今まで付き合って来た人の中で、失敗したとか後悔したとか、そういうのは一度も無かった。
中には気が合わない人も居たけど、そういう時も有るのだと片付けられる程度のものだったから。
でも今回ばかりは、OKする前にそういった考えがぐるぐると頭の中を巡る相手。
だって、相手はあの沖田 総司なんだもの。こいつとだけは無いだろうってずっと思っていた。
なのに今私の名前を呼んだのは確かに沖田 総司で、返事をした訳でも無いのに笑みを浮かべたそいつは此方を見つめている。
「………なに」
「ちょっと話が有るんだけど、良いかな」
沖田が私に付き合ってと言う考えは、流石に短絡過ぎやしないかと思う。
でも今まで一度も話した事のない相手が私を呼び出す理由と云えば、それしか思い浮かばないのだ。
回りの視線を一身に受けながら立ち上がり、彼が立つ方へと足を進める。
それを見た沖田は表情を変えぬまま踵を返し、何処かへと歩き出した。
黙ってその背を追い掛けた末に辿り着いたのは屋上。定番というか、何と言うか。
「いきなりごめんね」
「用件は?」
「冷たいなあ。本当に君、そんなんで誰とでも付き合えてたの?」
誰とでも、なんて。あんたと一緒にするなと、出かけた言葉を飲み込む。
フェンスに背を預けて態とらしく肩を竦める様は、確かに格好良い。見て呉れだけは。
何も言わない私にそれ以上構う気は無いのか、沖田は本題とばかりにその体勢のまま腕を組んだ。
「まぁ、用件は何だか分かってると思うけど」
「なんで…わざわざ私なの」
「うーん…疲れちゃったんだよね。」
「なにが」
「自慢の彼氏で居ることが?」
疑問符を付けられても、私はそれに返す言葉を持ち合わせていない。
だからこそ無言でいたのに、疑問を抱いたと勘違いされたのか沖田は改めて口を開いた。
「格好良くて、運動出来て、勉強も出来る。彼女である自分には優しいし、そんな僕の隣に居られる事がステータス」
「そんなもんなんでしょ?僕って」
「確かに運動は出来るけど見た目が悪いとか、勉強出来るけど運動はてんで駄目とか、優しいけど何のアクションも無いとか…そんなのよりは、ある程度自分好みのパーツが揃った奴の方が良いよね」
いきなり語り出した彼はフェンスから背を離し、此方へと歩み寄って来る。
緩やかに流れる風に舞う髪の隙間から見る沖田は、相変わらず笑顔だ。
「でもさ、自分が好きな相手と付き合って何が楽しいんだろうね。それに見合った気持ちなんて、全く向けられないのにさ」
「……何が言いたいの」
「だから、疲れちゃったんだよ。そんな人達の面倒見てあげるの」
「なら突き放せば良いじゃない。」
「それは無理かな。だってほら、そんな事して粘着されたりしたら困るし」
来る者拒まず、去る者追わず。
人と付き合う上でこのスタンスを持つ沖田が、私は嫌いだった。
誰か一人を相手にそうするなら良いけど、複数の女子を相手にはっきりしない関係を幾つも作り続けるのには嫌悪感すら抱く。
傷付け合ったり潰し合ったり、力ずくで身を削ってまでこいつの隣に居たいと思う奴も馬鹿だと思う。
それでもやっぱり、そういった事に対して責任や罪悪感も抱かず、それどころか目も向けようとしないこいつの態度が嫌い。
付き合う理由は私と似てるかもしれないけど、こいつは誰でも良いのであって、私はその人とでないと駄目なんだ。
自分のやっている事を正当化したい訳じゃない。ただ、誰か一人を考える事が出来ない沖田が判らないだけ。
「そこで、君なんだよ」
「別に私じゃなくても…」
「駄目なんだ。他の子じゃ」
「どういうこと?」
「だって君、僕の事嫌いでしょ」
沖田は、笑う。
器用に口端だけを持ち上げて。
2011/05/16