部屋で1人、黙々と冬コミのパンフレットに印をつける作業に没頭していた。コタツの上にみかんと熱いお茶を用意し、コチコチと秒針が時を刻む音をBGMに実に必死にページをめくる。 そんな事をしていたら、CCMが着信音1を流し始めた。プルル、というありがちな機械音は職場で鳴っても大丈夫なように設定した音だった。ディスプレイに表示された名前は付き合って半年の彼女のものだった。 「なまえ?どうしたんです?」 『ユジン今どこでなにしてるの?』 「え、家で冬コミのサークルチェックを…」 『そんな事だろうと思った。』 「え」 『今からユジンち行くからね』 「今からですか?」 『今から。ヤバい物片付けといてね』 「あ、はい…ってそんな物ないですよ!」 『夜勤病棟』 「片付けます」 鼻で笑われた後でぷつりと通話を切られた。いつも片付けてるはずなのに何故バレているのか。僕の不備なのか彼女が引き出しを開けたのか。…考えないでおこう。 とりあえず彼女が来るらしいのでパンフレットを閉じていそいそと片付けを始めた。 僕の彼女はパンピさんだ。だからと言ってオタクが嫌いと言う訳ではないらしく(じゃなきゃ僕なんかと付き合う訳がない)、理解を示してくれている。時々服装にツッコミを入れられるけどそんな時は2人で新しい服を買いに行く。最近はアニメや特撮を一緒に見てくれるし、それなりに仲良くやっている。 ヤバい物を一通り押し入れに詰め込み、散らかっていた服を洗濯カゴに押し込み、とりあえず外見は取り繕った。よし、と手を打ったと同時にインターホンが鳴り、ドアが開く音がする。僕が出る前に入ってくる人は1人しかいない。丁度いいタイミングだ。 「ユジーン、きたよー」 「いらっしゃい」 彼女を迎えた瞬間、なまえは顔を歪ませた。 「…スウェット…」 「え、はい、スウェットですけど」 「もー、ユジンもさぁ!リアジュウなんだからさぁ!今日が何の日かぐらい把握しといてよぉ!」 「えええええ」 最近まで使い方を間違えていたリア充の使い方をマスターしてる事にも驚いたけど、カレンダーの日付にも驚いてしまった。 「うわああ今日クリスマスじゃないですかああああ!!」 「そうよ!今日はクリスマスなのよ!!」 「ごっ、ごめんなさい…!」 「はい!わかったら!着替える!そんな装備で大丈夫か?!」 「一番いいヤツですねわかりました!」 先週僕がやってたゲームを隣で見ていた影響か彼女はそんな言葉まで使えるようになっていた。彼女の順応性の高さには時々驚かされる。 「あっ」 「どうしたの?」 「こないだデートした時から洗濯サボってたから一番いい服がありません…」 「なん…だと…」 と言うか少し染まりすぎなような気もする。 スウェットのままでいいという許可が出たので僕はスウェット。いつもオシャレな格好をしている彼女はいつもよりオシャレな服。不釣り合いで申し訳ないなあと改めて思いながらお茶を入れて出した。 「ねえ、それ」 コップを彼女の前に置き、入って来たときからずっと気になっていた大きな紙袋にふれた。 「何だと思う?」 「…。クリスマスプレゼントだったりしますか?」 「はい、クリスマスプレゼントだったりします。」 僕は何にも用意してなかったと言うのになんて出来た彼女なんだろう。いや、僕が不甲斐なさすぎるのか。情けなくてしょんもりしていると彼女は笑ってメリークリスマス、とプレゼントを差し出してくれた。 「ユジンこれ好きだって言ってたからさ、」 「これは…」 中身は僕が一番好きな特撮シリーズのDVD全巻セットだった。全部となると値段も結構張ってくるだろうに…なまえに少し後ろめたい気持ちでありがとう、と言った。 「あれっ、もっと喜んでくれると思ったんだけど…」 「…あー、実は」 「……もう持ってる?」 「…はい…見る用と保存用で…」 「保存用って!」 なまえはがっくりと肩を落として落ち込んでしまった。これだからオタクは、と今更な事まで言われ、相当傷つけてしまった事が伺える。 「けど、本当に嬉しいですよ。なまえからもらったこのDVD達は、なまえと見る用にしますね?」 「うん……」 「僕も何か用意してたら良かったですね…すみません」 両手を握って謝ると、なまえはじっと僕の目を見つめて「ユジンは私の事好き?」と聞いてきた。いきなりそんな事を言うものだから僕の顔は赤くなってしまい、視線を床に移した。 「す、好きです」 「ちゃんと目、見て言って」 「………好き、です…んっ、」 答えると同時に唇を塞がれ、そのまま舌まで入れられて深いキスをした。ぱっと離れたかと思うと、ぎゅうと抱き締められ、僕は何が何だかわからなくなる。 「ど、どうしたんですか?」 「…プレゼント、何にもないんだよね?」 「…そう、ですけど」 「…………じゃあ、抱いてよ。」 「?!!」 恥ずかしながらこの年になっても童貞の僕には刺激的すぎるお言葉。何も言えず黙っていると彼女がもう!と軽く僕を叩いた。 「プレゼントはユジンがいいって言ってんの!」 「だ、だ、だって僕、その、やりかた、が…っ」 「私がちゃんとするから大丈夫。」 「…なまえは初めてじゃないんですか?」 問うと、しまったと言う顔をしたなまえが気まずそうに視線をそらした。今僕の目の前にいる彼女が、他の誰かに抱かれた事がある。そう考えると胸の奥がざわざわして、ふつふつと怒りのような感情が込み上げてきた。 「きゃ、ちょっと、ユジン…?」 気が付くと僕はなまえを押し倒して馬乗りになっていた。 「僕以外の誰かが抱いたって考えたら、居てもたってもいられなくなっちゃって」 「ユジン…」 「…初めてですけど、ちゃんと、しますから」 「うん…」 彼女がうんと答えた瞬間、僕はなまえに噛み付くようなキスをした。 |