「あっ、いたいた!狩屋くーん!」 「はぁい!」 名前を呼ばれてとびきりの笑顔の仮面を被って振り向いた瞬間、バリバリと仮面を剥がした。チッ、無駄遣いした。 「何だお前か。笑顔1つ余分に使ったじゃんか」 「ちょ、ひど!」 みょうじはオレと一緒におひさま園から雷門に転入した子。オレと一緒でひねくれていて、向こうにいた頃はよくお互いを騙し合って悪戯したりした。そんな感じでずっと共同生活を強いられていたのでわざわざ猫を被る必要がない。楽と言えばこっちの方が楽かもしれないけど。 「折角いいものあげようと思ってたのに…」 「いらない。お前からのはロクなもんじゃないからね」 「失礼だなー。じゃーん、クリスマスプレゼントー!」 「…ガキくさ。」 「なにを?!これは私がヒロト兄ちゃんから預かったものなんだよ?」 「え…」 ヒロトさん、とは。昔おひさま園に預けられたというオレらの先輩みたいな人。時々様子を見に来ては遊び相手になってくれたりオモチャを寄付してくれたりしていた。そんなヒロトさんに偽善者ぶんな、と暴言を吐いて脛を蹴った時、反射的な涙を零しながらもオレの頭を撫でた。あの人はきっと底無しの良い人なんだとその時思った。 そんなヒロトさんからの贈り物を受け取らない訳がない。けど、 「怪しい…。ヒロトさんなら直接オレに送ってくれるはず…」 「ギクッ!」 「やっぱり嘘か!あー、油断した!」 「くそー、勘がいいなーむかつく!じゃあ私から!私からのプレゼント!」 「絶対開けない」 「チッ」 いま舌打ちしたよこいつ。絶対何か企んでる。 「まぁまぁピリピリしないで。ガムいる?」 「いる!」 「どうぞ」 「わぁい!」 みょうじが喜んで手を伸ばしたガムは、オモチャのパッチンガムだ。引き抜いた瞬間、みょうじの指に勢い良くパチンと仕掛けが働いた。 「痛っ!」 「っははは!こんな古典的な罠にハマるなんて馬鹿じゃないの?!」 「〜〜〜っ!……っう、ひっ…」 急にぽろぽろと涙を零しだすみょうじにぎょっとする。何も泣く事ないじゃんか!こんな悪戯、あっちにいた頃はしょっちゅうやってたし、もう、なんだよ!泣かれたら調子狂うじゃんか! 「なっ、泣くなよ!」 「ひっく…うっ…じゃあ狩屋くん、プレゼント…開けてくれる…?」 「開けたら泣き止むか?泣き止むな?」 こっくりと頷いたみょうじに少しでも早く泣き止んでほしくて、オレは慌ててプレゼントの包装紙を破った。中身はシンプルな正四面体の箱だった。中に入っているものが想像つかなくて少し戸惑ったけどぱかり、と蓋を開けた。すると中からいきなり何かが飛び出してオレの顔を直撃した。…やられた。 「っぷ、あはは!やーいやーい!」 「……お前なあ!」 「やっべー怒った怒った!逃げろー!」 こいつ、オレが泣き顔に弱いって知ってわざと涙流しやがったのか。なんて女だ。…そんな女にずっと構ってるオレも、なんなんだろう。オレって結構頭、悪いかも。 みょうじを追い掛ける途中自販機でコーラを買い、思いっ切り振りながらみょうじを探した。 「「あっ」」 「待てコラなまえーーー!!」 「っ!!」 オレがみょうじを名前で呼んだら、みょうじは顔を赤くするのを知っている。動きが鈍くなったところで、オレはコーラをみょうじに向けて開けた。炭酸が勢い良く噴き出して、それはみょうじをベタベタにする。ざまあみろ! 「狩屋達今日もやってるな」 「あぁ、仲がいいんだな」 「はは、お似合いでいいんじゃないか?」 「そうだな」 神童センパイと霧野センパイに、みょうじと付き合ってるの?って聞かれて、ドリンクを噴き出すのは、年が明けてからの話。 |