「ごめん、待った?」
「ううん、私も今来たとこだよ。」
「そっか、よかった。あ、メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「それじゃあ行こっか。」

12月25日、私は一之瀬くんと並んで歩き始めた。本当は2人で行く予定では無かった。約束してた秋ちゃんと土門くんが当日の朝になってドタキャンをしたのだ。それは私が一之瀬くんの事を好きだと知った上での、私へのクリスマスプレゼントだとか。
彼らとの付き合いは3人ほど古いものじゃないけど、今年はよく遊んだ1年だったと思う。だから、一之瀬くんと2人きりでもさほど緊張はしない。彼の性格上スキンシップが多いのもあって、些細な事でドキドキしていたら心臓が持たないし。

「土門と秋、残念だったね」
「そうだねー。けど、また今度遊べばいいじゃん」
「うん!それに、俺はなまえと出掛けられてるからよかったと思ってる」
「ありがと、私も一之瀬くんと遊べて嬉しいよ。来年は受験あるしなかなか遊べないかもしんないし…」
「受験かあ…なまえは志望校決まった?」
「一応。けど模試はC判定で微妙なんだよね…一之瀬くんは?」
「俺はねぇー」

そんなような事を肩を並べてぽつぽつ話した。この日の繁華街は流石に人が多く、通行人や一之瀬くんと時々ぶつかりながら歩いた。2人で気になった店を出たり入ったりして適当にぶらついた。目的は特にないけど、お互いに似合いそうな服を手に取って体にあててみたりした。寒さなんて吹き飛ばすくらい爽やかに明るく笑う彼を見ていると、なんだか私までぽかぽかした気分になる。

「ん、あっちからいいにおいがする」
「焼き菓子系?」
「違うよ、食べ物じゃなくて!」
「え?」
「あ、ここ!」
「あぁ、LUSHかぁ」
「なまえ知ってるの?」
「うん、まぁ」
「見てってもいい?!」
「いいよ、入ろ」
「やった!」

一之瀬くんが指をさした先にあったのは、女の子の間で人気の店だった。確かにこの店のいい香りは人を誘う何かがある。いらっしゃいませ、と綺麗なお姉さんが接客してくれるのを軽くかわしながら色々手に取って見たりしていた。一之瀬くんも自分の見たい物を見ている。お菓子の形をした甘いにおいのする石鹸や、化粧水や乳液も売っている。中学生には少し優しくないお値段なので気軽に手は出せないけれど、誕生日のプレゼントなんかではすごく人気だ。

「なまえ、見て見て!」
「泥パックしてもらったの?」
「うん!」

嬉しそうに駆け寄って来た一之瀬くんは唐突に右手の甲を見せてきた。その手はパックが塗られラップが巻かれた状態で、後ろでお姉さんがニコニコしていた。

「私も前やってもらったけどこれすごくつるつるのモチモチになる!」
「本当に?うわぁ、楽しみだなぁ…」

それから数分経った頃に店員さんに声を掛けられ、パックを洗い流してもらう一之瀬くん。自分で触って感動したのか、ほら!と言って笑って私の頬に手を押し付けた。

「うん、すごく気持ちいいね」
「俺のほっぺがこんな風にもちもちしてたら、なまえの手じゃなくて直接頬摺りするのに。」
「あはは、一之瀬くんらしいね」
「ほしいなぁ。けど結構するなぁ…」
「ねぇ、クリスマスだし、よかったらプレゼントさせてよ」
「えっ」
「?」

一之瀬くんは鞄からさっと財布を出して中身を確認する。少し悩んだ表情を見せてから、「俺もなまえにこれプレゼントしたい。よかったら半分こしない?」と言ってきた。なるほど、半分こ。その手があったか!

「うん、それいいね。じゃあ半分こしよっか!」
「それで、2人でもちもちの肌になって、いっぱいくっつこうね?」
「一之瀬くんったらまたそんな事言ってー」
「なまえだから言うんだよ?」
「はーいはい。あの、すみません、これ1つください」

店員さんに商品を渡すとお得意の営業スマイルでテキパキと進めてくれた。一之瀬くんはいつもこんな調子で、きっとみんなに同じ事を言っているんだろう。少しドキリとしたけど、顔には出さないように心掛ける。
レジで商品を受け取ると、一之瀬くんは隣で少しむくれていた。訳がわからずどうしたの?と聞くと何にもないと答えられた。そんな顰めっ面をしながら何もないはないだろうと思い困りながらも店を出る。再び人混みに出たところで、いきなり一之瀬くんは私の手を握った。

「!、一之瀬くん…?」
「ねぇ…………、……」
「え、なんて?ごめん、聞こえない!」

周りの音が大きくて一之瀬くんの声が聞き取れない。手を握られた真意もわからないし、本当にどうしちゃったんだろう。もういっかい、と言って耳を差し出すと、一之瀬くんは私の耳にそっと手をあてて、囁いた。

「いつになったら俺の言ってること本気だって気付いてくれるの?」

驚いて体を離して一之瀬くんの顔を見ると、いつもとは少し違う男の子の顔をしていた。



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