#2 失透

それは万事屋に届いた一通の手紙から始まった。

「おはようございます。はいこれ、銀さん宛に手紙が来てますよ。」

朝、出勤と共に万事屋のポストヘと投函されていた手紙や新聞を仕分ける新八は、何やら白い封筒をこちらへと差し出した。しかし、二日酔いでそれどころではない俺の身体は、ソファから1ミリたりとも起き上がれない。
くそ、一体どこのどいつだよ、こんなになるまで俺に酒を飲ませたヤツは。頭が痛くて何も思い出せやしねぇ。つーか、もう何も考えたくねぇ。持病の糖尿病がやや悪化気味で、楽しみにしていた週一のパフェをも食うなと医者に言われたからヤケ酒したことなんて、思い出したくもねぇし考えたくもねぇよコノヤロー。
視界に映る現実全てをシャットアウトするように、そこに置いてあるジャンプを開き顔にかぶせる。くそ、俺もコイツらと一緒でジャンプの主人公だというのに、何だこの大差は。冒険の旅とかエロ可愛いヒロインとラブコメみたいな、俺もそういうのが良かったぜ。なに二日酔いで金欠の主人公って、それの一体どこにニーズがあるってんだよオイ。

「ぱっつぁん、見ての通り俺ァいま険しい冒険の最中なんだよ。手紙なんてとても読める状況じゃねぇ。」
「いや、険しい冒険っていうか、どう見てもただの人生迷子の二日酔いにしか見えないんですけど。」

何だよ、人生もキャラ設定もこの際全部迷子にして、新しく作り変えればいいんだよ。二日酔いとかそういうの全然ない身体で、実は大金持ちの息子、毛髪の方はサラサラストレートな設定ぐらいが丁度いいだろ。よし、そうと決まればもういっぺん1話からやり直すぞ。

「って、丁度良いワケあるかァァ!!」

ちょっと何勝手にキャラ設定改ざんしようとしてるんですか!なんて激しい新八のツッコミが脳を揺らす。しんぱちくん、ちょっと今銀さん険しい冒険の途中だから大声やめてマジで。
「もう、本当にどうしようもない大人ですね。」なんて呆れた溜息混じりの呟きに、言い返す言葉もない。そんなことより、このまま二度寝でもするか……そう思いジャンプを閉じて、立ちあがろうとしたその時。玄関の扉が開く音と共に「ただいま帰ったネ」「ワン」と散歩組の帰宅を告げる音が聞こえてきた。
最悪だ、更に煩ぇ奴らが帰って来ちまった。二度寝のチャンスを失って項垂れていると、手を洗い居間へと入って来た神楽は新八の手元を指差して言った。

「新八、なにアルかその手紙。まさか私へのファンレターアルか?」
「ああ、神楽ちゃん。これは銀さん宛に届いた手紙だよ。」
「銀ちゃんに手紙書くなんて、世の中にも変わった奴がいるアルな。」
「……確かに、言われてみれば。差出人は……何て読むんだろ、これ。炭 大祇ルビさん、かな?」
「あ?なんだソイツ、聞いたことねぇな。」

二日酔いの酷い頭を片手で抑えながら、ガキどもの覗き込む手紙に視線をやる。

「もしかして、この手紙って依頼の手紙とかそういうんじゃないですかね?この封筒もやたらと上質な感じですし。」
「おぉ、久々の仕事の依頼アルか!?ひゃっほーい!これで毎日三食豆パンの生活からもおさらばネ!!」
「まだそうと決まったワケじゃないけどね。」
「んだよ、またどうせチンケな依頼だろ。何であれ、俺ァ今日は働かねぇって決めてんだよ。仕事の依頼なら明日だ明日。」
「いや、アンタ何言ってんですか!せっかく久々の依頼かもしれないのに!!」

いやだから俺の頭は今険しい冒険の最中なんだってば、セキエイコウゲンでこれから四天王だ!って感じなの分かる??仕事だからってマサラタウンまで帰って来たりはしないの。だいたい家には何だっけアイツ………剛力?怪力??がいるし、働き者のアイツらがいれば俺なんかいなくても別に良いだろう。

一体何の話してんだよ、とガキどもに冷たい目を向けられながらも、こちらに手渡された手紙を渋々受け取る。
やたらと手触りの良い封筒は、確かにタダの依頼の手紙ではなさそうだ。
蝋で固められた手紙の封を切ると、神楽と新八も興味深々な様子で俺の手元を覗き込んだ。
中には高級そうな和紙が一枚、二つ折りにして入っていた。早速それを開き、細筆で書かれた文字を声に出して読み上げる。

