席替えをしたら、2回連続で隣の席が飛鷹くんになった。友達に肩を叩かれ、ご愁傷様なんて言葉を掛けられたのには訳がある。彼はたくさんの舎弟を抱える生粋のヤンキーで、地元では有名なワルらしい。蹴りのトビーという通り名があり、その名前は伊達じゃなく、彼の繰り出すキックはとてつもないものだとか。全て聞いた話なのでなんとも言えないが。
私はつい3ヶ月前この街に越してきたばかりで、まだ私の地元は引っ越し前の街のままだ。このあたりの話をされたところでそんなに興味は持たない。それに私は自分の目で見た物事しか信じない性格なので、その飛鷹くんの話はあまり信じていない。ずっと寝ているとは言え授業に真面目に出席する飛鷹くんがそんな乱暴な人だとは思えない。消しゴムを忘れた時には睨みつけられたけど貸してくれたし、化学の実験も文句言わずにペア組んでくれた。だから飛鷹くんは怖くない。優しくて親切な人だ。

数学の授業中、ちらりと隣を盗み見ると、飛鷹くんはせっせと髪をとかしていた。気合いの入ったリーゼントは毎朝固めているんだろうかとか、下ろしたらどうなるんだろうかとかぼんやり考えながら眺めていると、パキンと言う音がして飛鷹くんの櫛が折れた。折れた先はリーゼントに刺さったままで、なかなかシュールな絵面だった。それが可笑しくてたまらなくて、ぷっと噴き出すと飛鷹くんの瞳がぎょろりとこちらを向き、「あ゛?」とメンチを切られてしまった。私の周りの席の子は怯えていたけど、どうにも私には動物が威嚇しているようにしか見えず動じる事はなかった。

「頭、刺さってるよ…ふふ…」
「…笑うんじゃねぇ」
「だって…!」
「…。」
「良かったら私のコーム貸してあげるよ」

飛鷹くんの返事を聞く前に鏡と折り畳みのコームを差し出した。半ば押し付けるような形だったが飛鷹くんは黙って受け入れてくれた。
鏡を見ながら髪型を整える飛鷹くんを見ていると、先生がすぐ近くで咳払いをするのが聞こえた。反射的にそちらに視線がうつる。と、同時にまたしても飛鷹くんの方からパキンと言う音が聞こえてきたので視線は彼へと戻っていく。

「あ」
「……あ…」

私のコームは折り畳みの部分で真っ二つに折れてしまった。飛鷹くんはゆっくりとこちらに視線をやると、言葉を噛み締めるように「……すまん」と言った。

「全然いいよ、それ小学校の頃から使ってる古いヤツだし仕方ないよ。気にしないで」
「……」
「それより飛鷹くんの髪の毛のが心配だよ。櫛2本折るってどんだけ固く絡まってんの?」
「……」
「ははっ」

飛鷹くんはとても無口だ。いつも私がこうして一方的に話している。会話のキャッチボールと言うよりは、ひたすら投げ続けるピッチャーの投球練習に近い。それでも私が飛鷹くんに絡み続けるのは、純粋に飛鷹くんと言う一人の人を知りたいと思っているからだったりする。







それから数ヶ月が経った。季節は冬。私の一方的なワンマンプレイは相変わらず。そしてポーチからコームが消えたのも変わらない。少しだけ変わったのは、飛鷹くんが気が向いた時に会話をしてくれるようになった事。

コームが無いと不便だと感じる事が最近多いので、そろそろ新しい物を買おうと考えている。シーズン的に街はクリスマス一色。ちょうどいい機会だ、可愛いのを買おう。そう考えて雑貨屋に入るけれどどれもピンと来ない。と言うより、自分が使う姿を考えられなくなっていた。頭に浮かぶのは、別の人。飛鷹くんの事だった。
何色が好きなんだろうかとか、どんなのなら気に入ってくれるかなとか、ふと気がつくと頭が勝手にプレゼントする気になっていた。店内にかかるジングルベルが私をそうさせたのかもしれない。クリスマスとは恐ろしいものだと独り言を呟いて、目的を飛鷹くんへのプレゼント選びに切り替えた。


12月22日、今年最後の学校の日。私はプレゼントを持っていつも通り遅刻ギリギリに登校した。自分の席に座って鞄を開けると、プレゼントが顔を覗かせる。ぼんやり袋を見つめていると、始業のチャイムと同時に飛鷹くんがやってきた。

「うっす、はよ」
「おはよ。はい、これあげる」
「あぁ?なんだそれ」
「変な物じゃないよ」
「そうじゃねぇ。…俺も、お前にあげるもんあるから。」
「え?なにそれ」

お互いに綺麗にラッピングされた袋を渡し合うと言うよくわからない状況に陥った。飛鷹くんから贈り物をもらうなんて夢にも思わなかったので飛鷹くんに見えないように頬をつねった。痛かったからこれは現実だ。

「あ、これ」

プレゼントを開けると、中身は櫛だった。身が白く、金の細い線で虎が描かれた櫛。

「…マジかよ…」

その櫛は、私が飛鷹くんにあげた物の色違いだった。私が昨日買ったのは、身が黒く、銀の細い線で虎が描かれた櫛。

「こんな事、あるんだね…」
「あぁ、驚いたな」
「ありがとう、大切にするね」
「おう。前、お前の櫛壊しちまったからな…」
「え、それで代わりを買ってくれたの?」
「……」

口では何も言わなかったが、私があげた櫛で早速髪をとかしてみせた。それが彼なりの照れ隠しだと言う事に気付いたのはつい最近だ。

「ありがとう、飛鷹くん」
「……」
「けどお揃いになるね、私もこれ使ってもいいの?」

パキッ

「あ」



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