翌日、教室に足を踏み入れるなり友人である彼女が飛び付いてきた。力強く肩を掴み、無言のまま私を睨み付けている。
どうしたのかと瞬きを繰り返す事しか出来ない私をその場から引き離し、連れて行かれたのは…屋上。
「…なあに、まさかあんたまで私に付き合ってとか言うの?」
着いてからも口を開かない彼女に冗談を投げ掛けてみるが、やっぱり答えは無い。
本当に何なんだと眉根を寄せ溜息を漏らしてみる。と、漸く上げられたその顔は珍しく歪んでいた。
「…ねえ***、あんた何のつもりなの」
「何が?」
「……沖田 総司と付き合ってるって、本当?」
「…本当。」
彼女は繰り返す。何のつもり、と。
確かに前々からあいつとだけは付き合いたくないと言っていたし、こう言われるのは仕方無い事だと思う。
付き合いたくない理由も、恋人に対するスタンスだけが全てじゃない。あいつに関する話や噂は良いものばかりじゃないし、それに、
「…あたしをからかってんの?それとも…馬鹿にしてんの?」
沖田は、彼女の想い人だから。
この学校に入ってからの三年間その気持ちは全く揺らがなかったし、それくらい好きだって事は知ってた。
なのにどうしてOKしたのかと問われれば、私はそれに答えられない。どうしてだろう。
――そんなの、答えが無いからに決まってる。
答えなんて、特別な理由なんて、無い。
「どっちでもないわよ」
「じゃあ何、あたしにそれを見せ付けたかったの?あたしなんかじゃ不釣り合いだって、思い切り笑いたかった?」
ああ、面倒臭い。こんな事になるなら、嘘でも付き合っていないと言うべきだった?
――否、それもそれで後から面倒臭い事になる。
でも今考えるべきはそんなことじゃなくて、目の前で静かに怒りを燃やした瞳で私を睨み付けるこの子の事だ。
「…ねぇ、私が誰かと付き合う理由なんて解ってるでしょ」
「だからこそだよ。なんであれだけ嫌ってたような奴と、わざわざ付き合う訳?」
「付き合ってって言われたから」
「違う!あたしは、あんたに聞いてんの。なんであんたが断らなかったのかを聞いてんの!」
本当に、面倒臭い。
ねえ…特別な理由は無い、じゃ駄目なの?
2011/06/05