「ねぇ、何で昨日帰っちゃったの?」

怒ってる訳でも無く気分が悪い訳でも無く、だからと云って悲しそうな感じでも無い。
普通に、そう聞かれた。

あれだけ待たせておいて、何で帰ったかを聞くなんて。
強いて言えば、あんたが来ないから。

そう答えれば終わった筈なのに、如何せんタイミングが悪かった。
移動教室の際にいきなり問い掛けられても答えられないし、ましてや反応すら難しい。

結局その場に居合わせた他の生徒から広まった話は、放課後になる頃には色々な可能性を孕んでいた。


「…で、何の用です」

「あんた、今度は総司?」

「人の男に手出しといて、まだ足りないとかどんだけ飢えてんの」

「ほんと信じらんない」


こんな時ばかりはタイミングが合う様で、私も信じられない展開となった。

――在り来り過ぎる。
今日も届いた沖田からのメールに断りの返信を送ろうとした時、何人かの女子に声を掛けられた。

ついて来ればこうなる事は分かっていた。
だけど断ったからと云って、こういった呼び出しは明日も明後日も続く。なら早目に済ませておくに越した事は無い。


「なんか言ったらぁ?」

「…沖田君と私が付き合うと、何か不都合でも有るわけ」


途端、如何にも作り上げられたその顔が歪む。

だってそうでしょう、貴女達だって沖田の彼女。それは分かっている事でしょう?

その中に私が一人増えたところで、何の変化が有ると言うの?
単純に私を嫌っているのなら、納得出来る。


「あんたっ…自分が選ばれたからって調子乗ってんじゃ無いわよ!」


だけど、その言い方は些か引っ掛かるよね。







その後は言うまでも無く、頬を叩かれたり突き飛ばされたり。

まだ可愛い程度だと思うけど、私が嫌っていた沖田のスタンスが影響した面倒事に自分が巻き込まれたのは癪。


「あれ、こんな所に居たの?」

「……ふざけんな」

「だってあそこで僕が出たら、もっとややこしくなってたでしょ?」


風を切ったのは私の片手で、その頬を叩いたのも私の片手。

沖田は視線すら此方に寄越さず、そのままだった。

助けて貰えなかったのが嫌だったんじゃない。今の言葉が気に障ったんじゃない。

単にこいつが嫌いだから。嗚呼、腹が立つ。


「自分の女くらい、ちゃんと躾けときなさいよ」

「…無理だよ」

「……本当、あんたって面倒臭い」

「だってほら、こんな風に爪を立てられてばかりじゃどうしようもない」

「私は違うでしょう。」

「君が自分の彼女を躾けろと言うなら、それは自分の事をって意味だよ」


***ちゃん。

何時もと変わらない笑みなのに、向けられた視線には背筋が寒くなる。

今呼ばれたのは、間違いなく自分の名前。

でも思わず目を逸らしてしまったそんな声、…私は知らない。


2011/06/07

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