目の前の女はニコニコして、お決まりの台詞を言う。

「メリークリスマス!」

もう25日を何日過ぎたと思ってんだ、と言い返そうと携帯を開き日付を見ると、まだ2日しか経っていなかった。たった2日なのに世間はあっと言う間にクリスマスの物を片付け、一気に年末仕様になっている。と、言うのにだ。コイツは一体何を言ってやがんだ。

「それはもう終わっただろ?」
「25日にさー、みんなでパーティーしたんだよー」
「そうかよ」

みょうじの言うみんな、とは真・帝国学園のメンツの事だ。コイツはあのチームのマネージャーだった。影山の手によって作られたあのチーム、今はみんなバラバラになって連絡を取り合うなんて事もほとんどない。監督も今はもう居なくなっちまったし、俺はなるべくあいつらと関わりたくなかった。嫌な記憶しかねえ。

「んっとねー、不動くん以外は全員揃ってたんだよ」
「あ?マジかよ。」
「マジマジ。源田くんと佐久間くんも来てくれたんだよー」
「はぁ…?アイツらも…?お前どんな手使ったんだよ…」
「え?やだなぁ不動くんじゃあるまいし、普通にお願いしたら来てくれたよ。一度はチーム組んで練習した仲だし久しぶりに顔合わせるかーなんて言って」
「フウン」

興味なさそうな返事、とふてくされた返事をされたが全くもってその通り。興味なんてあるわけがない。

「それで、不動くんだけ何もなしって仲間外れみたいで嫌だから、」
「俺は全く気にしねえけど」
「私が気になるの」
「…。」
「今日会う約束入れて、クリスマスをお裾分けしようと思って。」
「お前変わってねぇな、そういう優しーい所」

語尾を強調して言うとみょうじは照れた顔をした。イヤミが通じない奴だと俺は舌打ちをする。コイツはお節介や有り難迷惑って言葉を知らないのか?昔ならすぐにでも拳を振るっているんだろうが、イライラするだけで収まる俺も随分と丸くなったもんだと溜め息をついた。

「それで、私ね、バナナケーキ焼いたんだ。」
「バッ…」
「みんなで食べたからあと一切れしか残ってないんだけど。どうぞ!」
「バナナ…ケーキ…」

手作りだというバナナケーキを目の前にしてたじろぐ俺を、ん?と小首を傾げて覗き込むみょうじ。何でもないフリをして手で掴み、口に入れた。少し甘すぎるとも思ったが味はなかなか。自然とうまいという言葉が漏れていた。

「源田くんから話を聞いた時は笑っちゃったなー」
「…おい、まさか…」
「不動くんが病室の窓から乗り込んで、源田くんのお見舞いだったバナナ勝手に食べて皮を顔に投げた話!」
「やめろォ!」
「あはは、しかもそのあと自分の胸を掴ませて?何だっけ?もっと熱くなれよ?あはは!テニスプレイヤーかっつーの!あはは!」
「お前ぶっ殺すぞ!」
「昨日もその話で超盛り上がって!あはははは!!」

今までのちょっと天然入ったバカは計算し尽くされた作ってたキャラだったのかよ!すげぇ腹黒じゃねえか!今日みょうじに呼び出された時嫌な予感はしてたんだ。くそっ、このしてやられた感じ、死ぬほど腹が立つ。真・帝国学園はやっぱり一筋縄じゃいかねぇやつばっかりだったって事か。クソが。

「っぷ、はははは!不動くんってほんっと面白ーい!」
「っ!お前はいつまでも笑ってんじゃねえ!」
「あーっははは!ははははは!!」
「最悪のクリスマスだ畜生!」





あれっ?


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