クリスマスに男だらけの酒の席に出席している自分は一体。そう思いながらベテランが集まる忘年会も兼ねた飲み会でジョッキをあおった。これは付き合いというもので、自らが望んで参加したわけではない。それに自分には彼女がいる。大学に通う年下の彼女が。周りには彼女がいるとは言ってなくて、25日に飲み会を断ったら当然怪しまれる訳で。

「どした堀田?」
「…え、なんすかガミさん」
「なんか落ち着きねーなと思って」
「そうですか?」
「おう」

落ち着いてなんていられるか。

話は数日前に遡る。この飲み会に誘われて断れなかった俺は、なまえに頭を下げた。

「ごめん、本当にごめん。クリスマス…忘年会誘われて…それで、断ったら、バレそうで…断れなくて…」
「…あぁっ、そう。」

俺の家でこたつに入って猫を撫でていたなまえが無表情でそう答えた。すると徐にこたつを出て鞄からスケジュール帳を取り出して開いた。

「じゃあ、私合コン行くね。」
「ごっ…」
「大学の友達から誘われてたんだー、25日。予定無くなったしいいよね?堀田くん予定出来ちゃったしね?」
「……っ」
「どんな格好して行こうかなぁ〜」

そう、そもそもは2人で過ごす予定だった。それを勝手に俺がキャンセルしたから、行くなと強く言う訳にもいかず悔しくて下唇を噛んだ。合コン。大学の友達に誘われたと言うことは、きっと相手は世良や椿のような若い子達だろう。なまえが浮気なんて有り得ないとは思っているけど、機嫌を損ねている今、もしかしたら、なんて考えたりなんかして、気が気じゃない。

そんなやり取りがあった後の今日だ。ゆっくり飲んでいられる訳がない。俺がこうして男所帯で飲んでいる間にもなまえは…。ガミさんが横で色々話しているが何ひとつとして頭に入って来ない。


そんな落ち着かない時間を過ごしていると、時々飲み会に加わる世良の友達の先輩だという子が顔を覗かせた。丹さんにクリスマスプレゼントを持って来たとかで周りがやんやと冷やかした。ぼんやりとその様子を眺めていると、ふわふわとなまえの笑顔が頭に浮かんだ。年が近い子を見たからだろうか。そして本来なら今日渡そうと思っていた銀の輪の事を思った。

どういう流れだったかはわからなかったが、急に丹さんとその子は立ち上がり、居酒屋を抜け出して行った。

「はぁ、いいなー丹さん今からお楽しみだぜ?」
「あの人いつまで現役なんですかね」
「ははっ、丹さんはいつまでも現役だろ」
「あいつは元気過ぎ。ちょっとは落ち着いてもいいと思うんだけど」
「まー確かに」

わいわいと丹さんの話で盛り上がる中、俺はぎゅっと拳を握り締めて押し黙っていた。隣のガミさんが心配して声を掛けてくれたところで、俺の中の何かがぷつりと音を立てて切れた。

「すみません、俺帰ります!」
「えっなにどうしたの」
「俺、彼女いるんです」

暴露した途端みんなしてええっと驚き騒がれ、写真見せろだの会わせろだのと言ってくる。これが嫌だから俺はずっと黙っていたのに。

「みんなに紹介する時は結婚する時だけですから!じゃあ失礼します!」

万札を机に置いて先輩を振り切って店を出た。適当にタクシーを拾って、光の速さで家に帰った。







タクシーに乗ってる間なまえに何度も電話したけれどちっとも出やしない。こんなにも心配な俺の気も知らずに合コンを楽しんでいるのだろうか。鍵を開けてバタバタと家に入ると、本来ならそこに居るはずのないなまえがこたつに入って扉に背を向けるようにすやすやと眠っていた。その様子を見て俺は拍子抜けする。

「おい、なまえ、なまえ」
「ん〜…」
「なまえ、」

軽く肩を揺らすと声にならない声を出して上を向いた。何かを抱いていたのか、なまえの体からそれはころりと転がった。よく顔を見ると少し目が腫れていて、頬には涙の跡があった。

「…なまえ、起きろ、なんでここで泣いてたんだ、なあ、」

しばらく揺さぶっているとゆっくりと瞼が持ち上がった。

「…堀田くん…?あれ…何時…?」
「お前の事が心配で無理やり抜けて来たんだ…なのに何で…家にいるんだ…?お前、合コンは…」

なまえは眠そうに目をこすって欠伸をし、「あんなの嘘に決まってんじゃん」と言った。

「…嘘?」
「うん、嘘」

はぁ、と大きく安堵の溜め息を吐くと一気に全身の力が抜けたような気がした。

「何でそんな嘘を」
「だって。堀田くん…予定入れちゃうんだもん…。合コンって言ったら堀田くん私の事気にかけてくれるかなって…」

良かったな、その作戦は大成功だよ…

「て言うかさ、ずっと思ってたんだけどいつまで私は秘密の彼女なの?やだよ、そんなの」
「え、ああ、今日言って来た。彼女がいるって。」

なまえはぱっと笑って本当に?嬉しい!と喜んだ。その笑顔を見るとなんだか今まで悪い事をしていたような気になる。

「あ、そう言えばこれ、堀田くんに」

さっきまで抱いて寝ていた何かをすっと俺に差し出した。

「メリークリスマス、堀田くん」
「え、これ…」
「プレゼント!」

袋を開けて中身を見ると、それは真っ赤なダウンジャケットだった。

「ユニクロの軽いやつ、えへ…安物でごめんね…」
「なまえ…。ありがとう、嬉しい。実は俺からもあるんだ、クリスマスプレゼント」
「え、なに?」
「ちょっと待ってろ」

くしゃりと頭を撫でて寝室へ向かった。引き出しからそっと小さな箱を出し、深呼吸をする。今すぐにとは言わないけど、出来るならこれからもずっと一緒に居て欲しい俺の気持ち。左手の薬指に、予約済みのしるしをつけておきたい。一緒になるのは、君が君のやりたい事を叶えてからでいいから。

なまえはこれを、受け取ってくれるだろうか。


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