ホワイトクリスマスだなんだと外は浮かれた雰囲気だが、俺は1人コタツに入って明石家サンタを見ていた。今年もまた1人。きっと来年も明石家サンタか。はぁ、と溜め息を吐くと部屋の中なのに白い息。我慢出来ずにガスストーブも付けた。こんな寒い中みんなよく外に出るよと感心しながら、みかんを剥いた。

「…ははっ…」

テレビを見て笑っても1人。

「いてっ」

みかんの汁が飛んで目に入っても1人。

「はぁ」

染岡はイタリア行っちまったし、円堂には奥さんが出来た。マックスは毎年違う彼女連れて…後輩達は合コン。俺のクリスマスって、何なんだろう。
じんわりと涙が滲みかけた時、マナーモードにしていた携帯が震えた。電話だった。こんな日に誰だよ…と思ったけど、それは大学の後輩の女の子からだった。

『もしもし、半田くん?』
「おー、なまえじゃん。どうした?」
『今、お家ですか?』
「…そうだけど」
『あっ、あの、迷惑じゃなかったら今から行っても大丈夫ですか…?』
「えー…大人数入れるような部屋じゃねーよ?」
『いえ、その…………私だけ、なんですけど』
「えっ?!」
『迷惑、ですか…?』

少し躊躇うよいに発せられた私だけ、と言う言葉に思わず胸が跳ねた。いやいや、いやいや落ち着け。ここは先輩らしく毅然とした態度で接さねば。

「ううん、迷惑じゃないよ。」
『よかったぁ…』
「うちまでの道わかる?」
『いえ…』
「駅まで迎えに行こうか?」
『あ、それは大丈夫です!!住所さえ教えてくれれば、なんとかして行きますんで!』
「それなら迎えに行くよ?」
『あっ、えっと、ダメです!』
「へっ?」
『…ダメなものは、ダメです…。だから、その、住所メールしてください』
「はぁ…わかった、じゃあ切るね」
『はい』

ぷつりと電話を切り、彼女に住所をメールした。ありがとうございます、結構近かったので30分以内にはつきそうですという返事がきた。近いのに30分?と聞くと、方向音痴なんで、と汗をかいた顔の絵文字つきで返事され、思わずぷっと噴き出した。頑なに迎えを断るのには何か理由があるのだろう。そう考えて、俺はコタツから出て軽く部屋を片付けた。







30分過ぎても来ないので心配して電話をすると、案の定迷っていたらしい。近くにある目印を話してもらうと結構近いところまで来ていたので口頭で道案内をした。

「住宅街のアパートだから、ちょっと見つけにくいかもな」
『待たせてごめんなさい…あ、ここかな…?』

カツカツと受話器と玄関の外から階段を上る音が聞こえる。ようやく辿り着けたらしい。切りますね、と彼女が告げて電話が切れたのとほぼ同時に家のチャイムが鳴った。ガチャリと扉を開けると、赤いAラインのコートを着たなまえが立っていた。鼻先が真っ赤で、いかに外が寒かったかを教えてくれた。

「半田くん、メリークリスマス!」
「おう、メリークリスマス!外、寒かったろ?」
「いえ、大丈夫です。お待たせしてすみません…あの、これ」
「えっ…うわっ…!」

彼女はガサリと大きめの紙袋を俺に手渡した。

「いつもお世話になってる先輩に、私からクリスマスプレゼントです!」

そう言って満面の笑みを向けてくれる彼女は、まるでサンタのようだった。勢い余って抱き締めそうになるのをこらえて、「まぁ、ここじゃなんだし上がりなよ」と言って彼女を部屋へ通した。ブーツを脱ぐ時に俯き、髪を耳にかける仕草にドキリとしたのは内緒だ。

「これ、開けてもいい?」
「はい!」

2人でコタツに入り、テレビの音量を低くする。丁寧に包装を解く俺をじっと見つめながら彼女は「これをサプライズで先輩に渡したくて。迎えに来られちゃったらすぐにバレちゃいますから」と苦笑いして言う。相槌を打ちながら中身を出すと、それはTHE NORTH FACEの青いメッセンジャーバッグだった。

「うっわ、これ結構したんじゃないの…?」
「いえ、半田くんの為ですから。それに半田くん、前に鞄欲しいって言ってたんで。気に入ってもらえたら嬉しいんですけど…」
「気に入るも何も、最高だよ!もっと安いので済まそうと思ってたからさぁ!やば、めっちゃ嬉しい…!」

ぎゅっと畳まれた鞄を広げ、肩に掛けて長さを調節する。もう嬉しくてたまらなくて思わず一回転したりして。

「本当にありがとう!」

そう言って俺が笑うと、なまえも嬉しそうに笑った。こんなに温かい気持ちになったクリスマスは生まれて初めてだ。

「お礼とまでは行かないけど、軽くご飯食べに行かない?」
「え、いいんですか?」
「高級レストランとかではないけど…」

俺が面目なさそうに言うと、なまえは更に満面の笑みで「半田くんとなら、どこでどんな料理を食べても美味しいですよ!」なんて言うものだから、それ以降俺の心臓が静まる事はなかった。

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