『坂田銀時様

初めまして。私は京都島原でとある茶屋を営んでおります、炭 大祇と申します。
この度は江戸で有名な何でも屋を営む貴殿に一つ大切な依頼があり、手紙を書かせていただきました。』

「ほら銀さん、やっぱり依頼の手紙ですよこれ!」
「つーか、なに京都って。どんだけ遠いところから依頼の手紙書いてんだよコイツ。」
「キョウトとか、シマバラって一体何アルか。美味しいもの食べれるアルか。」
「ああ、そっか。神楽ちゃんは江戸からあんまり出たことないんだよね。」

京都っていうのはね、江戸からずっと西の方にある大きな街なんだよ。そこには吉原みたいな有名な花街があって、そこを島原って言うんだ。
ふーん、とイマイチピンと来ていない神楽からは、上の空のような返事が返ってくる。そりゃそうだ。色街なんて女の、ましてはガキが楽しむような場所ではない。
それはさておき、依頼の内容は何なんだと、手紙を先へと読み進める。

『実は先日、私の茶屋で働くとある女性が里帰りをしてしまったのですが、それ以降、妙な男が茶屋の辺りをうろつくようになりました。
男は女性と知人のようでしたので、女性はもう島原から去ったことを伝えてあげました。
しかし、男はどうやら女性ではなく、小さな童を探しているらしく、見かけたら引き渡すようにと依頼されました。
それから暫くして男はうろつかなくなったのですが、代わりに、次は男が探していたであろう童が茶屋の周りをうろつくようになりました。
気になって童に声をかけてみれば、童は大層困った表情を浮かべ、とある女性を探していると言うのです。

江戸一番の万事屋 坂田銀時さん、お願いです。
三人を合わせてやっては頂けないでしょうか。
お世辞に彼らの身形はあまり綺麗なものではなく、店の客引きにも支障をきたしております。
三人が無事に会えたところで、もう茶屋の周りをうろつかないように言ってもらってもいいですか?

よろしくお願いいたします。

炭 大祇』


「…………おい、ぱっつぁん。こりゃ一体何なんだ。新手の嫌がらせか何かか?俺のことおちょくってんのかコイツ??」
「銀さん、落ち着いてください。」

何なんだよこの依頼内容、終始意味わかんねーよ…ッ!結局誰が何を探してんだよッ!何をすればこの依頼が完了するんだよッッ!
あまりにも謎の多い手紙の内容に、思わず不満を爆発させる。

「大体、なんで江戸に住んでる俺たちなんかに、わざわざご近所さん注意する依頼なんてすんだよ。面倒臭ぇな、オイ。」
「しかも僕たちこの間、吉原で散々暴れまわった所ですよ。次は島原なんて、実はこの業界では僕たち結構有名になってるんですかね。」

「困りましたね。」と眉をはの字に下げる新八と、ひらりと手紙を投げ捨てて再びジャンプを手に取る俺に、手紙をキャッチした神楽が問う。

「断るアルか、銀ちゃん?」
「花魁とか遊郭とか、関わると碌なことねって この間身を以て体験しただろ。」

クナイとかなんかいっぱい刺さっただろ、身体中に。地味に傷だらけになっただろ。おまけに物凄ぇ親父にボコボコにされて痛かっただろ。つい数週間前に起こった吉原の話を思い出せば、何とも言えない疲れが急に襲ってくる。

「でも銀さん、旅費も宿泊費も含めてこんなに沢山報酬をくれるみたいですよ。」
「ウッヒョーーー!酢昆布食べ放題ネ!」

手紙を覗き込んだ神楽が高らかに雄叫びをあげる。何なんだよ、どうせ人探しの報酬なんてたかが知れてるだろう。そう思いながら、手紙の端の方を指差す新八の指先を見た時、全ての気持ちがリセットされた。


