「こら!廊下を走るんじゃない!」
「すっ、すみません!ちょっと速水くんなんで逃げるのよー!」
「あなたが追い掛けて来るからですよぉ!」
「別に取って食おうなんて思ってないからぁ!」
「取って食う気なんだぁ!!」
「もう!速水くん!!」

なんで私は怒られながら廊下を猛ダッシュする羽目になっているんだろう。速水くんはサッカー部なだけあってとても早いしスタミナがある。器用に一定の距離を保たれているから、追いつきそうで追いつかないのがもどかしい。手に持った袋の取っ手がくしゃくしゃになってしまった。

「あっ倉間くん!ちょっとそこの速水くん捕まえて!!」
「は?」
「ひいっ!」

速水くんのさらに5m先に倉間くんが居たので私は声を掛けてお願いをする。訳がわからないといった様子だったけど倉間くんはちゃんと速水くんを捕まえてくれた。へろへろと2人の元に近付き、私はようやく速水くんの細い手首を掴む事ができた。

「僕はみょうじさんに取って食われてしまうんですよぉ!」
「だからぁ!…ちょっとこっち来て!」

ぐいと引っ張って速水くんを強制的に連行する。倉間くんにお礼を言うと、ジュースとだけ答えられた。奢れと言う事だろう。私はたまたまポケットに突っ込んでいた150円を彼に投げつけた。倉間くんはこういうとこちゃっかりしてるよね、まったく。



「もう…何なんですかぁ…俺なんか食べでも美味しくないですよぉ…」
「…食べないよ。だから、そんなに怖がらないでよ…」

少し真面目なトーンで話すと、速水くんはすんなり警戒を解いてくれた。始めから躍起にならなきゃよかった。

「これ、渡したかっただけだから…」
「? なんですか…?」
「ちょっと早いけど、メリークリスマスってこと」
「え?これ、を…あぁ、僕から誰かに渡せばいいんですね?浜野くんですか?」

私は心の中で若手芸人並みに大きく転けた。彼の思考回路は一体どういう仕組みになっているんだろう。

「なんでそうなるかなぁ!速水くんにだよ!!」
「えっ、俺にですか?!なんで…?」
「…それ聞いちゃう?」
「言えない理由があるんですか…?」
「………今は、言えない」
「まさか、何か企んでるんじゃ…」
「もうやだこのネガティブ」

このままじゃ速水くんは受け取ってくれないと思ったので、私は黙って袋を無理矢理彼の胸元に押し付けて足早にその場を去った。







そんなやり取りがあったのは運が良かったのか悪かったのか終業式の日。クリスマスと年末年始で慌ただしい冬休みを挟み、再び学校が始まった。
あんなことがあった手前、なんだか学校に行きづらい。更に言うと速水くんにどんな顔をすればいいのかわからない。

「あ」「あ」

そう思っていると、いきなり速水くんに遭遇してしまう。どうしようと顔を逸らす前に目に入った首もとには、去年までかけていたヘッドホンではなく、

「それ、私があげたやつ…」

あの日私が彼に押し付けたヘッドホンがかけられていた。

「あ、あの、ありがとうございました。」
「ううん。気に入ってくれたみたいでよかったよ」
「俺のはLOFTで買った物だったんですけど、これはオーディオテクニカのいいやつじゃないですか。音質はいい方がいいですよ」
「ふふ、色々悩んだんだよ?」
「…ところで、こんな高価な物を俺にプレゼントして、何を企んでるんですか…?」

あまりにも鈍い彼に何も言えず、私ははぁと溜め息をついた。
けどとりあえず喜んでくれたし、ある意味企みは成功…かも?




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -