サッカー部とはあまり縁がないので詳しい事情はよく知らないのだけれど、何やら一度にたくさんの人が退部をしたらしい。そんな中うちのクラスのサッカー部4名は残ったようで、その内の3人はいつも固まって行動している。その輪に入らないのが南沢くんであり、口癖は成績や内申といった進路に関わる言葉であった。
彼とは席替えで数回隣の席になり、挨拶を交わす程度の仲になった。私はあまり頭がいい方ではないので、南沢くんにはわからないところを聞いたり、当てられた所を代わりに解いてもらったりとかなりお世話になっている。しかし私は彼のようにいい高校に行きいい大学に行きいい会社に就職したいなんて微塵も思っていないので成績の事はあまり気にしない。好きな事を専門的に身に付けて手に職を持ちたいのだ。対照的な考え方を持っている彼はとても勉強熱心で、勉強が大嫌いな私は尊敬すらしている。あの文字の羅列を見て頭が痛くならないのだろうか。ならないから勉強が出来るんだろうなぁと思うとやはり感心する。

「南沢くん、どうやったらそんなに勉強に集中できるの?」
「…どうやったらって…別に意識した事ないけど」
「無意識に集中して勉強してるって事?」
「お前だって髪の毛の事になったら夢中になるだろ?そんな感じだよ」
「あー…なるほど…」
「けど最近、長続きしないんだ。」
「何が?」
「集中力。」
「ふうん」
「模擬試験近いのにヤバいんだよなぁ」

そう言って溜め息をつく南沢くんは、どうやら本当に悩んでそうだ。

「集中力、かぁ。」







南沢くんからその話を聞き、彼に勉強を頑張って欲しい私としてはなんとかしてあげたくて色々調べた。集中力を上げるもの、持続させるもの…色々な方法や物があり、どれが南沢くんに適応しているのかじっくりと考え、私は買い物に行きとある物を買った。クリスマスシーズンだったので種類が豊富で、ついでにラッピングもクリスマスっぽいものにしてもらった。
それから何の前触れもなく南沢くんに電話し、近所の公園に呼び出した。
15分ほどで現れた南沢くんの眉間には深い皺が刻まれていて、明らかに不機嫌そうだった。いや、ただ寒いのかもしれない。

「急に呼び出してごめんね」
「別に。勉強してたけど集中切れたとこだったから」
「丁度よかった!」
「は?」

彼の前にずいと紙袋を差し出す。

「メリークリスマス」
「え?あぁ、メリークリスマス…」
「これ、南沢くんに」
「俺に?なんでわざわざ」
「いいから、早く開けてみてよ!」

訳がわからないといった様子で渋々手袋を外し、慎重に包みを開いていく。その様子を、私はわくわくしながら眺めていた。

「これ…アロマキャンドル…?」
「うん、そう!」
「これって女が使うものじゃないのか?」
「まぁ、イメージは女性的かもね」
「…何でこれを俺に?」
「それ、レモンの香りなんだ」
「レモン…」
「レモンの香りって、集中力を高める効果があるんだって!」
「もしかして、俺が前に言ってたから…?」
「うん、そうだよ」

へえ、と言ってキャンドルをまじまじと見つめる南沢くんの口元は、綻んでいた。

「それで丁度よかったってか…ありがとな。早速使わせて貰う」

南沢くんは私の頭をくしゃりと撫でて、そのままじゃあなと手を振って家の方へ向かって歩いていった。



それから30分後ぐらいに、南沢くんから添付付きのメールが来た。ファイルを受信して開くと、それは暗い部屋の中ぽっかりと炎が浮かぶキャンドルの写真だった。本文にあるありがとうの文字に、私の口元も綻んだ。


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