「よし、てめーら旅の準備をするぞ。ターゲットを無事捕獲するまでは絶対帰らないつもりでいろォ。」




◇◆◇





依頼の封筒に同封されていた飛行船のチケットを使い、万事屋一行はここ京都に初上陸した。飛行船の港から見た京都の街は、小さいが江戸とはそんなに大差無い街並みだった。初めて西に来たのだとはしゃぐ神楽と新八を横目に、大きな欠伸をしながら港の外へと向かう。行き先は、島原。ここいらで最大規模の花街だ。
やたらと多く邪魔な天人の間を縫いながら歩いていると、港の出口付近には「万事屋様一行」というプラカードを持った美人がこちらに向かってウインクをしてくるのが見えた。
おいおい、さすが遊郭の経営者だなコノヤロー。こんな美人の無駄遣いがあるだろうか。美人のウインクを真似て恐ろしい面構えになっている神楽と、美人に鼻の下を伸ばす新八を引き連れ、ひとまず美人の後ろをついていき、遊郭まで車で大人しく案内されるのであった。



「ほんま、遠路遥々お越しいただきありがとうございます。」

ここまで案内してくれた美人が深々と頭を下げ先には、にたーっと貼りついたような笑みを浮かべ、中腰で挨拶をしてくる男がいた。この男が、今回わざわざ江戸に住む俺たちに胡散臭い手紙で仕事の依頼をしてきた炭大祇という男だという。
島原の茶屋こと、遊郭を営む男だというものだから、ごついエロジジイが出てくるんだとばかり想像していたが、実際に出てきたのはひょろりとした若い男だった。

煌びやかな花街は吉原と大差ないが、言うなれば、どこもかしこも人間ではなく天人の男がうろつき歩いていた。
客引きをする女たちを横目に、メイン通りを歩きながら炭大祇は島原について説明をしている。「この依頼が終わったら、ぜひ遊んでってください旦那。もちろんサービスしますんで。」なんて商売口調の炭大祇に「俺、積極的な女より、こう、恥じらいのあるMっぽい子で、コスプレとか結構してくれる子がいいんだけど、そういう子いる?」なんて訪ねれば、「ええ、もちろん。」と揃えている遊女について語り出す。

つきました。そう言って紹介されたのは、メイン通りの一番突き当たり、いうなれば湯婆婆の温泉施設のようなポジションに大きく構える遊郭だった。
え、何あれ。うそだろ。ここ絶対島原一高い遊郭だろ、明らかに庶民立ち入り禁止の高級遊郭だろオオオ。あんぐりと口を開ける神楽と新八。誰だよこんな所でウロウロ人探しする男と子供は!どんだけ勇気のある奴らなんだよ依頼の手紙の中の人物達はよォォオ!!
そんなこんなで若干パニックになる俺たちなど御構い無しに、建屋の中へと案内してくる依頼人。


「ささ。万事屋はんも疲れたはるやろうから、ひとまず今日はゆっくりしてってください。」

そう言って湯婆婆城、もとい高級遊郭の中に通され、ピカピカな内装の廊下を進んでいく。
美しい遊女たちが挨拶をし、「こちらになります。」と襖を開けてくれた先には、大量のご飯がテーブルいっぱいに敷き詰められていた。「どうぞ、お召し上がりください。」なんて食事を勧められるから、遠慮なしにテーブルを囲わせていただく。

「ウッヒョー、めっさ大量ネ!何から食べようか私迷ってしまうヨ!」

そういいながら、お腹が減っていたのだろう うちのエースである大食いチャイナ娘は、手前にあるものから次々と、まるでダイソンの掃除機の様に吸引力を維持したまま豪華な食事をそのブラックホールの中へと吸い込んでいく。
その食べっぷりを、先ほどと同じニコニコとした笑みを浮かべて見つめる依頼人。

貰える物は貰っておく。この万事屋の鉄の掟に従うべく、俺と新八も神楽に続いて料理に手をつけた。
途中、俺にお猪口を持たせた炭大祇は、艶々とした美しい日本酒を俺のお猪口に注いでいく。窓辺に腰を下ろし、外を見下ろせば、ここ八階からは花街の綺麗な景色が景色が一望できた。

「京都は殆どが天人の配下の街なんですわ。この天人発行の通行手形が無いと、人は島原には入られへんようになってるんです。」
「ふーん、通りで江戸より天人だらけなわけね。」

そう言って、通行手形とやらを3枚分懐から取り出し、俺たちへ手渡しする。

「…そういえばここにいる皆さん、廃刀令のご時世に刀を持って歩いてますよね。」
「おや、もしや万事屋はんらは京都は初めてですか?なら、これだけは言うときますけど、この島原から外に出る時はほんまに気いつけてください。不良浪士たちがあちこちで天人斬りをしてるみたいなんで、巻き込まれるやもしれませんよ。」


「特に、そこのお嬢さんは天人なんで、ほんまに容赦なく斬り掛かってくるやもしれませんよ。」

そう言って食べ物を無茶苦茶に頬張る神楽を視線に射留める男。その異様な視線に違和感を感じたのか、飯に夢中だった神楽は箸を止め、男を鋭く睨みつけた。
なんで出会ったばかりのほんの僅かな時間で、しかも戦ってもないこの間に、こいつは神楽を天人だと悟ったのだろうか。一瞬垣間見えた男の普通ではない気配に、新八も神楽もかなり気が立ってしまっている。
この雰囲気はまずいと感じた俺は、鼻に指を突っ込みながら平然を装い、窓の外を見ながら言う。

「なんつーか、京都も物騒な街になったもんだなァ。昔はもっと、平和にぱふぱふできる有名な街だったっつーのによ。」
「なっ!!平和にぱふぱふってなんですか!!つか表現が古いわ!!」
「卑猥ネ、お前が真っ先に斬られればいいアル。」

心無いガキどものツッコミをさらりと受け流し、一気に尺を煽れば、先ほどの怪しい雰囲気など一気に消し去った炭大祇はニコニコと俺のお猪口へと酒を注ぐ。

「そうなんですがね。まあ、攘夷戦争も終わったっちゅーのに、往生際の悪いサムライとやらが就活上手く行かんからって逆恨みしとるんですわ。」

よくある話でしょう?そう首を傾げて同意を求めてくる男。

「まあ、そのうち平和になるだろーよ。江戸も昔はそんな感じだったしな。」

面倒事には巻き込まれたくない、が、この男はその面倒事の爆弾の様な存在ではないのかと不意に思う。
依頼のためにこんな遠い地へと俺たちを連れてきたこの男は、高い飯や酒は出してくるが、肝心の依頼の話は一言も出しゃしない。何かを企んでいる様なその口調や表情が、個人的にはいけ好かなかった。

「ほな、明日からよろしゅ願いますわ。」そう深々と挨拶をし、この場をさっていった依頼人。
後ろ手に締められた襖を見つめれば、いつの間にかポツリと文句が溢れる。

「なんか胡散臭え野郎だな、あいつ。」
「怪しいニオイがプンプンするネ。女の勘アル。」
「まあまあ。情報によると子供の方はよくこの辺りに顔を出すみたいなので、明日はそこから探ってみましょう。」

一番大人な言葉でこの場を抑えた新八も、その表情からはあまりいい気持ちではないことが伺えた。




◇◆◇





明くる日も、その明くる日も、依頼について調査にあたった。しかし、収穫は皆無だった。
通行手形を使って花街の外へと歩を進めれば、柄の悪そうな天人達が物珍しそうにジロジロとこちらを見つめる。最初こそこの環境は極めて不快だと感じていたが、2日も同じ視線を感じ続ければ、自然と視線にも慣れてくる。

「…それらしき子供も男の人も、最近はどうやら来てないみたいですね。」
「最近どころか、そんな姿一度も見たことねえ奴ばかりだ。」
「そうネ。アイツ、私たちにタダ飯と寝床だけ寄越して一体何がしたいアルか。」

神楽の言う通りで、依頼人は毎日帰宅後に豪華な食事に風呂、寝床などを俺たちに用意する。一見天国の様な暮らしっぷりだが、あの胡散臭い野郎の見えない意図に、安安と乗っかかるほど生憎素直ではない。
意味わかんねーな。俺らはいつまでこの訳の分からない生活を続けなきゃ何ねーんだよ。「定春ぅ。今頃ババアの所の飯がババア臭くて、きっと泣いてるアル。」なんて訳の分からない言いがかりを口にして帰りたがる神楽。この間まで「私もついに京女の仲間入りネ。」なんてはしゃいでやがったのによ。

何も考えずに淡々と歩いていけば、気づけば狭い路地へと入り込んでしまっていた。

「おい、止まれ貴様ら。」

後ろから響いた低い声に、三人同時に後ろを振り返る。そこには、数人の刀を持った人間がバラバラと立っていた。
久しぶりにこんなに沢山の人間を見たわ、と呑気なことを考えるが、おそらくこの状況はその呑気な考えに相応しくないものなのだろう。男たちは声を荒げてこちらへと刃を向けた。

