クリスマスなのに部活なんてどれだけサッカーに力入れてんだよ、と部員はみんな悪態をついていた。そうだね、と相槌を打って流していたけれど私はむしろ今日部活があって良かったと思っている。2人きりでどこかに行くだなんて絶対できない相手と、こうして顔を合わせられるだけで私は幸せだ。

「みょうじは予定とかなかったのか?」
「う、うん…だから部活でも全然平気」
「そっか、俺も!」

にかっと笑った西垣くんの笑顔を見てきゅんとする。今日は寒いな、と漏らす彼のひとつひとつの動きを私は目で追ってしまう。

「いつか俺も段堂先輩みたいに悔しがってみたいなー。クリスマスなのに外せない予定がーなんて」
「ふふ、西垣くんならきっと良い人に出会えるよ」
「だといいんだけど。」

そんな話をしながら、私は内心ハラハラしていた。何故ならばロッカーに入れた鞄の中にある、彼へのプレゼントをいつ渡そうかタイミングを見計らっていたから。朝少し早めに来たけど、西垣くんが来たのは少し遅めで残念ながら作戦失敗。もう練習が終わってからしか渡す機会がない。はぁ、どうしよう。何て言って渡そう。







「今日の練習はここまでだ。みんな、お疲れ様。」
「「「ありがとうございました!」」」
「クリスマスだと言うのによく練習に来てくれたな。これは先生からみんなへのクリスマスプレゼントだ!」

そう言って二階堂監督は全員にジュースを配った。みんな喜んで受け取り、私も例外なくりんごジュースを貰った。しかし最後の後片付けがあるためすぐには飲めないので、ポケットに入れておいた。

練習で使ったボールやコーンを倉庫に片付けてから小走りで部室へ向かう。ジャージに着替えた部員がちらほら帰る姿を見て、私は焦っていた。

「あっ」

ポケットに入れたジュースの缶が転がった。土がついて少しずつ汚れてしまうのを見守りながら追い掛けると、こつりと誰かの足にぶつかって止まった。す、と浅黒い肌の手がそれを掴む。ドキリとして見上げると、やっぱり、思った通りの人と目が合った。

「西垣、くん」
「お疲れ様。今片付け終わったのか?」
「うん。あの、ジュースありがとう」
「ううん、まだ飲んでなかったんだな」
「片付け、あったから…」
「そっか」

西垣くんはジュースを持ったままくるりと向きを変えて足を進める。返してくれないのかな、とか、今から帰るんじゃないのかな、とか考えると私の足はその場から動かなかった。呆然と背中を見つめていると、足音がついて来ないのを不思議に思ったのか西垣くんがこちらを見た。

「汚れたまま返せないだろ?」
「えっ!別に西垣くんのせいじゃないし、いいのに」
「いいじゃん、俺が洗って返したいんだ。それにみょうじは今から部室に行くんだろ?」
「う、うん…」
「女川たち先帰ったんだ。良かったら一緒に帰らない?」
「今から着替えるけど、いい?」
「うん、待つよ」
「あ、じゃあ急いで着替えて来る!」

西垣くんを追い越して走って部室に行くと、後ろから「そんなに急がなくていいのに!」と言う声が聞こえたけれど、私は手を上げて答えて部室へ戻った。

慌てて着替えを済ませ、鞄の中のプレゼントを確認して深呼吸をひとつ。絶好のチャンスじゃないか。気持ちを固めて部室を出ると、西垣くんは壁にもたれて待っていてくれた。

「ごめん、待たせて」
「んーん。はい、ジュース」
「ありがとう!」

水で冷えたのか、綺麗になったジュースを持つ西垣くんの手は真っ赤になっていた。冷たそうだな、と思った私は無意識に西垣くんの手に自分の手を重ねていた。

「やっぱり、すごく冷たい…」
「!!」
「……あっ、ごめん!」
「い、いや…」

我に返って自分の行動がいかに恥ずかしいものだったかを自覚してかっと顔が赤くなる。私はその恥ずかしさを打ち消すようにわざとらしくそうだ!と言って鞄の中からラッピングされた袋を取り出した。

「はい、これ」
「…?」
「メリークリスマス。」
「俺、に?」
「うん。私から、西垣くんに。」
「いいのか…?俺何にも用意してないぞ…?」
「お返しが欲しくて渡す訳じゃないよ。ほら、西垣くんいつも優しくしてくれるから。今日みたいに、お疲れ様って言ってくれたり…ジュースだって、洗って返してくれたし!いつものお礼って言うか…その…うん、お礼!」

照れを隠すために饒舌になる私に、西垣くんはまるでわかってるよ、とでも言うかのようにくすくすと笑った。

「なぁ、開けていいか?」
「う、うん…」

彼の手の中で姿を見せたそれは、私が3時間かけて悩んで決めた、赤が基調のノルディック柄のバンダナ。いつも青いバンダナだから、雰囲気変わるかな、とか思って選んだ。

「おぉ、バンダナ!」
「色々迷ったんだけど、無難にね」

西垣くんは自分のバンダナを外して、私が渡した物をつけてくれた。

「どう?」
「うん、似合ってる!」

そう答えると西垣くんはにっこり歯を見せてありがとうと言ってくれた。その笑顔で私の心は満たされ、苦労した甲斐があったと満足感に浸った。

「今度女川に自慢する。これみょうじに貰ったんだって」
「えっ、恥ずかしいよ!」
「だーめ、決めた。屋形にも自慢する!」
「ちょ、西垣くん…!」
「…本当に、ありがとうな」

こちらこそ、いつもありがとう西垣くん。その気持ちはなんとなく口にするのが憚られたので、笑って返事をする事にした。


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