おとうさまが抱えきれない程のプレゼントを持って、私たち全員に配ってくれる。サンタなんて居なかったけど、私たちにはおとうさまが居たからサンタなんて必要なかった。毎年12月25日、クリスマスは盛大なパーティーを開いていた。 …というのは全て思い出、記憶の中の話である。そこまで遠くない過去、高校生の私には容易く思い出す事ができた。 おひさま園で育った子達とは今でもそれなりに仲が良く、距離が近い子とは時々遊びに行ったりもする。 「ヒロト!久しぶり!」 基山ヒロトもその内の1人。けど、ヒロトは他の子とは違う。このクリスマスと言う特別な日に彼だけを呼び出して、プレゼントを渡したい。そんな相手だ。 「久しぶり。元気そうだね」 「うん!そっちも元気そう。」 「高校はどう?友達できた?」 「うん。楽しくやってるよ!ヒロトは高校どう?」 「俺もそれなりに楽しくやってるよ」 「そっか!」 待ち合わせの場所からあてもなく歩きながら近況報告をし合い、昔話に花を咲かせた。ヒロトはどんどん背が伸びて格好よくなる。こうして並んで歩いていると、チラチラとヒロトを見る女の子の視線が刺さる。不釣り合いに映っているのはとっくに悟ってるけど、今、彼の隣を歩いているのは他の誰でもない私なんだと自分に言い聞かせて平静を保つ。 「それにしても寒いな」 「そうだね…あ、喫茶店入ろっか」 「ん」 適当にそこにあった喫茶店を指してドアをくぐると、カランとベルが鳴り暖房のよく効いた空気に包まれた。店員に通されたテーブルで腰を落ち着け、アウターを脱いだ。 「何にする?」 「私紅茶かなあ」 「俺コーヒー」 「他になんか頼む?」 「とりあえずドリンクだけでいいんじゃない?」 「だね」 店員を呼んで注文し、注がれた水を一口飲んだ。ヒロトも同じように水を飲み、視線を水に落とす。その一連の流れをじっと見ているとふいに顔を上げられて、目が合う。数秒沈黙の中見つめ合い、恥ずかしくなった私が先にそらした。そうだ、と言ってそれとなく鞄を開け、渡したい物を取り出した。 「メリークリスマス、」 「え、俺に?」 「うん。時々、こうやって遊んでくれるから…お礼、みたいな。」 「ありがとう。開けるのは帰ってからのお楽しみにするよ」 「気に入ってくれると嬉しいな…」 「大丈夫、なまえが選んでくれたものなら何でも嬉しいよ。」 ヒロトはにこりと笑って簡単にそんな事を言ってのける。私は顔が赤くなるのを感じて、俯いた。ヒロトがふふ、と笑うのが聞こえる。恥ずかしくてたまらなかった。 それから日が暮れるまでイルミネーションの煌めく街中を肩を並べて歩いた。時々触れる体にいちいち反応する自分がいやだった。ヒロトは賢くて鋭い。だから、私の気持ちなんてお見通しなんじゃないかと不安になる。けど、それはそれでいいかな、なんて。 「…ねえなまえ」 「なぁに?」 「初詣、一緒に行かない?」 「元旦?」 「いや、できたら大晦日の夜から。それで、一番になまえにあけましておめでとうって言うんだ」 その言葉を聞いて私の心臓は煩く高鳴る。ヒロトはいつもこうやって私を期待させるような事を言うから、ずるい。 「えっと、義父さんと義母さんに聞いてみるね。」 「…そっか、なまえには新しい家族ができたんだよね。それは大切にしなきゃ。約束とか、思い出とか。」 「オッケー出たら、またメールする」 「うん。もし家族で年越し過ごすんなら俺を優先しちゃだめだよ?」 「……。」 「なまえ?」 「…わかった。」 「うん。じゃあ、またね」 「またね。」 新しい家族も大切だけど、ヒロトだって私にとってはとても大切だし、一緒に思い出を作りたいんだよ。この気持ちは、きっとヒロトには汲み取れない。けど口に出して言える訳もない。義父さんと義母さんが一緒に出掛けようって言ったらどうしよう。私はヒロトと過ごしたい。…なんて、薄情な娘かな。 ☆ なまえに新しい家族ができた事をすっかり忘れてしまっていた。それぐらい2人の時間は懐かしい気持ちで過ごしていた。新しい家族が出来たならそれは大切にしなきゃならない。昔の癖で、つい独占してしまいそうになる。おひさま園に居た頃は俺が我が儘を言ってなまえと遊びたい子を押しのけて遊んでたっけ。そんな事も知らないで、なまえは素直な笑顔を俺に向けてくれていた。俺は、狡い男だと自覚している。 ずっとなまえを見てきたからわかるけれどきっとなまえも俺が好きだ。いちいち反応が可愛くて仕方なくて、ずっと言わずにはいるけど、気を抜いたらすぐに触ってしまいそうになる。今日だって、体が触れる度に手を繋ぎそうになった。そろそろ俺が我慢出来そうにないので、年越しにもし一緒に過ごせるなら、言おうと考えている。 「ただいま」 誰も居ない家に挨拶をする。今は不在だけど、普段は姉さんと2人で住んでいる。姉さんはサッカーから離れてからずっとおひさま園の子の面倒を見ている。最近少しやっかいな子が来たとか言っていたけど、姉さんはとても嬉しそうにその話をしていた。親から貰えなかった愛を姉さんから貰える子は幸せだと思う。 ぼんやりとそんな事を考えながら、なまえがくれたプレゼントを開けた。中身は手のひらサイズの丸い球で、見ただけでは何かわからなかった。裏の説明を見ると、どうやらそれはお風呂で見られる小型版のプラネタリウムだった。 早速開けてお風呂に持って入った。お湯を溜めた浴槽に浸かって一息つく。 暗くした風呂場の壁に浮かぶ、小さな宇宙。 色々見て悩んでこれを買って、プレゼント用で…なんて言うなまえが容易に想像できて、くすりと笑う。そろそろ、なまえをちゃんと俺の物にしないと誰かに横から奪われてしまいそうだ。ちゃぷり、とお湯が音を立てた。 |