「その懐に持ってる通行手形、大人しく我々に渡してもらおうか。」
「さすれば同じ人間同士、命だけは助けてやらん事もない。」
「…あ?なんなのオタクら、そんなに鼻息荒くしちゃって。なに、これそんな興奮する奴なの?」

こんなんでハアハアできるなんて、オタクら変わった性癖してるねぇ。なんて手元にある通行手形をチラつかせて挑発してみれば、「んなわけあるかボケ!!」とキレッキレなツッコミが返ってくる。
間違えなくこの間胡散臭いアイツが言っていた不良浪士とやらがこいつらだろうが、刀はチラつかせど、どうもこいつらが斬りかかってくる様には見えなくて。

ここは大人しく撒いた方がいい気がし、逃げ足の第一歩目を踏み出そうとした時だった。
たまたま横を横切ろうとする天人に、男たちの一人が斬りかかろうとしたのだ。

「くそ、美しき我らの街を汚す天人め!!!」

男からは、先程まで全く見せなかった殺気が立ち込め、これは本当に斬り掛かっちまうと判断した俺は、その腰にある木刀を引き抜き男の剣を受け止める。

「そんな危ねぇもん、廃刀令のご時世にぶんぶん振り回すもんじゃねーよ。」

ひいっ!と短い悲鳴を挙げて逃げ出す天人を横目に、男の剣を力一杯推し、跳ね除ける。キィンと高い音とともに弧を描き飛んで行った刀は、サクリと地面に突き刺さった。
その刀が地面に刺さった瞬間、男たちは慌てて次々と抜刀する。

「貴様ら、なにゆえ天人の肩など持つのだ!それでも侍か!」
「別に天人の肩なんざ持ったつもりも負ぶったつもりもねぇよ。」
「ならば何故!…さては、あの女医の仲間だな。」

悔しそうに、だが、どこか悲しそうな表情でその一言を放った真ん中の男。何か訳ありなのだろう。
抜刀された刀に対し、応戦する視線を見せていた神楽と新八だが、その浪士の表情に不意に疑問を抱く。

「え、何?ジョイ?JOY?」
「ジョーイならズラのことアルか。」
「ズラじゃない、桂だ。」
「いや、全部違うからね、多分。女医だからね。と言うか、あれおかしいですね。なんか幻聴が……って、桂さん!!?」

すっと突然何処からともなく路地裏から現れた桂に、開いた口が塞がらない。
何で京都にまで来たってのに、こいつの何も珍しくない顔を拝まなければならないんだ!!どんだけ腐れ縁なんだよ!!つか本物かこいつ!?偽物じゃねーの!?

「偽物じゃない、桂だ。」
「だぁぁあア!いちいち俺の心ん中読むんじゃねーよ!」

よく見れば、ズラの横にはひょっこりと顔をだす、これまた馴染みのある白い化け物がいて。こいつは完全に本物だと確信する。
「桂さん!!」そう言って男たちは刀を納めてズラの周りに集まり、頭を下げる。え、何。こいつ、まさかあの無意味そうなまいう棒の攘夷活動を全国展開してんの?それに何で人々が付いて来るんだよ。
よく分からず混乱している俺たちに向かって、ズラは清々しい笑みを向けて言った。

「銀時、貴様も京都解放のために一肌脱いでくれる気になったのか!いや、俺は嬉しいぞ、銀時。かつての戦友が2人もこの京都に揃っておるとはな!」
「え、なに、最初っから最後までなに言ってるかわかんないんだけど。」
「惚けるでない、銀時。お前も、この京都の攘夷戦争を終わらせるため、ここまで来たのであろう。」

いやあ、持つべきものはやはり友だ!そう言いながら俺の手を熱く握りしめ、目を輝かせるズラ。
何なんだこいつは一体、つーか手汗だくで気持ち悪いわ、お前。

てか。今なんて?

「え、何?…攘夷戦争?」

目が点になる俺らを差し置き、ズラは「お前たち、紹介しよう!こやつは俺と共に攘夷戦争を戦った、あの白夜叉と恐れられる男、坂田銀時だ!」なんて自己紹介を始める始末。
おお!そうだったんですか!これは悪いことをしてしまった!と謝罪を受けるが、それどころではない。説明が全くないまま、淡々と話が進んでいき、気づけばズラと一緒に遠く東へと向かっていた。

「来い銀時。我らの同志を紹介する!」

いや、同志とかじゃなくて、もっと大事なもの紹介してくれ。






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -