クリスマスが何だ。私にはそんなイベント関係ない。街を飾る電飾も、馬鹿みたいに流れ続けるクリスマスソングも、何一つとして私の心を動かす事はない。何てことはない、いつもの日曜日、休日でしかない。
スピリチュアルの本を読みながら外の雰囲気を思って辟易する。おひさま園での1日はそれなりに長くて暇だ。最近ずっとここにこもりきりだし、たまには出掛けようか。ただの休日だ、周りは気にする事はない。

「晴矢、コンビニに出掛けるが何かついでに買って来てやろうか」
「コーラ。ペプシじゃない方」
「わかった」

コートを着てマフラーを巻き、ムートンブーツを履いて外へ出た。
外の空気は刺すように冷たく、天気も悪い。雪が降りそうな空模様だ。吐く息も白く濁るし、やはり出掛けるのは失敗だったろうかと少し後悔する。身を縮めて歩き、コンビニを目指した。







コンビニで目についた雑誌を立ち読みしたり、お菓子を見てみたり。こもってばかりなので世の中に自分の知らない情報が更新されている。定期的に出掛けて新しい刺激に触れないといけないなぁなんてぼんやり思った。

「…風介くん?」
「え?」

聞き慣れない女の声に名前を呼ばれて振り向けば、見知らぬ顔が私をじっと見つめていた。

「私だよ、私!」
「…?」
「忘れたって顔だね…ほら、昔時々遊んだじゃん、瞳子の友達の、」
「…なまえさん、…ですか…?お久しぶりです」
「うん、久しぶり。風介くん大きくなったねえ」

昔と変わらない態度で頭を撫でてくる。身長だってそんなに変わらないのに子供扱いをされて少し恥ずかしくなった。

「やめろ…て、下さいよ…」
「あはは、タメ語か敬語かはっきりしなよー」
「〜〜っ…はぁ…」

この人と話していたら調子が狂う。溜め息をついてまじまじと顔を見ると、確かに昔の面影が少し感じられた。しかし本当にわからなかった。こんなにも、化けるなんて。女の人は怖い。

「何年ぶりかな?」
「…6、7年は経ったんじゃないですかね」
「そっかそっか。今いくつ?」
「14です」
「えっ、そっか…もうそんなになるのかあ。それにしてもコンビニで会うなんて偶然だね」
「そうですね。なまえさん今日予定ないんですか?クリスマスですよ?」
「痛いとこ突くなあ。そういう風介くんこそ」
「私は別に彼女なんていりませんから」
「あはは、相変わらず冷めてんねー」

そんな冷めた風介くんには、と言っていきなり手首を掴まれどこかへ連れていかれる。なまえさんが足を止めたのは、大きな扉が塞ぐ冷凍庫の前。

「もっと冷たいアイスクリームを買ってあげましょー!」
「……。」

そのノリについていけなくて何も言えなくなってしまう。煩わしい。
けど昔はこんな風に接してくれる人が居なかったから、嬉しくって、楽しかったんだっけな。

「ハーゲンダッツ!バニラでいい?」
「本当に買ってくれるんですか?」
「うん、しょぼいけどクリスマスプレゼントにどうかな、って」
「…バニラで」
「うん!」

なまえさんはとびきりの笑顔で私に向けて笑った。扉を開いてアイスを取り出し、レジへ向かう。

「おひさま園にはたくさん子供いるから、風介くんだけにアイス買ったのはみんなに内緒だよ?」
「わかりました。こっそり食べます」
「うん、ふふふ」

そのまま並んでコンビニを出て、軽く挨拶を交わす。

「瞳子によろしく言っといてね」
「はい」
「それじゃあね」
「さよなら」

別れてからまた寒い中体を縮めておひさま園への帰路を行く。これだけ寒かったらアイスが溶けるのに時間が掛かりそうだったけど、なんとなく早くあの家に帰りたい…そんな気持ちが膨らんでいた。

「ただいま」
「コーラ」
「あ、忘れた」
「は?何買って来たんだよ」
「…秘密だ」
「あぁ?」

急ぎ足で部屋へ籠もり、約束通り1人でこっそりアイスを食べた。流石ハーゲンダッツ、濃厚でとても美味しかった。


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