出し、前髪を上げて留めて見せた。

「こうやって使うの!」
「へぇ。つか、それはゼブラ柄なんだな」
「うん、可愛いから倉間くんのと一緒に買っちゃった」
「ふうん」
「これ一緒につけて並んで歩いてたらペアみたいだね」

なんちゃって!とおどけてみせるとてっきり冷たくあしらわれると思ったのに倉間くんは予想を反して黙りこくってしまい、私はどうしようもなくその場に立ち尽くしていた。するといきなり倉間くんがポケットから何かを取り出して私に差し出す。

「これ」
「え」
「ココアでも買えば?」
「えっ」

手を出さない私に痺れを切らしたのか、倉間くんは無理矢理私の手を掴んで中身を押し付けてきた。それは100円玉と、50円玉だった。

「メリー、クリスマス。」
「…メリークリスマス?この150円、なに?」
「俺の臨時収入。…コイツのお礼だよ、わかれ、ばぁか」

倉間くんはぶっきらぼうに答えて鞄を持ち、風のように去ってしまった。教室には前髪を上げて150円握る私が呆然と立っている。なんだかそれがおかしく感じて、1人で噴き出した。

「ばかとか言うな、ばーか。」

また学校が始まったら、おはようよりも先にお返しのばかを倉間くんに言ってやろう。



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